2024年5月7日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊽
世代に合わせた方法で船員教育
アジアパシフィックマリン・伊東社長

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(左から)前川代表取締役専務、伊東社長、岩坪常務執行役員

 太平洋セメントのセメント輸送を主力事業とする内航オペレーターのアジアパシフィックマリンは船員の定着率をさらにアップさせようと教育方法を工夫している。若手には動画、ベテランには外部講習といったようにそれぞれ馴染みやすい手法を採用。また、全社で取り組む目標を長年にわたり掲げて各種事故を減少させている。伊東純一社長に船員の確保・育成に加え、船隊整備の方向性や新燃料対応などについて聞いた。
 インタビューには伊東社長に加えて、前川修一代表取締役専務、岩坪剛史常務執行役員が同席し、補足した。

■重点目標掲げ事故減を実現

 — 現在の船隊についてお伺いしたい。
 「運航船は16隻。セメント船が12隻、石炭灰運搬船が1隻、石灰石運搬船が1隻、石炭運搬船が2隻だ。石炭運搬船は日本郵船が保有するJERA向けの“うしお”と“しらなみ”で、2022年と2023年にそれぞれ竣工した。また、日鉄鉱業向けの石灰石輸送船“鉱翔丸”と、電発コールテックアンドマリーン向けの石炭灰輸送船“竹原丸”の2隻を管理しており、“鉱翔丸”は日本マリンが、“竹原丸”はNSユナイテッド内航海運が運航している」
 — 今後の船隊整備の方針は。
 「具体的な新造船の計画などは現状ではないが、状況を見ながら模索しているところだ。物流の2024年問題などで内航海運が脚光を浴びているところだが、物流業界全体で課題も多い。状況を注視していきたい」
 — 主要貨物であるセメントの荷動きはどうか。
 「2024年度のセメントの国内需要の見通しは3500万トンで、ここ10年で1000万トンほど減少しているものの、インフラの老朽化による更新・補修などは必ずあるので需要は底堅いと見ている。今後も荷主である太平洋セメントとともに動向を掴み、それに合わせた輸送を展開していく」
 — 船員の確保・育成については。
 「現在90人ほどの船員を抱えており、平均年齢は38.7歳だ。業界平均と比較すると平均年齢は低く、若手を定期的に採用できている。今年度も水産高校や海技教育機構の学校から新卒者が10人入社した。しかし、船員の確保・育成には他社と同様に苦労している。船員の定着率をさらに向上させるために近年特に力を入れているのがハラスメント防止教育で、世代に合わせた方法を取っている。例えば、若手には『アニキ船長』でお馴染みのアイテックマリンの教育動画を視聴してもらい、船長などベテランには外部のプロによる講習や研修で学んでもらっている」
 「また、安全対策では『6ゼロ』という重点目標を掲げている。具体的には、①労働災害ゼロ②環境汚染ゼロ③海難事故ゼロ④重大故障ゼロ⑤輸送品トラブルゼロ⑥コンプライアンス違反ゼロ—の全てを達成しようという内容だ。数年前から、これらを達成するために年間計画を作成して安全推進会議で進捗を確認し、レビューするといった流れでPDCAサイクルを回している。残念ながら全てゼロになった年はまだないが、事故などの件数は減少傾向にあり効果を実感している。社員の間にも『6ゼロ』がしっかり浸透しているのを感じる。今後も目標達成まで続けていきたい」
 — 船員の働き方改革の取り組みはどうか。
 「荷主と密にコミュニケーションを取りながら労働時間を順守している。船の運航で最も大変なのは入出港で、短い航路が続くと船員は休めない。そのため、当社では短距離と長距離の航路を織り交ぜて運航している。こうした取り組みには荷主の理解が欠かせず、お互いに福岡と東京を行ったり来たりして顔を合わせながら情報を交換している。健康管理についても、産業医による面談など順調に進めている」
 — 脱炭素への対応は。
 「省エネ船の建造に取り組んでおり、国土交通省の『内航船省エネルギー格付制度』で格付を付与された船舶を3隻、自社運航している。新燃料に関する動きが海運業界で出てきているが、燃料タンクのスペース確保などは小型の内航船では対応が難しい。しばらくは今ある技術を組み合わせた船で減速航海を心掛けてCO2(二酸化炭素)排出を抑えたい」
 「昨年はバイオ燃料の試験運航に協力した。バイオ燃料混合油を“海門丸”に供給して運航したが、問題なく走れた。環境にやさしく興味はあるが、経済的合理性や供給体制を考えると本格導入は先の話になるだろう。動きを見ながら新しい技術を取り入れていきたい」
(聞き手:伊代野輝)

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