2024年4月16日無料公開記事内航キーマンインタビュー
内航NEXT
《連載》内航キーマンインタビュー㊻
LNG専焼船、CO2削減と積載量を両立
NSユナイテッド内航海運・福田社長
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福田社長
NSユナイテッド内航海運が保有・運航するLNG専焼石灰石専用船“下北丸”が竣工した。小型の内航船は一般的にタンクスペースの問題などで燃料転換のハードルが高く、特にセルフアンローダー(自動荷揚げ装置)搭載船は設計上の困難が多い。福田和志社長は、この課題を川崎重工業が開発したLNG専焼エンジンとバッテリーのハイブリッドシステムと常石造船の設計によって克服し、貨物積載量を維持しつつ二酸化炭素(CO2)排出量の3割削減を実現したと強調。静音性や居住区の改善などで船員の労働環境も向上するという。一方で今回のLNG燃料船は短距離の特定航路就航船だからこそ実現したとも語り、航路が多岐にわたる一般船では当面はさまざまな省エネ技術を組み合わせてCO2の排出を削減する方針を示した。
— 環境対応セルフアンローダー石灰石専用船“下北丸”が完成した。
「同船は保有も運航も当社が行い、当社の船員を配乗する。港内ではゼロエミッション航海ができ、CO2を最大で3割削減できる。先代の“下北丸”は1994年竣工で、その後継船の検討を2018年から開始した。その際に荷主から後継船を環境に優しい船にしようというご提案をいただき、LNG燃料船が候補として挙がった。しかし、小型である内航船には燃料タンクを載せるスペースの確保が課題で、当初は重油との二元燃料も考えた。そのような中で川崎重工業からLNG燃焼エンジンとバッテリーを組み合わせたハイブリッド推進システムをご提案いただき、これならば貨物スペースを減らすことなくCO2排出量を減らせるということでLNG専焼に舵を切った。石灰石専用船は甲板上にセルフアンローダーが付いているためLNG燃料タンクを船内に格納する必要がある上、港湾の事情などから船の長さの制限があるため限られたスペースに収めるのは難しかったと思うが、常石造船にうまく設計・建造していただいて貨物積載量を維持できた。ゼロエミッションという最終ゴールに向けてまずは大きな一歩だと思う」
「同船は尻屋岬港(青森県)と室蘭港(北海道)のシャトルだ。両港ともLNG供給ステーションはないが、石油資源開発(JAPEX)からタンクローリーでLNG燃料の供給を受けている。また、船員がLNG燃料船に乗船するための講習を受けるなど、運航開始に向けて準備を進めてきた。新しい船でも引き続き安全運航に努める」
「船員の労働環境改善にもつながると期待している。本船の出港を見送ったが、港内はゼロエミッション運航のため目を離すと気づかないほど静かに出て行った」
— カーボンニュートラルに向けたさらなる取り組みについては。
「今回のLNG専焼船は、距離が短い特定航路の就航船だからこそ実現できた。さまざまな港湾に寄港する一般船での代替燃料の導入は難しいため、現時点でできる取り組みとして省エネにつながる技術を組み合わせてCO2の排出を減らす。少し先に目を向けると内航業界でも現在のエンジンがそのまま使えるバイオ燃料が注目されており、本格導入に向けては価格と供給体制が課題だが、技術的な検証が進んでいるところだ」
— 船隊整備の方針は。
「現在の運航船腹は79隻。24年度に竣工予定の新造船は7隻で、リプレースがほとんどだ。少なくとも現在の船隊規模を維持し、チャンスがあればさらに増やしたい。ただ、貨物量はコロナ後にV字回復したがその後減少に転じており、脱炭素に伴う新たな輸送需要がいつ、どのくらい出てくるのかも見極めながら適正な船隊規模を考えたい」
— 船員の確保・育成については。
「若手船員の定着率向上と女性船員の採用強化を2つの柱としているが、船員の確保育成は地道に取り組んでいくしかない。船員の有効求人倍率は3倍を超えており、荷動きが回復すれば船員不足が一気に顕在化するおそれがある。CTV(洋上風力作業員輸送船)といった新たな船員需要もこれから出てくる。女性船員については当社グループには現在2名在籍している。秋にも女性船員を1人採用する予定で、少しずつ増やしていきたい」
「“下北丸”は環境にやさしいだけでなく、乗組員の労働環境も改善できた。各個室にシャワーとトイレ、冷蔵庫が備えてあり、休息時間に配慮している。また、共用部には女性専用の洗濯室と洗面所がある。同船に女性船員はまだ乗船していないが、環境を整えた」
— 2023年度の業績は。
「売上高は22年度を上回って過去最高になる見込みだ。当社は新規の輸送需要が見込まれていた分野に引き当てるために過去2年の間にガット船8隻を新造用船した。これらが順調に稼働したことが売上高の増加につながり、収益にも貢献している。23年度は内航船のさまざまな分野で輸送需要が低迷していたが、幸いなことに当社の主要貨物である鉄鋼原料は転送需要などもあり堅調に推移した。その一方で鋼材の荷動きが落ち込んだ。特に23年度後半は自動車向けの鋼材が不正認証問題や能登半島地震によるサブライチェーンの寸断で不調だった。また、セメントは23年度の国内販売量の当初の見通しが3800万トンだったが、実際には3500万トンを切った。労働力不足が深刻化しており、工期が延びていて大手ゼネコンは新規案件にも躊躇している状態と聞いている」
— 24年度の展望は。
「当社の主要分野である鉄鋼、電力、セメントの輸送需要は24年度第1四半期も大きく回復する見込みはなく、23年度第4四半期並みに低調と予想されている。このため、船腹量の調整が入るのではと懸念している。バイオマスの内航二次輸送も、太陽光などと比較した価格競争力の低下や原子力発電所の再稼働などを背景に大きな伸びは見込めないのではと感じている」
「一方、長期的には国内製鉄会社の電炉化に伴い還元鉄とスクラップの輸送需要が新たに見込まれており、このような変化に対する準備を怠らないようにしたい。新造整備は今後の輸送需要や環境対応などを見極め慎重に検討する。船隊規模は当面現在の規模を維持し、荷主の変化とニーズに応じて増強の機会をうかがっていきたい」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)