2023年7月20日無料公開記事今治内航船主若手経営者座談会
内航NEXT
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愛媛県下最大の内航組合、地区毎に特色
《連載》今治内航船主若手経営者座談会①
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座談会を開催した今治市のみなと交流センター「はーばりー」
4年ぶりの国際海事展「バリシップ」開催に沸いた海事都市の今治市。その開催に合わせて、同市内の内航船主から成る「今治地区海運組合」(組合長=大木光俊・進宏海運代表取締役)の若手経営者と次世代の経営者にご参集頂き、今治の内航船主の特色と活動状況、船員の確保育成と船隊整備をはじめとする内航船主の経営課題、内航海運業界全体の課題などを語っていただいた。
■座談会出席者(社名五十音順、カッコ内は所属地区)
浅川汽船・宮政彰社長(今治)、朝日海運・三宅恭介取締役(波方)、東汽船・越智崇社長(今治)、井村汽船・井村省吾専務取締役(今治)えびす商会・野間裕人代表取締役(伯方)、木村汽船・木村利幸専務取締役(波方)、金力汽船・多田憲司社長(伯方)、錦城海運・田窪昭彦代表取締役(今治)、幸洋汽船・藤澤賢宏取締役(今治)、大東汽船・馬越康友取締役(伯方)、進宏海運・大木祐輔専務取締役(波方)、東豊汽船・武内源太郎代表取締役(波方)、明運汽船・赤瀬慎取締役(伯方)
<司会:日刊海事プレス副編集長 深澤義仁、会場:みなと交流センター「はーばりー」(今治市)>
— 今治地区海運組合の概況は。
「現在の組合員は、貨物船が78社・122隻・13万9455総トン、タンカーが34社・73隻・13万394総トンで、愛媛県下で最大の海運組合だ。当組合の主な取り組みは、2年毎の『バリシップ』の一般開放日の子供向けのイベントなど。他の地域の海運組合のように地域の活動として動くことは少ないが、当組合として波方短期大学や宇和島水産高校との交流を行っている。個社でもさまざまな取り組みを行っていて、今では他地域でも行われるようになった海技系の学校の生徒を対象とする新造船の体験航海を最初に行ったのは当組合員のタンカーだ」
「われわれの親の世代はあまり腹の内を見せない船主が多かったが、世代交代して今は船主同士の情報交換が進んでいる。ただ、他の地域と比べて今治の内航船主としての活動や対外発信は遅れていると感じており、海事都市の船主として今後の課題だ」
「一口に今治船主といっても、波方、伯方、今治の各地区それぞれに船造りや経営方針のカラーがある。波方は今では内航船を保有していない外航船主も組合員として所属し、地域のつながりを維持しようという姿勢がある。また、波方は地域の祭りやイベントに組合として参加して地域貢献活動を行っている。船種は貨物船が多く、船造りについてはあまりいろいろなものを付けずに比較的シンプルに造る船主が多い。伯方はタンカー船主と貨物船の一杯船主が多い。タンカー船主は情報共有や部品共有などを行っており、緩やかにグループ化していると言っても過言ではない。伯方島の造船所と共に発展してきた歴史もあり、こだわりのある船造りをする船主が多い。また、島内の外航船主からの誘いを受けて内航船主の外航船への進出が増えた。今治は大三島・大島や津島などから進出してきた船主が多い。菊間地区は、現在は船主の数が少ないため地域性を言い表しにくいが、私の分析だと比較的規模の大きな内航船主が多く、他と組まずに自社で船員の育成などを行ってきた歴史がある」
— 新造船の体験航海について詳しく聞きたい。
「宇和島水産高校の先生と交流があったことがきっかけで、8年前に伯方造船に許可をもらって新造船の試運転に生徒約20人を乗せた。初めての試みでまだ慣れていなかったところもあったが、生徒の皆さんからは現場を見ることができたと評判が良かった」
— ご自分の地区の内航船主の特色についてそれぞれにお聞きしたい。まず今治地区は。
「今治地区は現在29社で、伯方と波方以外の地区から渡ってきた土着ではない船主が多い。船種もさまざまだ。波方、伯方のような地域に根ざして皆が参加する活動はわれわれにはないので、うらやましいなと思う」
— 波方地区は。
「現在34社で、船種は貨物船が多い。約20人の組合青年部で内外航を問わず交流があり、運動会や懇親会、ワークショップなどに一緒に参加している。伯方地区は世代交代が進んで団塊ジュニアが社長をやっているが、これに対して波方は団塊の世代が社長という会社がほとんどだ」
— 最後に伯方地区は。
「現在42社で、波方のように青年部で地域活動に参加するといったこともなく、どちらかというと商売っ気の強い組合だ。組合活動というよりも、各社それぞれが頑張ったうえでいい情報を共有しようという意識が強い。船種はタンカーが多い。波方と同様に内航船をやめて今は外航船だけという船主がここ10年ぐらいで増えてきた。また、親が70歳近くになって世代交代する船主が増えている」
「自分がこの業界に入った30年前は伯方の船主は100社近くいたので、半減している。隻数は減ったが、タンカーを中心に大型化したため、船腹量は変わっていない。内航船を増やす人とやめる、大型化する人の二分化が伯方では進んでいる」
— 外航船進出後も内航船を続ける船主とやめる船主の違いは。
「内航船をやめた船主を外から見ていると、外航船の案件に資金を入れたため内航船のリプレースをせずに徐々に減っていき、結果的にゼロになったということだと思う」
「内航貨物船の船主は、一度外航船を持つと細かい管理が面倒に感じるようだ。当社は船員をかなり抱えているので、続けていくのはしんどいけれども、うちの船で働きたいという人がいる以上はやめられないし、陸にも内航担当スタッフがいる。もし家族だけでやっていたら内航船はやめていたかもしれない」
— 伯方地区の船主同士の協力関係について詳しく教えて頂きたい。
「伯方のタンカー船主は情報共有が非常に速い。同じエンジンを使っているため結果的に部品を共有する形になっており、例えば注文すれば1カ月かかる部品でも、他の船主が持っていたら譲ってあげるなど、お互いに助け合っている」
「船を同じ伯方島の伯方造船か村上秀造船で造っており、内航タンカーの建造ノウハウが島内に蓄積されているため、他所の造船所で造るということにはなかなかならない。エンジン以外も含めた舶用機器の品質に関する情報や、修繕、用船相場などの情報も島内ですぐに共有される。事故情報についてもそうで、事故を起こした船は島内の造船所に戻って来るので隠しようがない」
「伯方地区は資本関係のあるグループではなくても、部品共有などを通じてグループ化されていると言ってもいいかもしれない。みんなで生き残っていこうという気持ちが強く、他社の人間にも優しく教えてくださるので、相談しやすい。これは今の世代になってから始まったわけではなく、われわれの上の世代がそのような風潮、環境をつくった」
「波方では以前はそこまでの協力関係はなかったが、今の若い世代は交流して情報を共有している」
— 船隊整備にも地区毎のカラーはあるか。
「波方の船主の船造りはとにかくシンプル・イズ・ベストで、時代と逆行しているかもしれないが、新しいものにあまり手を出さない。これに対して伯方の船主は船を造り込み、役に立つものは高くてもつけるというスタイルだ。それは伯方の船主というよりも造船所のスタイルで、就航船の不具合を次の新造船に反映させてアップデイトしていく。われわれはそういった情報を造船所に聞きに行くし、逆にこうしたほうがいいのではとアドバイスもする。伯方は良くも悪くも情報の壁がない(笑)。近所に造船所があり、すぐに船を見に行ける環境が横のつながりを生む」
(続く)