2024年5月24日無料公開記事内航NEXT

<内航NEXT>
物量増にらみ貨物ウェブ予約開始
太平洋フェリー・猪飼社長

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猪飼社長

 名古屋/仙台/苫小牧航路を運航する太平洋フェリーは、「物流の2024年問題」を契機としたモーダルシフト需要について、特に名古屋/仙台航路での貨物量増加に期待を寄せている。これに対応するため、4月から貨物ウェブ予約システムを稼働し、24時間受付体制を整えた。コンプライアンス意識の高いメーカーなどに照準を合わせて営業を展開していく構えで、関西など名古屋以西のエリアもターゲットとする。荷動きや旅客の状況などについて猪飼康之社長に聞いた。

 — 昨年度の実績について。
 「23年度は旅客が伸びて貨物が落ち込んだ。旅客は昨年から回復基調で23年度は旅客数が18年度比で9割まで戻った。個人客はコロナ前を超えた一方で、団体客は戻り切っていない。グループ旅行は旅行会社に商品をつくってもらうのが主流になるが、コロナ禍で環境が変わったように感じている。乗用車はコロナ後も伸びており、自家用車での旅行が根付いたように思う」
 「貨物は前の年度比で減少した。円安などによる物価高で消費マインドが落ち込んだのが要因で、国内物流全体でそうした傾向になっている。当社の主力貨物のひとつである北海道産野菜が昨年は猛暑で不作だったのに加え、乳製品などの畜産物が減少したのも大きい」
 — 2024年問題の影響はどうか。
 「モーダルシフト需要はこれから伸びると見ており、特に注目しているのが名古屋/仙台航路。これまで陸路で運べていた名古屋/仙台はモーダルシフト需要が出てくると見ていて、そこへソリューションを提供できるからだ。これまで本州内輸送の主流が陸送だったのはリードタイムが大きな理由だが、2024年問題を契機に法令順守などリードタイム以外の重要性が増している。現在陸送されている関西/東日本の貨物量は膨大で、その中にはスピードにこだわらない貨物も含まれているはずだ。そうした貨物のモーダルシフトを提案したい」
 「具体的には、これまでもフェリーで運んでいただいている貨物の海上輸送比率を高めてもらったり、企業イメージを重視するメーカーなどに労働と環境の両面でコンプライアンスを順守できるフェリーの魅力を訴求するなどしていく。企業への個別営業はもちろん、自治体のイベントなどにも出展して認知度を高め、荷主がモーダルシフトを検討する際に当社の存在を思い出してもらえるようにしたい」
 「寄港地である名古屋や仙台周辺の企業だけでなく、関西など名古屋以西もターゲットだ。関西から海路で東日本に向かう場合、紀伊半島を迂回するのは非効率なため名古屋までは陸送して船に乗るのが合理的。関西から名古屋までは車で2時間あれば着く」
 「今後の貨物量増加を見据えて貨物もウェブ予約システムを4月から稼働させた。電話とファクスからウェブに切り替えたことで24時間受付になった。顧客と当社がお互い効率化を図ることができ、これからその効果が出てくるだろう」
 — 船旅専門誌のフェリー・オブ・ザ・イヤーを31年連続で受賞した。
 「他社の新造船も就航している中顧客からご支持いただいており、ありがたい気持ちでいっぱいだ。当社の旅客サービスで特徴的なのは本格的なラウンジでのショー。コロナ禍で3年ほど中止していたが、昨夏から再開し、たくさんの方に来場いただいている。そこで感じたのはリアルな体験が求められていることだ。船に乗るという体験を楽しむお客さまは船内のエンターテインメントもリアルなものを求めている。コロナ禍では人との接触が制限され、バーチャルが主流になると言われたこともあった。しかし、アフターコロナで観光需要が急回復している。そうしたリアルな体験を求める気持ちは人間から取り上げられない。そこに応えられる企業であり続けたい」
 「今年は“きたかみ”就航5周年イヤーで、1月には苫小牧港で花火を打ち上げた。これ以降もイベントを企画しており、旅客増収の起爆剤にしたい」
 — 人材確保はどうか。
 「運航船員はまだそこまで不足感はないが年々厳しくなっていく。アテンダントや司厨員はなんとか人繰りをしている状況だ。応募者は減少し、若手が1〜2年で辞めるケースも増えており、家に毎日帰れないのも一因のようだ。乗船サイクルの短縮などに取り組んでおり、船員は20日弱乗船10日休暇、アテンダントはもう少し短いサイクルで乗下船している。労務負担を少しでも軽減して定着率を向上させたい」
 — 船隊整備については。
 「最もベテランの“きそ”は来年で船齢が20歳となり、この数年でリプレースを考えていくが、船台や船価、当社の経営状況などがマッチするタイミングを見極めたい。燃料についても最適解を探しているところだ」
(聞き手:伊代野輝)

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