2024年4月26日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊼
貨物船など倍増へ、自社船増強
鶴丸海運・太田執行役員
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輸送体制をより強固にしていく
内航・外航オペレーター業を主力とする総合物流企業の鶴丸海運は、内航船の自社船比率を上げるため船隊整備を強化している。数年をめどにガット船と一般貨物船を倍増させる計画で、輸送体制をより強固にしていく。そのためには船員の確保も欠かせず、乗船サイクルの見直しや新卒採用の強化に取り組んでいる。海運事業を担当する太田篤執行役員海運事業部長に船隊整備の計画などについて聞いた。
— 鶴丸海運の事業概要について。
「当社は北九州港をベースに海運事業をはじめ港湾運送・倉庫・通関事業、貨物自動車運送事業などを展開している。海運事業の売上高比率は45%ほどで、セメントや鋼材、高炉原料などが主力貨物だ」
「現在の船隊は29隻で、そのうち内航は26隻。一般貨物船は499総トン型が6隻と199総トン型が2隻の計8隻、ガット船は5隻、セメント船は13隻を運航している。自社船比率は6割ほど。外航は船主としてハンディバルカー1隻、近海船2隻を保有している。内航船は、市況の変動などにより定期用船の契約解除があり船隊が縮小していたが、これから拡大させていく。具体的には、ガット船は2028年をめどに、499総トン型貨物船は30年までにそれぞれ10隻体制にしたい。船台の確保など課題もあるので難しいことは承知しているが、実現に向けて事業を進めている」
— 船隊整備の具体的な計画は。
「ガット船は新造船が今秋に1隻、来年秋に1隻竣工するほか、来秋に用船でも新造船が加わる。貨物船はリプレースで新造船が1隻秋に竣工するのに加え、さらなるリプレースの検討も進めている。ガット船もさらに増やそうと商談中だ。新造整備のほか、中古船の買船も視野に入れている」
— 船価高でも建造を進めるのはなぜか。
「これまでガット船は定期用船が多く、市況の変動などが起きると船隊への影響が大きかった。安定した輸送体制を維持するには自社船比率を上げるべきと判断した。ガット船は日本で200~300隻しかないと言われている上、老朽化も進んでいる。しかし、ガット船は自力で荷役ができるので荷主にとってメリットが大きく、需要は高い。貨物船の船隊整備も進め、ガット船だけでなく貨物船で運ぶといった提案もできるようにしていきたい」
— 船員確保で取り組んでいることは。
「全体で150人ほどの船員を抱えており、年齢層も幅広い。セメント船では水産高校などから新卒者を毎年4~5人ほど最近は採用できている。貨物船・ガット船は中途採用を中心に毎年2~3人を採用している。それでも人材のひっ迫感はある。船隊増強には船員が欠かせないので採用を強化しようと動き始めたところだ」
「セメント船では水産高校などを定期訪問して採用につなげている。貨物船・ガット船でも同様にコンタクトを取りたい考えで、今年から生徒向けの業界説明会などを計画している。また、SNSの活用も視野に入れている。陸上社員も若手が入社してきているので、彼らの知恵を借り新卒者に近い感性で会社について訴求していきたい。加えて、船員からの紹介による採用も検討したい。今年入社した新卒者は学校の先輩が当社の船に乗っており船内の雰囲気などを聞いて入社を決めてくれた。口コミの重要性を感じている」
「昨年、乗船サイクルを3カ月乗船1カ月休暇から2カ月乗船20日休暇に短くした。マンニング会社とも情報交換するが、船員の休み重視の傾向を感じており変更を決めた。船員と話すと、2カ月乗船は特別な待遇ではなく普通だという。1カ月乗船の会社があるとも聞く」
— 船員の働き方改革の対応状況は。
「セメント船では改正法の施行前に荷主に説明して理解いただいた。貨物船やガット船では労働時間が超過しないように着岸して上陸できる仮バースをこまめに設定している。特にガット船は船舶不足が深刻なので荷主も運航スケジュールを気遣ってくれる」
「健康管理については、産業医と船員の面談を進めている。これにより船員の健康への意識が向上しており、食事の改善や通院などを自発的に行ってくれるようになった。外部のプロから助言を受けると真摯に受け止めてくれるようだ」
(聞き手:伊代野輝)