2023年7月24日無料公開記事内航NEXT 今治内航船主若手経営者座談会

<内航NEXT>
海事都市でも船員の認知度課題
《連載》今治内航船主若手経営者座談会③

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座談会出席者(社名五十音順、カッコ内は所属地区)
浅川汽船・宮政彰社長(今治)、朝日海運・三宅恭介取締役(波方)、東汽船・越智崇社長(今治)、井村汽船・井村省吾専務取締役(今治)えびす商会・野間裕人代表取締役(伯方)、木村汽船・木村利幸専務取締役(波方)、金力汽船・多田憲司社長(伯方)、錦城海運・田窪昭彦代表取締役(今治)、幸洋汽船・藤澤賢宏取締役(今治)、大東汽船・馬越康友取締役(伯方)、進宏海運・大木祐輔専務取締役(波方)、東豊汽船・武内源太郎代表取締役(波方)、明運汽船・赤瀬慎取締役(伯方)

<司会:日刊海事プレス副編集長 深澤義仁>


 — 船員の採用に関して取り組んでいることは。

 「全国の水産高校に求人を出し、学校に出向いて面接を行っている。今年は秋田県から1人入社した。ただ、大手オペレーターも水産高校に目を向けており、学校の先生に伺うと学生たちも大手志向が強い。そこで先生には、大手オペレーターでも一杯船主でもやる仕事は一緒で、逆に船主のほうが年功序列もないし、仕事を覚えればどんどん経験させると話している。伸びてくる子は、資格を取れば早く昇格させて給料も上げる。若手にやらせて何かトラブルが起きても今は携帯電話もあるし、動画を見ながら指示すれば対応できる」

 「タンカーは大型船なので2人当直ができる。採算的には苦しいが、当社では船長を当直から外してフリーにし、若手を教育する余裕を与えている。5000キロリットル型タンカーでは15部屋つくって最大で15人乗せている。749型LPGタンカーも9部屋つくって8〜9人乗せている。若手を育てるために通常より人数を増やしているので他所よりも給料は少ないかもしれないが、休暇はちゃんと与えている。ここ2〜3年はそのような体制でやってきたが、それでも人は足りない」

 「私は2000年入社で、当時の船はインターネットが全く使えなかった。それから比べると今は船上でもスマホがある程度使えるのでまだ恵まれているが、今の若い世代にとってはフリーWi-Fiがあらゆるところで使える状態が当たり前なので、つながらないエリアがあるということ自体が我慢ならない」

 「船主としては船上のネット環境を最低限整えているが、プライベートでの利用については船員各自でやってもらわないと、過剰かなと思う。船は生活の場と職場が一緒なのでそこまでする必要があるのかもしれないが、業務上必要な範囲でいいのかなと私は思っている」

 「インターネットを自由に使えるようにすると、若い船員が当直の時以外に起きてこなくなる(笑)」

 「スマホのおかげで昔と比べると船と陸の隔離感は少なくなったと思うが、陸上と全く同じ環境でなければ嫌だという人もいるかもしれない」

 「陸の給与が全体的に上がってきているため、海との給与差が小さくなってきている。地方では海の方がまだ給与が高いが、休暇などを考えると割に合わないと考える人も増えてきている」

 「例えば天草は周りもみんな船員ということもあり、地元出身の船員が多い。これに対して今治は“船どころ”だが、地元出身の船員は少ない。造船所や舶用機器メーカーなど、地元に海事産業の他の就職先があるからだ。造船所・メーカーに就職すれば毎日家に帰ることができる。ただ、陸の仕事は働き方改革によって残業ができなくって収入が減っていると聞く。そうすると、海の仕事の魅力が相対的に増すかもしれない」

 「今治出身の船員がいたとしても、今治船主の船には乗っていない。普通科の学校の先生があまり前向きはではないと聞いたことがあり、やはり地元に造船所があることが大きい。天草は内航船主・船員という需要と供給が集中している。これに対して今治は、“船どころ”だが“船員どころ”ではない」

 「地元に仕事がある地域の人は、なかなか船に乗ろうとはならない。水産高校がある地域はもともと漁業が盛んだったが、漁業が衰退してそれだけではやっていけなくなったために商船に目を向けるようになり、水産高校が工業高校と合併したりしている」

 — 今治船主の船員の主な出身地域は。

 「会社によるが、九州、東北が多い」

 「うちの息子は高校3年で、波方海上技術短期大学に行くと思っていたが、行きたくないと言っている。陸上と比べて給料もいいよと妻と一緒に説明しても、大学で違うことをしてみたいとか、船に乗ったら結婚できないと言う」

 「職業の選択肢が増えているが、逆に今はチャンスだと思うので、内航海運を盛り上げていきたい。もっとわかりやすい魅力があればいいと思う。バリシップで子供たちに触れる機会があるので、これも活用したい」

 「あれだけ小さい頃に電車が好きでも、みんなが電車の運転手になるわけではない。同じように、船、海が好きな子供が船員の仕事ができるようになるわけではない。やはり職業選択の時期に船員の仕事の内容とメリットを説明しすれば、一定数は船員になりたいという子が出てくると思う」

 「波方港は今でこそ漁港だが、かつては正月になると波方港に貨物船が帰ってきて家族が迎えに行くという古き良き時代があった。今は新造船で出ていったら、その後は今治に帰ってくる機会はない」

 「今治でも、一般の人に船の仕事をしていると話すと漁師かと聞かれる。それに対して天草は船の文化が残っている。天草には造船所がないので瀬戸内辺りで船を造るが、竣工後京浜などに仕事に行く船でも一度地元に持ってきてお披露目をするというオーナーさんが多い」

 「今治はこれだけの“船どころ”なのに船の仕事を知らない人が多く、船主の家族ですらよくわかってない。電車の車掌さんになりたい、飛行機のパイロットになりたいという子供は多いが、船長になりたいという子供は地元でも聞いたことがない。いたとしてもせいぜいフェリーで、バルク船とタンカーの違いも分からない」

 「飛行機や電車は触れる機会があるが、今治ですら船を見に行こうという子供たちはなかなかいない。業界としてアピールが足りなかったと反省している」

(続く)

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