2024年7月17日無料公開記事内航NEXT
<内航NEXT>
24年問題は陸送業と両輪で課題解決
井本商運・井本社長、内航船員不足が深刻
-
600TEU型船“なとり”
昨年、創立50周年を迎え、内航最大の1000TEU型コンテナ船も投入して船隊を強化した井本商運。井本隆之社長はインタビューで、「内航船員不足が深刻で、この1年は特にひどい」と危機感を示し、そのために係船している船もあることを明らかにした。「物流の2024年問題」では、陸送業と両輪となって、「トラックとは二人三脚でいきたい」との課題解決に臨みたい姿勢を見せた。
■1000TEU型第3船は自社仕様
— 昨年、内航として国内最大となる1000TEU型コンテナ船2隻を就航させた。1年経って状況は。
「1000TEU型船は、外航船社が発注したものを当社が購入したこともあって、外航仕様の船舶を内航船として使うことになった。予想外だったのは、離着岸でほぼ毎回タグボートを使うことだ。バウスラスターや舵の能力が、それより一回り小さい600TEU型船よりも足りないので、タグボートを使わざるをえない。今年11月に旭洋造船で竣工する1000TEU型第3船は当社が発注したので、バウスラスターも舵も強化した設計だ」
— 船型も同じか。
「船型は既存の2隻とは変える。船首の形状はデッキ上にカバーをかけて、船尾は航空機の後ろのようにすぼめるような形で、風の抵抗を減らす船型だ。船尾の形状を変えるので積載量が50TEU分減るが、燃費効率を高めて省エネを図ることになる。それで経産省から助成対象となった」
— 1000TEU型船を日本海航路に投入した。
「1000TEU型船を就航させて船隊増強し、日本海航路の拡大を図ったが、2024年問題で海上輸送を利用しようという流れは、まだ本格化していなくて、貨物も予想したほど増えてはいない。当社全体では、22年の取扱貨物量は69万4000TEUと過去最高だったが、翌23年は前年比5%減の66万3000TEUとなった。国内生産を中止したメーカーの輸送分もあって減少したが、それでも貨物量としては過去2番目だ」
「日本海航路は、神戸と日本海西側の境港・舞鶴・敦賀とは直航で結んでいる。東側の秋田・新潟・直江津・富山は北九州ひびきでトランシップして神戸に持ってきている。東側とも直航配船を検討したいが、船を造っても船員がいない」
— もう1隻の1000TEU型船の配船は。
「苫小牧/仙台/京浜航路に就航していて、これはそのままやっていきたい」
— 先頃OOCLと連携して、十勝・釧路/京浜港、小名浜/京浜港のフィーダーを、100〜200TEU型船を投入してサービス開始した。
「北海道で利用される牧草の輸入を京浜港から輸送して十勝港で揚げる。帰りに農産品を十勝港から関東へ運ぶことで、北海道と関東でコンテナのラウンドユースを展開している。それまで輸入牧草は、釧路や苫小牧で揚げてからトラックで陸送していた。しかし北海道は広くて、陸送距離も長い。トラック・ドライバー不足もあって、直接十勝港を使うことになった」
■トラックと二人三脚
— 2024年問題で、海上輸送へのモーダルシフトはまだ本格的ではないとのことだが、関連した動向ではどのような点に着目しているか。
「トラック・ドライバーが以前やっていた荷物の積み下ろしを、最近は受発注する荷主側が行う傾向が出ている。いままではトラック側の過剰サービスだった。コンテナ車の場合、ドライバーが荷物の積み下ろしをすることはない。コンテナを使うことと変わらない荷役環境となるため、コンテナを使ってみようという動きが出てくる見ている」
「私はトラックの荷物を取ろうという考えはない。トラックと二人三脚でやっていきたい。長距離輸送は当社のコンテナ船が運び、港のターミナルから目的地の荷主のところまではトラックに運んでもらう。それを何回転かしてもらい、ドライバーの時間外労働時間を超えないようにしてもらえればと思う。早く届けないといけない荷物は長距離トラックを使い、急がない荷物は海上と陸上を組み合わせた輸送がいい」
「それに当社のコンテナは、倉庫がわりとして利用することも可能だ。積地側、揚地側で各1週間フリータイムをとっており、保管料は2週間無料だ。コンテナは段積みすることもできるため、蔵置場所に広いスペースを必要としない。コンテナ物流は効率的な物流として世界でもスタンダードとなっている。ぜひ、内航コンテナ船を利用してほしい」
■船員不足で係船
— 内航の船員不足を指摘していたが、内航業界でもその声が多い。
「昨年、船員不足で600TEU型1隻を係船した。船員不足に加えて取扱量の減少もあり、日本海航路の1000TEU型を係船して、代わりに係船していた600TEU型を今年4月から投入した。内航の船員不足は深刻で、この1年は特にひどい」
「船員不足でいま何が起こっているかというと、当社が用船している内航船主で船員を集められなくなったところが『海外売船したい』と言ってきたことだ」
— 船員不足がなぜ海外売船につながるのか。
「当社のコンテナ船は、京浜港や阪神港で外航船が着くバースごとに貨物の積み下ろしをしている。だがバースが分かれているため、同じ港でいくつものバースに着くバースホッピングになっている。横浜港は1日に3バースに接岸することもあり、船員にとっては作業も多い。内航コンテナ船は船員から忙しい船種と見られている。それもあって当社が用船している船主が、マンニング会社から船員の契約継続は厳しいと伝えられた。船員を配乗できないので、係船しようと思うと毎月600万〜700万円かかる。その船主は当社に買船してほしいと言ってきたが、当社も船員がいない。それで4月から係船するとブローカーでうわさになり、中国筋が『買いたい』と言ってきた」
「当社の船は海外でも人気だ。中古船マーケットで、管理が行き届いた質の高い中古の小型コンテナ船といえば井本商運の船と知られている。その船主も売船に傾きかけたので当社が購入した。運よく船員を出してくれるマンニング会社があったからで、6月から運航再開した。だが、それも氷山の一角。数社の船主が『船員がいないから買ってほしい』と言ってきている。いまは、船を買って他に引き受けてくれる内航船主を探している状況だ」
— 船員は現在何人か。
「約70人だ。以前はマンニング会社からだけだったが、2017年に新卒3人を採用し、毎年10人ぐらいが入社して自社船員が増えていっている。その最初の船員が昨年、1等航海士、1等機関士になった。ここまで6〜7年かかった。これから5年ぐらいかけて、30歳前後で船長、機関長になってもらいたい。ドライバーが大型免許をとってトラックを運転できるまでと比べると、船員育成は10年と長くかかる。船員免許をとるのにも期間がいる」
— バースホッピングの話があったが、京浜港や阪神港で取り組まれている港湾整備については。
「横浜港は南本牧埠ふ頭コンテナターミナルが4バースを一体運用することになってよかった。神戸港はポートアイランドのPC13−17が連続一体運用できるように整備が進められている。横浜川崎国際港湾会社、阪神国際港湾会社をはじめそれぞれの関係者が取り組んでくれて、利用している当社としてもありがたいと思っている」
■EV船をモデルケースに
— 今後の船隊整備計画は。
「今年11月に1000TEU型第3船が就航し、来年は小池造船海運で400TEU型船が竣工する。その次に、マリンドウズと連携して次世代のゼロエミ内航コンテナ船を就航させる。国内初の交換式コンテナ蓄電池を使う。499総トンで、約200TEU型だ。三浦造船所で27年1月に竣工し、広島/神戸間で実証実験を行う。両港で陸電供給設備が整備される。これがモデルケースとなれば、カーボンニュートラル対策として船舶はEV船に変えていきたい。そのためには他の港にも陸電設備がいる」
「EV船は見た目を格好よくしたい。内航の船長になりたいという学生が増えてほしい。学生が船員に憧れるような職場をわれわれは考えないといけない。魅力ある職場にし船員を育成していく。17年に入社した最初の船員は、学生時代に球状船首の“なとり”を見て、乗ってみたいと言って入社した」
— 内航コンテナ船をコンスタントに発注しているが、造船所の船台がなく先物になっている。
「船台は27〜28年しかないと聞いている。EV船を建造するにあたって、先日、中国のバッテリーシステムを見学に行ってきた。中国では、欧州向けに小型コンテナ船を建造する造船所も出てきているとの話も聞いた。当社も船齢17〜18歳のコンテナ船が何隻かあって20歳がもうすぐだ。リプレースを考えないといけない」
(聞き手:坪井聖学)
井本隆之社長