2026年2月26日無料公開記事未来を探せ70の視点 内航NEXT

海事プレス社創立70周年特別企画【未来を探せ~70の視点】
強い船主が強い内航業界をつくる
#05 日本内航海運組合総連合会・栗林宏𠮷会長

  • X
  • facebook
  • LINE
  • LinkedIn

栗林会長

 日本内航海運組合総連合会(内航総連)の栗林宏𠮷会長は本紙インタビューで「強い船主が強い内航海運業界をつくる」との持論を語り、「外航船や陸上の事業との兼業もあれば、内航船に特化する船主もいる。そのような多様な形の強い船主が出てくることが望ましい」と指摘した。栗林会長は「若手の船主経営者と会うと、規模を大きくしたいなど、今までにない目標を持つ人が増えていると感じる」と語るなど、内航海運業界の未来への期待を示した。

 ― 内航海運業界の中長期的な重要課題をどう捉えているか。
 「内航海運は国内物流の4割を担っている。産業インフラとして非常に重要で、経済を支える役割は過去から現在、そして未来も変わらず続いていくだろう。ただ、残念ながら少しずつ輸送量が減っているのが現状だ。そうした中でも、安全・安定・安心の輸送を続けるという業界の役割を維持していくことが最大の課題だ。安全・安定・安心には、安全を担保して安心して働ける職場であることなど、いろいろな側面がある。他の産業と同様に少子高齢化の中で人材の問題が非常に大きく、船員の確保・育成が大きな課題だ。また、安定を作るためには、必要な設備投資を続けることも重要になる。それには顧客の理解が必要であるのに加え、内航船を建造する造船所の減少など、いろいろな問題が大きく重なってくる」
 ― 課題の解決に向け、業界として必要な取り組みは。
 「人材育成が特に重要で不可欠だ。船員だけでなく、陸上で働く人材も含めて人を育てていくことが大きな課題になる。現状でも人材が非常に逼迫していて、各社とも苦労している。今行っている取り組みを地道に続けていくしかないが、加えて業界の魅力を高めて入りたい人を増やすことも求められる。船員の採用先を船員教育機関といった従来の一般的なルート以外にも広げていく必要がある。最近の動きとして、当会は内航船員の初級資格である6級海技士の民間養成受講生に対する奨学金制度を2024年からスタートした。PRも重要で、船員という職業に就くとどのような未来が描けるのかをきちんと示していくことが必要だ」
 「海上や陸上で安心して働けるようにするためには、それなりのコストが賄われなければならない。事業収益はマーケットで決まるという前提はあるが、運賃・用船料などを構成する費目とその算出方法をまとめる『標準的な考え方』の整理が国土交通省で進んでいる。こうした取り組みが進むことで、業界としての価値が認識されることを期待している」
 ― 造船業が経済安全保障の観点から注目されているが、内航船への影響は。
 「内航海運と造船は一体であるため、非常にありがたい流れだ。造船の重要な役割を一般の方々に知ってもらい、経済安全保障の観点も含めた支援について幅広く理解してもらえれば、就職先としても注目されるのではないか」
 「建造量倍増計画が進み、中小造船所も含めて建造能力の向上につながることに、内航海運業界としても期待している。外航船と内航船の両方を造っている造船所が多いので、内航船にも波及効果があるとの認識だ。造船再生ロードマップの中で、内航船を建造する造船所の活性化にもつながることを期待している」
 「海運税制などに対しても良い影響を感じる。建造量を増やすと言っても、船を発注するのは海運会社だ。海運会社が健全に発展しなければ造船所に注文が入らない。国会議員の方々に『日本の海運が発展することが、日本の造船の発展につながる』と説明すると、皆さん納得してくださった」
 ― 造船再生ロードマップの背景には、貿易立国の日本に必要な外航船が国内で造れなくなるという危機感がある。内航海運業界でも同様の危機感はあるか。
 「現時点では、日本で将来内航船が全く造れなくなるという危機感は持っていない。ただ、内航船の期近の船台が埋まっており、ほとんどの船主はリプレースのタイミングを遅らせて対応しているのが実態だ。中長期的には、現在の建造量を維持するというより、必要な建造量をきちんと保っていくという方向になるだろう。冒頭で申し上げたように、内航の輸送量は減少傾向にあり、隻数を減らすが大型化して輸送力を維持するといった方法も考えられる。建造能力を増やすというより、船台をいかに効率的に回すかが重要ではないか」
 ― 中長期的な労働力確保については。
 「人口減少のスピードが速いので、若者の数が減り、船員養成校の卒業生が減少する事態も考えられる。将来どれぐらい船員が必要なのか、まず需要を見通す必要がある。その上で、日本人だけで運航するのが難しくなる場合、技術革新でどれぐらい省人化できるかを見極め、最後に外国人船員について検討することになるかと思う。技術革新については、自動運航などのプロジェクトも進んでいる。無人運航は簡単ではないが、少人数での運航や効率改善をまず進めていくことになる」
 ― 内航船主の未来については。
 「私は以前から、内航海運は強い船主が育たないと強い業界にならないと主張してきた。その一方で、内航海運業界では暫定措置事業などの規制があり、船主業を自由に営むことが難しい状況が続いた。現在は暫定措置事業が終了し、内航船を制限なく増やすことができる。先を見据えてどうするかは各社の判断だ。1社でやっていくのか、どこかと協業するのか、統合するのかなど、いろいろな選択肢がある。変化に早く気づいて動ける人が生き残っていくだろう」
 「ある程度の規模を持つ船主が必要だということは分かってきたが、規模がなくても成長する道はあるだろう。外航や陸上の事業との兼業あれば、内航に特化する船主もいる。そのような多様な形の強い船主が出てくることが望ましい。若手の船主経営者と会うと、規模を大きくしたいなど、今までにない目標を持つ人が増えていると感じる。明確な成長プランがあるのであれば、船をどんどん増やしていけばいいと思う」
 ― 内航海運業界の望ましい姿は。
 「経済を支える物流インフラであることは変わらない。その役割を、より効率的に、環境にも人にも優しい形で続けていきたい。変わらないインフラの役割を、時代が求める形で果たしていくということだ」
 「内航海運も脱炭素化を進めていかなければならないが、今のままでは新燃料に切り替えるのは厳しい。船は長く使うものなので、切り替わりに時間がかかるのは間違いない。世の中がどこまでのことを求めるのか、世界がどう動くのかにも左右される」
 ― 内航海運業界が将来求める人材像は。
 「世の中の流れにキャッチアップし、AIなどの新しい技術も積極的に取り入れることができる人が望ましい。マネジメント層も、業界内だけで完結せず、世の中の変化を理解し、柔軟に対応できることが大事だ」
 「内航海運はサービス業だ。物を運ぶサービスで、荷主がいて、モノの流れがある。運ぶものや運び方のニーズは変わっても、船を造り、船員が動かし、荷物を運ぶという大きな形は変わらない。この事業の本質を理解し、その時代の技術を使いながら、最適な物流をつくっていくことが求められる」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

関連記事

  • 海事プレスアプリ
  • ブランディング