2024年4月2日無料公開記事内航NEXT

今年度から船員確保育成支援強化
内航総連・栗林会長インタビュー

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栗林会長

 日本内航海運組合総連合会(内航総連)の栗林宏𠮷会長(栗林商船社長)は本紙インタビューで、2024年度の重点課題を「船員の確保育成に尽きる」と語り、内航海運暫定措置事業終了に伴う剰余金を活用した支援事業などに取り組む考えを示した。具体的には、各地域の海運組合などの事業への助成や、6級海技士養成講習受講者を対象とした奨学金貸与などを行う。24年度の内航荷動きについては「全体的に急激な回復はないだろう」と見通しつつ、物流2024年問題による一部の貨物のモーダルシフトへの期待を示した。

 — 23年度の内航海運業界を振り返っての所感は。
 「2023年の荷動きを見ると、貨物船は前年比微減だったが、タンカーは3%減少した。コロナ禍から明けて、自動車の部品供給不足による生産制約もほぼ解消したため、荷動きは改善すると期待していた。ところが鉄鋼などの主要品目は前年を下回る状況が続いており、肌感覚では後半が特に厳しかった。船員の働き方改革が2年目を迎えたが、貨物量が減っているため、大きな輸送障害は現時点では発生していない。しかし船員不足は着々と進んでおり、本格的に貨物量が回復してくれば船員不足の問題が顕在化する恐れがある」
 — 内航総連の23年度の主な活動は。
 「内航海運暫定措置事業の剰余金の使い道が決まった。5年計画で主に船員の確保育成のために活用していく。傘下の5組合とも話し合って事業計画をつくり、国の承認を得て、事業がスタートしたところだ。『船員確保チャレンジ事業』として、それぞれの地域で行っている船員対策を支援する。また、海洋共育センターと海技教育財団とともに6級海技士短期養成講習の受講者を対象とした奨学金制度を創設した。1人当たり100万円を限度として初年度は5000万円の予算を確保している。このように船員の確保育成にさまざまなルートで対応していく」
 — 2024年度の内航海運業界の展望は。
 「荷動きが急激に回復することはないだろう。貨物船では自動車が引き続き好調と予想するが、粗鋼生産量は昨年度と同様の状況が続くとみられるため、大宗貨物の鉄鋼関連の荷動きは横ばいではないか。タンカーは引き続き減少傾向で、世界的に化石燃料からの転換が進んでいるうえに、中国の景気低迷の影響で石油化学プラントの稼働が落ち込んでいる」
 — 物流2024年問題の内航海運への影響は。
 「政府が内航(フェリー・RORO船、コンテナ船)と鉄道の輸送量を10年程度で倍増という目標を掲げたが、現時点ではモーダルシフトはそれほど進んでいない。物価高による買い控えなどを背景に国内物流全体が減少傾向で、海運にシフトするだけの貨物が出てきていないというのが現状だ。その一方で、トラックドライバーの残業規制強化がスタートすれば長距離幹線輸送が難しくなるため、ある程度鉄道や海運にシフトするのは間違いないと見ている。半年から1年くらいは様子見の段階になるだろう」
 「モーダルシフトによる海運の貨物増への期待はあるが、トラックドライバーが急減するようなことになれば海運にもマイナスだ。トラックドライバーは仕事量に応じて給与が変動するケースが多く、残業が減れば収入も減ってしまう。そうなればトラックドライバーという職業から離れてしまう人が増えて急激に業界が縮小する恐れがある。幹線輸送が海運にシフトしても、港から倉庫まではトラック輸送が必要。海上と陸上としっかり連携しなければ物流全体が滞ってしまう」
 — 2024年度の内航総連の重点課題は。
 「船員の確保育成に尽きる。必要な船員を確保して船を動かし貨物を運ぶのがわれわれの使命で、船員は欠かせない存在だ。先ほどお話しした船員確保チャレンジ事業や奨学金制度などでこの課題に対応していく。また、引き続きYouTubeなどのSNSを活用して内航海運の広報活動を展開し、業界や船員という職業の認知度をさらにアップさせたい」
 「引き続き国土交通省の『内航海運と荷主との連携強化に関する懇談会』、『安定・効率輸送協議会』などを通じて必要なコストを荷主に理解してもらうことも大切だ。船員の働き方改革がスタートして労務管理やそれに伴うコスト増についてある程度理解を得られているが、全ての荷主の足並みが揃っているわけではない。また、建造船価が高止まりしている中で保有船のリプレースを躊躇する船主も多く、荷主・オペレーターと共に船価に対する認識を改める時期が来ている」
 — 内航海運の脱炭素に向けた取り組みは。
 「国土交通省が昨年連携型省エネ船のコンセプトを公表したが、その普及に内航総連としてより具体的な方針を待ちながら協力していきたい。新燃料については、やはり燃料の供給体制が大きな課題。寄港地が特定される専用船では比較的解決しやすいが、不定期船はどうしても供給体制に不安が残る。昨年LNG燃料フェリーが就航したが、499総トン型貨物船が寄港するような小さな港では対応は難しいのではないか。カーボンニュートラルの節目となる2050年に向けて全国の港でさまざまな燃料を供給する体制の整備に官民で取り組んでいく必要がある」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

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