2023年7月10日無料公開記事内航NEXT

世界初のバイオマス輸送EV船就航
e5ラボら企画、速力・航続距離が既存船並み

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 世界初の完全電気推進のバイオマス輸送船“あすか”が就航した。電動船(EV船)の企画・開発などを手掛けるe5ラボとマリンドウズが7日に発表した。兵庫県の神戸/相生間でバイオマス燃料を輸送する船になる。EV化とデジタル技術の導入で港湾内ゼロエミッションと、運航からの二酸化炭素(CO2)排出量削減を実現するとともに、船員の労務負荷を軽減する。「第二世代EV船」として、これまでEV船の課題だった速力と航続距離について、既存船と同等を実現した。さらに、アップデートによって進化するシステムを標準化・モジュール化して搭載した。
 “あすか”は国土交通省海事局が策定した連携型省エネ船のコンセプトを反映したEV船の第1号船。企画・開発、システムインテグレーションはe5ラボ、マリンドウズ、三菱造船、IHI原動機が実施した。本田重工業で建造された。
 “あすか”は内航貨物船として一般的な499総トン型(載貨重量は1680トン)。全長71.89m、全幅12.00m。360kWのモーター2基を駆動力とし電気だけで推進する。大容量蓄電池として440kWhのリチウムイオン電池と、発電機を搭載。入出港や荷役中のゼロエミッションが可能だ。また、EV化や運航改善技術の組み合わせで、同船が就航する神戸/相生間の輸送では、既存の同型船と比べCO2排出量を最大50%削減できる。
 CO2だけでなく、窒素酸化物(NOx)、硫黄酸化物(SOx)、煤煙の排出や騒音、振動をなくすことで、周辺地域の居住環境の向上にもなり、「快適な周辺地域環境保護という、脱炭素のさらに先の価値を提供する」(e5ラボ、マリンドウズ、以下同じ)船になる。
 “あすか”は第二世代EV化技術により小型化と高効率化を実現した。e5ラボは三菱造船と共同で、船全体の開発とEVパワートレインのインテグレーションを担当。三菱造船が開発したEV専用新型船型は既存船比20%以上の効率向上を実現した。また、第一世代EVパワートレインとの比較でサイズと重量を80%削減するとともに、10%以上の効率向上を達成。第二世代EVパワートレインと発電機の最適な組み合わせで、速力と航続距離の課題を解決した。同船の航海速力は11ノット、航続距離は約5000㎞になる。また、EVパワートレインのモジュール化によって20%以上のコスト低減を実現した。
 マリンドウズは、船舶自動化支援システムを実装し、特に熟練船員を必要とする出入港作業を自動化・省人化、省スキル化し、遠隔監視も可能にした。最も人手がかかる離着桟作業をこれまでの5人から3人に削減でき、さらに安全性と効率性の向上を実現した。
 搭載したEVパワートレインと自動化支援システムは、「まるでスマホのようにアップデートにより進化することで、より安全に、より効率的になることで船の価値を継続的に高める」という。バッテリーの増設や運航解析と制御プログラム修正といったアップデートを通じて、港湾内ゼロエミッションだけでなく、運航全体のさらなるエミッション削減も実現する。
 また、三菱造船製の船舶版カーナビ「ナビコ」(タブレット型ポータブル運航支援システム)、バルチラ製のパノラマビューカメラと操船自動化システムを搭載した。
 “あすか”について、e5ラボとマリンドウズは持続可能な内航海運への突破口を開くことを目指した取り組みと位置づけ、「業界が直面する『環境問題』と『熟練船員不足問題』という2つの難題を解決するために開発された」と紹介。
 e5ラボの中野道彦社長は発表の中で、「“あすか”のプロジェクトを通じて、内航海運におけるEV化とデジタル化の融合を実現した。これにより、海運業が抱える環境問題と人手不足の解決に寄与し、地域環境保護という新たな価値の付与によって、持続可能な内航海運と社会の実現に貢献していく」、マリンドウズの末次康将社長は「革新技術の標準化とモジュール化によって誰もがリーズナブルに利用できる環境を整えることで、革新技術の社会普及と内航海運の未来を切り開いていく」とコメントしている。

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