2023年7月25日無料公開記事内航NEXT 今治内航船主若手経営者座談会

<内航NEXT>
船員定着へ船内環境・条件など課題
《連載》今治内航船主若手経営者座談会④

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座談会出席者(社名五十音順、カッコ内は所属地区)
浅川汽船・宮政彰社長(今治)、朝日海運・三宅恭介取締役(波方)、東汽船・越智崇社長(今治)、井村汽船・井村省吾専務取締役(今治)えびす商会・野間裕人代表取締役(伯方)、木村汽船・木村利幸専務取締役(波方)、金力汽船・多田憲司社長(伯方)、錦城海運・田窪昭彦代表取締役(今治)、幸洋汽船・藤澤賢宏取締役(今治)、大東汽船・馬越康友取締役(伯方)、進宏海運・大木祐輔専務取締役(波方)、東豊汽船・武内源太郎代表取締役(波方)、明運汽船・赤瀬慎取締役(伯方)

<司会:日刊海事プレス副編集長 深澤義仁>


 — 若手船員を育てていくうえでの課題は。

「若い世代の優先順位は、船内環境が一番で、その次が休暇、最後が給料だと思う」

「若い船員だけで船を動かしているので、何かトラブルがあったときの対応が難しい。これから経験を積んでもらいたい」

「若い船員とベテラン船員の間には世代のギャップが相当あるが、ベテランは孫を見るような目で可愛がっていって、未熟なところがあっても多少目をつぶってくれる余裕がある」

「当社は全国から船員を募集しているが、採用しても船員の仕事で他社に転職するということは普通にある。一方で年配の船員の方々はセカンドキャリアが多いので、雇ってもらっているという恩もあるし、社会人はどこにいってもそれなりに大変という意識があるので、すぐにやめる人はいない」

「新卒の子たちには、船員不足もあり、嫌なことがあったらすぐ他に行けるという意識があると思う。その気持ちも分かる。ただ、何回か転職して仕事はどこも一緒だなと分かってくると落ち着いてくる。こういったことから新卒採用を控える船主もいる」

「今の学生は一人暮らしの経験が少ない。499型貨物船はほとんどが自炊で、その方が自分の好きなものが食べられる良さもある。タンカーは司厨士が乗っていて食事が出てくるが、今の学生はそっちの方がいいらしい。我々は好きな時に好きなものを食べたいが、仕事が終わってから食事をつくりたくないというのが今の学生の考え方だ」

「貨物船の新卒採用はハードルが高い。学生はイメージで大型船に乗りたいと考えるため、タンカーなどを選ぶ人が多い。そして学校の先輩がタンカーに乗っているので、タンカーしか知らないという学生が多い。貨物船の話を聞ける先輩がいない」

— 若手船員の定着率を高める取り組みは。

「10年以上前から新卒を採用しているが、最初はほとんど定着しなかった。ただ、この10年で残った数人が新卒の子の気持ちを汲み取りながら育ててくれて、そのお陰でここ5年は半分が残っている。去年は新卒を5人採用してこのうちの4人が残り、その前の年は4人入ってこのうちの3人が残っている。年配の船員も、新卒はだいたいこんなものだと15年かけて理解した」

「やめる人がいるのはどの業界も一緒だが、船はどこに行っても仕事が同じなので、転職しやすい。せっかく採用したのにすぐにやめてしまうと、最初はまたかと残念に思っていたが、今は去る者は追わずと割り切って考えることにしている」

「当社では新人が乗船する際は、船長や機関長の教育はもちろんのこと、できる限り私が甲板部、弟が機関部担当で一緒に乗船して機器の取り扱いや荷役などをひととおり説明している。未経験者の場合、仕事や共同生活などに慣れるのが大変だからだ」

「人口減少と働く環境の多様化で、職業の選択が自分の幼少期とは大きく変わった。今の時代に内航船員に呼び込むには、未経験者からでも挑戦できる環境づくりが重要だと思う。STCW訓練や乗船履歴の要件を少し緩和するといったことに取り組んでもらいたい。また、内航船員の給料面や休暇面の魅力をもっとネットなどで発信していければいいと思う」

「関連する業界の皆で、多様な広報活動、積極的な雇用育成、定着させるための環境づくりに取り組む必要があると考えている。特に定着させるための環境づくりについては、船内居住環境と労務環境の向上のほか、船主によって千差万別な雇用条件(休暇サイクルや給与条件、福利)があり、これら全般を向上させていくことが必要と感じている」

— 2022年4月にスタートした船員の労働時間管理強化への対応状況は。

「本船と会社がオペレーターと連絡を密にとりながら前広に船員の労働時間の相談を行っている。記録時に上限の時間を超えた場合はオペレーターにメールなどを送るようにし、その際のやりとりはすべて記録をとるようにしている。船員労務・船舶管理関連の書類は少しずつクラウド化している。業務効率化の観点でDXの推進を期待しており、船陸間通信の強化も必要だと考えている」

「船員の働き方改革への対応を含めて、現在内航業界は厳しい状況にあると思う。今後オペレーターとの協力が益々重要になるだろう。船主全体で交流や情報交換をしながら業界を発展していければいいと思う」

「船価高・物価高に伴う運航コストの見直しと適正化、船員が安心して働ける船の研究と建造推進が課題だ。船員が安心して働ける船とは、決して革新的なものでなく、今現実にあるものの中から取捨選択し、新しくて良いものを少しずつ加えていくことから始めるという意味だ」

(続く)

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