2023年7月4日無料公開記事内航NEXT キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊲
需要と人手不足の2つの不足に対応
オーシャントランス・中内司社長

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 オーシャントランスの社長に6月20日に就任した中内司氏(=写真)は本紙インタビューに応じ、「需要不足と人手不足という2つの不足への対応が最重要課題だ」と語った。人口減少によって内航貨物が長期的に減少していくことを前提に貨物の多様化などに取り組む方針を示した。

■需要減少を前提に経営

 — 社長就任に当たっての抱負は。
 「前社長の髙松勝三郎会長は当社の経営だけでなくフェリー業界全体を見渡せる方だが、私はまだまだ未熟。引き続きご指導いただきながら励みたい」
 — 事業の概況は。
 「フェリー、内航、外航の3事業を手掛けている。運航船隊はフェリー4隻、RORO船2隻、199~499総トン型貨物船5隻、で、外航船は木材チップ専用船1隻だ。内航と外航は王子製紙向けがメインで、紙製品と木材チップ・パルプなどの原料を運んでいる。コモンキャリアのフェリーとインダストリアルキャリアの両方の性質を持ち、比較的多様な船舶を運航しているのが特色だといえる」
 — 経営課題は。
「日本の人口は現在1億2500万人ほどだが、2050年には1億人まで減少すると言われている。高松会長が社内で言い続けているのは、人が減れば当然物量も減るので、その速さは分からないが、いずれにせよ輸送需要が減るのは間違いない。それが我々国内物流の業者にとってのこれからの課題だが、そこに当社も向かっていく中で経営のバトンを受けたのがいい時なのか悪いなのかは分からないが、なかなか明るい話はない。高度経済成長期には黙っていても貨物が出てきたが、これからはそういう時代ではないという話を聞き続けてきた。それに対してどのような対策を打っていくかをこれから考えなければならないという意味では身の引き締まる思いだ」
「国内の物流量は1991年の67億トンをピークに、2020年には42億トンまで落ち込んだ。29年間で37%減少したということは、単純計算で毎年1.3%減った。物流量を人口で割ると、1991年には1人当たり54トンだった物量が、2020年は33トンしかない。人口の減少よりも物量の減少のスピードが速いのは、公共工事やビルの建設などが社会の成熟とともに減っていることが原因として考えられる。1人当たり33トンという数字に2050年の人口見通しの1億人を掛けると33億トンになる。2050年はわずか27年後なので、近い将来に33億トンという数字が迫ってきている」
「人口減少に伴う船員不足の影響も大きい。入社しても定着しないし、海上職から陸上職への転籍も多い。船が小さくなるほど船員の高齢化も進んでおり、当社の船種別の平均年齢はフェリーが40歳ほど、RORO船は50歳前後だが、499総トン以下の貨物船は50歳以上だ」

■輸送貨物を多様化

 — 2つの「不足」に対する具体的な対応策は。
 「物量減による需要不足に対しては貨物の間口を広げることで対応していく。例えば、内航船の艙内を木材から鉄板に変更して石炭なども積めるようにした。王子製紙がバイオマス発電なども新領域の事業を進めていることに対応してバイオマス燃料輸送も手掛けている。フェリーは1つの荷主の比率が最大5%を超えないようにするなど分散化を図っており、RORO船も混載している。このように、多様な船舶を活用してさまざまな貨物を獲得し、輸送量の確保に努めたい」
「船員不足に関しては、担当者が学校に足しげく通って学生と話をしている。しかし、少子高齢化で担い手も減っており、根本的なところを変えていく必要がある。ただ給料を上げればいいという次元の話ではなく、官民が一体となって技術革新を含めて新たな仕組みをつくらなければならない」
 — アフターコロナを迎えて、フェリーの旅客需要の状況は。
 「5、6月は全国旅行支援の効果もあり単月で見るとコロナ前の水準にほぼ戻ったが、一過性のものと見ている。コロナ前に海外旅行をしていた高齢者などが国内旅行に回帰していると推察されるが、そういった客層は数年も経てば海外旅行へ戻るだろう。当社のフェリーはシンプルフェリーというコンセプトで簡素なつくりとしているため、ラグジュアリーな旅を求める客層にはそぐわない。楽観視は全くしていない」
 — トラックドライバーの労働時間規制による2024年問題の影響をどのように見ているか。
「連日メディアでも報道されているが、海運へのモーダルシフトがすぐに進むかは疑問だ。当社にも荷主企業などから見積もりやCO2削減効果について問い合わせは入っているが、成約には至っていない。実際に規制が始まるまでは動きがないのではないか。受け入れ準備は進め、チャンスを逃さないようにしたい。トラックドライバー規制よりも中長期的には脱炭素化の方が海運へのモーダルシフトを後押しすると考えている」
 — 環境対応への取り組みは。
 「当社のフェリーとRORO船はEEDI基準で旧船と比較してCO2排出原単位を50%ほど削減しているが、新燃料については正直全く分からない。技術革新が進んでいない現在の状況では決定できない。フェリーは2016年に一括建造したので、少なくとも15年以内にはリプレースしなければならない。それに向けて情報収集をしているところだ」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

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