2023年9月7日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>
《連載》天草船主③
陸上からの転職者を育成
天草マリン同志会座談会<下>

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<座談会出席者>(社名五十音順)
島崎敏幸・三幸海運社長、大山章・真宝海運社長、杉本憲彦・辰和海運社長、園田茜・天城汽船社長、尾上貴史・冨貴汽船専務、木村治・舛宝海運社長、浦山秀大・雄和海運社長
<司会>日刊海事プレス記者・伊代野輝

 — 船員確保・育成の状況は。
 木村「同志会では当初新卒者をターゲットに船員確保の活動を行っていたが、なかなか定着しないのが現状だ」
 浦山「学校に求人票は出しておらず、先方から話が来れば採用することもあるが、新卒に対する積極的な採用活動は現在は行っていない。先日も学校の先生とお話したが、縁故採用以外で小型船に乗る新卒者はほとんどいない。やはり、社会人経験者のほうが仕事への姿勢などがしっかりしていると思う。当社では異業種からの転職者を受け入れて日本海洋資格センターの九州海技学院で教育して免許を取得させている」
 杉本「水産高校の卒業生は6割が大型船に就職し、4割が海上技術短期大学校に進学すると聞く。私も船員採用のスタンスは浦山社長と同じだ。当社は派遣船員を増やしているところだが、定着率が高いのは優秀な司厨員を雇って胃袋を掴んでいるから(笑)。陸上で飲食店を経営したり勤務していた方を採用できている。熊本県地震で陸上の仕事がなくなった時期に求人を出したら司厨員を4人採用することができた。同様にコロナ禍でも飲食業が厳しい中で人を集めることができた。求人のタイミングが人材確保の鍵だ」
 尾上「当社の船員にも新卒者はおらず、そもそも学校に求人を出しても応募がない。知り合いのつてで採用することが多い。最近採用した方は九州海技学院を卒業して地元で働ける会社を探していた」
 園田「コロナ禍で家族が職を失って学校を辞めなければならなくなった若者を採用した。経済的に困窮している方にとっては衣食住が保証される船員という職業は魅力的なようだ」
 木村「私は来年海上技術短期大学校の新卒者を採用する予定だ。当社は身内の船員が7人所属していて、自然と船員を目指すのは天草ならではだと感じている」
 島崎「昔から勤めている方は長いが、若手の定着率が課題だと感じる」
 木村「若者はステップアップの気持ちが強く、転職してしまう」
 大山「隣の芝は青く見える。数社を経て落ち着く傾向があると思う。1社目はどうしても長続きしない。退職者には、『うちを辞めても内航海運業界には残ってね』と声を掛けている。当社にも同じように他社から人材が来る。そういうものだ」
 園田「溶接工をしていた方やトラックドライバーなどの異業種からの転職者を採用し、九州海技学院で免許を取ってもらっている。人材育成では、私と弟が教育してきた人材が育ち、さらに後輩を指導してくれている。採用については、私の次男は現在高校3年生だが、同級生3人が卒業後に船に乗りたいと言ってくれている。工業高校なので、溶接などができる。こちらも九州海技学院に通ってもらう予定だ。当社の船は定員が4人だが、6部屋あるので2人を定員外で乗せて育成しようと考えている。また、船員派遣も視野に入れていて、将来船が増えれば派遣から戻して乗ってもらう。一度にたくさんの若手を教育するのは無理なので、少しずつ継続的に採用していきたい」
 大山「定員外で人材を育てるために部屋数を増やす船主は多い。一部屋ごとの面積が狭くなっても個室を用意できるように設計する。船内生活を少しでも快適に過ごして欲しいという思いは強い。当社も若手船員を現在育てているところだ。所有船は499総トン型貨物船2隻だが、船員は16人いる。目先のお金よりも人材を残そうという考えで、定員外で乗船させて経験を積んでもらっている。数年後に戦力になってくれたらうれしい」
 尾上「相部屋にすれば退職してしまう。そういったところから人材確保が始まっている」
 木村「今いる船員を大切にするというのが天草船主全体の考え。入学式など家族の行事の際には下船できるよう配慮したり、個々に気を配っている。天草船主は自ら乗船している方が多いので、経営者自身が船員をケアできることは強みだと思う」
 — 女性船員の採用は進んでいるか。
 浦山「女性船員を採用している天草船主はあまりいない。身内の女性が乗っている船はある」
 島崎「当社も姉が乗船していた」
 木村「実際に女性を採用するとなれば、今いる男性船員と話し合う必要があると思う。体制がしっかりできていないのが現実だ」
 大山「実績がないので悩んでいる船主が多いのではないか。他社で成功すれば続く人が出てくるだろう」
 — 船員の労務時間管理規制強化への対応は。
 杉本「オペレーターと密にコミュニケーションを取っている。当社は船員派遣も手掛けており、船員から労働時間がオーバーしそうだと相談を受けたらオペレーターや派遣先のオーナーに伝えている。労働時間が規定を超えないよう、勤怠システムを見てオーバーしそうな船員への声掛けなどを行っている」
 浦山「当社は週単位で労務管理システムを確認してオーバーしそうな航海があればオペレーターに連絡して休みを頂けるようにしている」
 大山「オペレーターが無理を言わない雰囲気になりつつあると感じる」
 尾上「労働時間を管理するため、アプリを使い始めた。忙しい時期はオペレーターも休日を挟んだりと気遣ってくれるし、こちらからも要望を伝えている。ただ、仕事の範囲の線引きが難しいと感じる」
 杉本「仕事の範囲を行政がしっかり示して欲しい。船はある意味24時間拘束なので、毎日出社と退社がある陸上の仕事とは別の対応が必要だと思う」
 島崎「『ここまでが仕事』という認識が個人によって違う。家族船とそれ以外を比べると、家族船は労働時間が少ないという話も聞く。現行の制度では夜中の0時で1日を区切るので、夜間荷役があると労働時間がオーバーしかねない。船のリズムに合わせた制度にして欲しい。一等航海士に負担がかかる航路では船長がサポートするなど、船内での協力が不可欠だと思う」
 大山「今回の規制強化は船内の業務分担を見直す機会になったと思う。船内で声を掛け合って負担が偏らないようにすることが大切だ」
 浦山「個人的には陸上の働き方改革がこれまで以上に船の世界に適用されていくのではないかと感じる。例えばトラック運送業界では荷待ち時間も労働時間と見なされており、これを船に適用したら立ち行かなくなる。当社は鋼材を運んでいるが、天候などで荷役時間は頻繁に変わる」
 杉本「タンカーも荷揚げが終わる直前に次の航海が決まるなど、予定が立てにくい」
 浦山「行き先が事前に決まっていれば船員の手配などもスムーズだが、ぎりぎりまで分からないので船員を前泊させるなど時間と費用がかかっている。2〜3日前までに予定が分かれば配乗も効率よくできるのだが」
 — 天草船主の今後の展望は。
 浦山「天草船主は世代交代が進んでいる印象かもしれないが、広島などではさらに若い世代が育ってきている。外の情報をどんどん入れて、他地域に負けないようにやっていこうと思う。天草でもわれわれよりも下の世代を育てていかなければならない」
 尾上「われわれの上の世代の方々もまだまだ元気でやる気がある。その世代が業界の公職を務められているので、そちらも世代交代を始めなければならない」
 大山「天草船主の強みは、世代に関係なく協力し合えること。これからもお互いに支え合って内航海運業界を盛り上げていきたい」
 — 本日はありがとうございました。

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