2024年5月10日無料公開記事内航NEXT

<内航NEXT>
次世代内航船の量産化目指す
新会社SIM-SHIPの浦山社長/曽我部専務

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 内航ミライ研究会(内研)の活動から誕生した「株式会社SIM-SHIP」。同社の浦山秀大社長(雄和海運代表取締役)は次世代コンセプトシップ「SIM-SHIP」の量産化について、「個人的にはここ5〜10年で10隻程度建造したい」との考えを示した。そのために数年かけてSIM-SHIPを数隻建造し、量産化のコンセプトを固めていく。会社設立の経緯や量産化までの道筋を浦山社長と曽我部公太専務(SKウインチ代表取締役)に聞いた。

 — 会社を設立した経緯は。
 「内航ミライ研究会は2020年10月に一般社団法人として発足し、内航海運業界が抱えるさまざまな課題を解決するためにコンセプトシップ『SIM-SHIP』の開発・建造などを進めてきた。ただ、一般社団法人のみの活動では販売活動を行うことが難しいといった制約があるため、株式会社を設立して内研の成果物を販売することとした。社名については様々な案があったが、内研の中で最も思い入れのある成果物であるSIM-SHIPを全面的にアピールしていく意図もあり、株式会社SIM-SHIPとした。内研のメンバーや企業が出資し、当社の安井和弥常務取締役の会社の和幸船舶の東京事務所との共同事務所という形で発足した」
 — 新会社の運営体制は。
 「当面は役員11人で運営していく。活動内容によっては社員を雇用することも将来的には考えられるだろう。内研との役割分担については、内研は基礎研究や開発、実証実験をベースに引き続き活動していく。当社は内研の成果物を利用させていただきながらさまざまな商品を提供していく」
 — 新会社の業務内容は。
 「SIM-SHIPの開発・販売、コンサルティング業務を主に行う。具体的にはSIM-SHIPを建造したい船主から依頼を受け、造船所や舶用機器メーカーの間に入って求める性能を発揮できる船をつくるために助言する。また、将来的にはSIM-SHIPの量産化も実現したい。その背景には船員不足がある。日本全体で労働人口は減っており、船員が大幅に増える見込みはない。少ない人手で運航できる同型船が広まれば、船員の負担は減る。まずは量産化に適したコンセプトを策定し建造に繋げ、その後は新しい機器を搭載したSIM-SHIPを運航できる船員の教育などにも注力していく予定だ。より安全に安定した輸送を行える船を提供していきたい」
 「新会社はバッテリーや船内Wi-Fiといった『MIRAIシリーズ』の販売も手掛ける。陸上の環境と比較して船が後れを取らないために最新のものにチャレンジしていく。例えば、Wi-Fiでは動画ストリーミングが船内で可能な品質のものを比較的安価に提供する。また、船にデジタルサイネージを導入したり、クラウドとの連携なども手掛けてきた。SIM-SHIPと同様に内研で基礎研究が終わったものから販売を進める」
 — SIM-SHIP量産化までの道筋は。
 「数年かけて何隻か建造し、量産に適したコンセプトを固めていきたい。バッテリーの充電設備などで港湾とも連携していく必要がある。そうした技術の確立も含めると、コンセプトづくりに数年かかると考えている。船型に関しては内航の大宗船である499総トン型貨物船はもちろん、タンカーやセメントなどでもチャレンジしたい。いずれにしても大切なのは実用性だ。最新技術についてよく船主仲間と話すのは、費用面からも現実的な技術かどうかということ。今すぐ導入可能な技術を使うことで、中小企業が多くを占める内航船主でも現実的に建造できるようにしたい。もちろん、技術革新が進めば新しいテクノロジーも取り入れていく。普及に向けては価格をどれだけ抑えられるか、または省人化による費用対効果がどれだけあるかを示していくことが不可欠だ。行政の支援もいただきながら広げていきたい。個人的にはSIM-SHIPを今後5〜10年で10隻程度建造したいと考えている」
 — 内研ではこれまでに「SIM-SHIP1 mk1」を開発・建造したのに加え、年末には「SIM-SHIP1 mk2」の竣工を控えている。
 「mk1は順調に運航中だ。環境省の地域共創・セクター横断型カーボンニュートラル技術開発・実証事業として採択され、この3月に実証期間が終了した。環境性能をどう業界に示すかを考えているところで、CO2削減については想定以上の数値が出ている。バイオ燃料などエネルギー密度の低い代替燃料でも今まで通り運航できるはずだ」
 「mk1はバッテリーが目玉で、さまざまなご意見を頂戴していた。mk1に搭載しているものは電力を一昼夜供給できるが、船主・船員の方々からそれ以上の容量をご要望いただいている。技術的には実現できるが費用面が課題だ。操船能力についても、ステアジェットの実験を繰り返したが、船員の方々からはもっと自由に動かしたいといった声をいただいた。新しいものは面倒だと現場では思われがちだが、便利さが勝れば受け入れられやすい」
 「mk2は新会社としては1隻目になる。mk2はブロワーから供給される空気を船底から吹き出して船体表面に気泡流を形成し、船体と海水間の摩擦抵抗を低減して推進馬力を削減するといった内航船初の技術開発が含まれている」
 — 新会社設立による内研の活動への効果は。
 「会社設立により、内研でも7月の総会で新たな役員編成があるはずだ。また、入会したい方々も順調に増えており、審査待ちが7〜8社いらっしゃる。現在の会員と合わせて70者以上の規模になる予定だ。国土交通省などと引き続き協力しながら活動を進めていきたい」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

浦山社長

曽我部専務

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