2023年7月26日無料公開記事内航NEXT 今治内航船主若手経営者座談会

<内航NEXT>
エンジン核のグループ化など連携
《連載》今治内航船主若手経営者座談会⑤

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座談会出席者(社名五十音順、カッコ内は所属地区)
浅川汽船・宮政彰社長(今治)、朝日海運・三宅恭介取締役(波方)、東汽船・越智崇社長(今治)、井村汽船・井村省吾専務取締役(今治)えびす商会・野間裕人代表取締役(伯方)、木村汽船・木村利幸専務取締役(波方)、金力汽船・多田憲司社長(伯方)、錦城海運・田窪昭彦代表取締役(今治)、幸洋汽船・藤澤賢宏取締役(今治)、大東汽船・馬越康友取締役(伯方)、進宏海運・大木祐輔専務取締役(波方)、東豊汽船・武内源太郎代表取締役(波方)、明運汽船・赤瀬慎取締役(伯方)

<司会:日刊海事プレス副編集長 深澤義仁>
 



— 今治の内航船の船舶管理の現状は。

「今治の内航船主は自社管理がほとんどだ。かつては血縁者同士が共同で船舶管理を行っていたこともあるが、うまくいったケースは少ない。ただ、これまでは自社で完結していたが、いよいよ船員不足が深刻になり、船主同士で手を取り合うという雰囲気が出てきた」

「できれば他の船主と船舶管理会社を一緒にやりたいが、なかなかハードルが高い。船舶管理の共同化の課題が、船主によって船の設計やエンジンが異なることだ。それでもできなくはないが、船員の負担が大きくなる。ここを揃えることができたら船舶管理の共同化がかなりやりやすくなるだろう」

「船舶管理を共同化したとしても、船主個々の企業努力は引き続き重要だ。頑張っているところとそうでないところが一緒になっても、結局うまくいかない」

「市場原理の観点からは、本来は船主1社が多くの船を持つのがシンプルだ。国土交通省が船舶管理を核とした内航船主の協業化・グループ化を推進しているが、共同の船舶管理会社が5〜10年ぐらいはうまくいっても、その後代替わりして抜けるといったことも出てくる。成功事例はけっして多くない」

「できるとすれば、伯方の同じエンジンを使っている船主が緩やかにグループ化しているような形ではないか。他の地域でも、エンジンと志が同じ船主が組めばうまくいくと思う」

「今の伯方の船主の距離感が一番いいと思う。グループ化でも協業でもないが、協力できるところは協力するというのが素晴らしいところ。自分だけよければという意識ではなく、みんなで生き残っていこうという考えが根付いている」

 — 船隊整備の課題は。
 
「船をリプレースできるかどうかは用船料次第だ。船価だけでなく人件費も含めて何もかもが値上がりしているので、オペレーターとよく話し合う必要がある」

「当社は大手オペレーターに使って頂いているが、今後も必要な用船料を出して頂けるかが少し心配だ」

「セメント船は荷主保証船なので長期契約がとれるが、貨物船はそれがない。それが当社が貨物船をやめた理由の1つだ。今回のコロナ禍でもそうだったが、貨物船は景気による用船料の変動の波が大きい」

「当社はかつてタンカーも貨物船もやっていた。ただ、耐用年数の間は用船料を上げなくてもいいから下げないという保証書を出して頂けたら貨物船をリプレースしますと言ったら、それは出せないと言われたので、貨物船をやめざるを得なかった。しかし、船主からこういった意見をどんどん上げることが大切だと思う。タンカーではそれがかなりできてきたと思う。安全レベルの維持や必要な人員の確保育成など、やることをしっかりやるので、そのために必要な用船料を保証して頂きたい」

「貨物船では、用船料を出すために造船所から船価の見積もりをとってきてくださいではなく、用船料はこの金額なので好きなところで造ってくださいと言われる。だから採算が合わなくなる」

「船隊整備については、われわれはオペレーターがOKを出す時に動くしかない。しかし、船価が安い時は事業環境があまり良くないので、OKが出ない。そこが外航船と違う点だ」

「持続可能かという観点で言うと、われわれの499型貨物船の人件費は最小定員分しか頂けていない。2人当直船は船員を育成しながら運航できるが、プラス1人分は自腹を切らないといけない。船員の育成コストまで考慮して頂かないと持続可能な事業にはならない」

「内航海運暫定措置事業が終了して自由建造になったが、船員がいないので、船を増やせる船主はなかなかいないと思う。今はやる気のある船主にとってチャンスなのかリスクなのか見定める必要があるが、内航船をやめる人や減らす人が増えており、これまでと違う雰囲気がある」

「オペレーター自身も、小型船の船主がどんどん減っていくという見込みを持っている。一方、タンカーでは製油所が1カ所なくなるとトンマイルが伸び、改正船員法の絡みもあって船が足りなくなっていくという見通しがある。貨物船も同じように製鉄所の閉鎖などでトンマイルが伸びる」

「当社は去年までにリプレースできたのでよかったが、造船所の話では、これまでの船価上昇分は鋼材価格と人件費の上昇で、これからの船価はそこに艤装品の価格上昇が上乗せされていくという。鋼材価格は少し落ち着いてきているが、船価が下がる要素はない。そこに環境対応も加わると、船価は2〜3割上がってくる可能性がある」

「あるケミカル船の荷主が、この船で物流のCO2排出量をどれぐらい削減できるのかという話をし始めた。しかし、環境対応を行うと船価が高くなるので、それに見合った用船料を頂けないと対応できない。オペレーターや荷主からすると、燃料消費量を節約できたとしても支払う運賃・用船料が増えるので、そこまでしてやるかどうかだ」

「内航海運業界として環境対応を行いながらしっかりとしたサービスを続けていくために、環境対応のコストも見て頂く必要がある。時間外労働についても、これまではサービスでやってきたが、今は話を聞いて頂けるようになり、スケジュールもだいぶ余裕をもったものになってきた」

 — 本日は貴重なお話をありがとうございました。

(連載おわり)

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