2024年4月25日無料公開記事洋上風力発電 注目設備探訪

洋上風力訓練・地方創生の拠点に
日本郵船ら、秋田に「風と海の学校」開所

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CTVの操船訓練。廊下側の窓を敢えて大きくとり、生徒から見られるように

 日本郵船と日本海洋事業が開設した洋上風力発電向け訓練センター「風と海の学校 あきた」がこの4月に秋田県男鹿市内で開所した。洋上風力発電に関わる技師や船員、海事産業の人材開発の拠点となる。産官学連携の取り組みで、洋上風力の先進県である秋田に新たな産業クラスターがつくられる起点の1つになると期待され、次世代を含む海洋人材の確保、雇用創出、人流の活性化によって地方創生へとつなげる取り組みにもなる。

 秋田は国内で洋上風力が先行する地域の1つ。洋上風力発電は地元密着かつ長期のプロジェクトになり、日本郵船は2022年2月に秋田県と再生可能エネルギー事業の推進や人材育成などに関する包括的連携協定を締結するとともに、同年4月に秋田支店を開設した。地元関係者と持続可能で安定した事業環境を築き発展させていくことを意図した。包括連携協定を具体化する取り組みの1つが訓練センターの開設。秋田県をはじめとする北日本の洋上風力と海事産業の人材開発を担うことで、洋上風力人材の需要に応える。
 24日に現地で行われたメディア公開で、日本郵船の下村達也秋田支店長は「秋田県との連携協定の締結から2年強が経つ中で今月開所に至った。再エネへの期待は、脱炭素、国産エネルギーの安定供給、産業を支えるベースとしてのエネルギー確保の3つがあり、当社としてそれにいかに応えていけるかを考えたうえで進めた取り組みだ。強力なパートナーである日本海洋事業と共に進め、そのプロセスにおいて、資源エネルギー庁の補助金をいただきつつ、秋田県、男鹿市、地元の関係の皆さまの絶大な支援をいただいた」と振り返った。日本海洋事業の横田哲也常務取締役は「単なるトレーニングセンターではなく、人材育成を取り進めていきたい」と話した。
 「風と海の学校 あきた」は、男鹿半島にある秋田県立男鹿海洋高等学校の実習棟の一部やプール、それと隣接する旧男鹿市立船川南小学校の一部を活用して整備された。日本郵船が7割、日本海洋事業が3割を出資して今年3月に男鹿市に設立した秋田オフショアトレーニングセンター(横山勉社長)が運営会社となる。
 訓練コースは、資源エネルギー庁の補助を受け、洋上風車で作業する技師向けのGWO基礎安全訓練、船員向けに有事対応を想定した生存訓練や消火訓練といったSTCW基本訓練、海外製の最新型操船シミュレーターを使ったCTV(洋上風力作業員輸送船)など小型船の船員向け訓練の3つ。
 国際風力機関(GWO)が定めたGWO基礎安全訓練は、作業員が風車への移乗やナセルからの緊急脱出など風車で作業する際の安全性を高める知識や技能を学ぶもので、新規コースは4.5日、2年ごとに必要となる更新のためのコースは3日。このうち洋上風力作業で必要となるシーサバイバル訓練は最大水深10mの室内温水プールを用いて行われ、その他応急手当など4つの訓練は提携する協力企業の東北電力リニューアブルエナジー・サービスが運営する「風力トレーニングセンター秋田塾」で行う。シーサバイバル訓練のみを1日で受講することも可能。
 また、STCW訓練は新規コースが4日、5年ごとに必要になる更新コースが2日。洋上風力関連以外の一般商船の船員も受講できる。コンテナ内で消火訓練を行うなど、近隣の人の生活・環境に配慮している。
 独自のプログラムであるCTV操船訓練は、船体を風車の支柱に押し付ける挙動をリアルに再現できる操船シミュレーターを用いる。
 すでにSTCW訓練とCTV訓練は開始され、県内外の船員らが受講している。GWO訓練も5月半ばから開始される予定だ。洋上風力産業が国内で本格的に動き出す2030年頃をめどに年間1000人程度の訓練修了生の輩出を目指す。

■人の流れ生む呼び水に

 「この訓練センターはいわゆる“箱”ではなく、“人の流れ”もつくってしまおうという取り組みになる」と、プロジェクトマネージャーを務める日本郵船の川上哲治グリーンビジネスグループ調査役(船長)は強調する。
 この訓練センターの特徴の1つは、学校内に置かれていることだ。洋上風力などのビジネスの現場で必要になる技術をつける場であることはもちろん、洋上風力や海事産業の人材の将来のなり手の増加・育成につなげたいという思いもある。それは、シミュレーター訓練室の廊下側の壁に大きな窓を設け、シミュレーターやプロの技師や船員の訓練の様子を生徒や近隣の人などが目にできるように設計したことに表れている。今年度から生徒にもシミュレーターを開放する予定だ。
 「この訓練センターは生きた学校、生徒が実際に使っている学校のなかにある。そこでプロの船長や航海士が訓練しているのを生徒が見ることができる。生徒にとってはこのような世界があるのだという出会いの場になり、将来、洋上風力の仕事に関心を寄せる人が出てくるだろう」(川上氏)。
 国内に洋上風力人材を養成する訓練施設が増えてくる中、海事思想の普及や海洋人材の増加、人の往来といったさまざまな効果を生む起点とすることを、差別化の要素とする。

シミュレーターを用いた独自のCTV操船訓練

GWOのシーサバイバル訓練で用いる室内プール

STCWの消火訓練

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