2023年9月13日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>
《連載》天草船主⑦
内航船融資拡大へ天草に海運担当
肥後銀行天草ブロック大矢野支店

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米田支店長(右)と米村氏

 九州フィナンシャルグループの肥後銀行(本店=熊本県熊本市)は、天草エリアで内航海運業向けの融資に積極的に取り組んでいる。上天草市内の大矢野支店では4月から海運業専担者を配置しオペレーターへの訪問を行うなど、情報収集や関係構築に努めている。同行の内航船舶向け融資の状況や天草船主の特徴などについて、大矢野支店の米田昌史支店長と海運業担当の米村直純氏に聞いた。
 — 肥後銀行の内航海運向け融資の歴史と現在の体制は。
 「現在の宇城市三角町に三角出張所(現三角支店)が1936年に設立されたのが始まりだ。現在は主に大矢野(上天草市)、松島(同)、天草(天草市)の3支店で内航海運業向けの融資を行っており、取引している海運系の企業は約70社だ。さらに内航海運業向けの取引増強のため、4月からは海運業専担者を大矢野支店に配置している」
 — 現在の内航船舶向け融資残高(実行ベース)は。
 「今年6月末時点の融資残高は約45億円で、政策公庫との協調融資も含まれている。2022年度は新造船7隻、中古船3隻に対して融資を実行した。船価は高いものの、内航海運暫定措置事業が終了して建造等納付金を納める必要がなくなったことでリプレースや増隻の意欲が高まった。また、船台が埋まってきているので早めにリプレースを決めたいという心理も働いたようだ」
 — 内航船舶向け融資の方針は。
 「大矢野支店に海運業担当を配置しているが、今後もそれぞれの支店で取引する予定だ。引き続き利用しやすい支店にご相談頂けたらと思う。融資条件は、用船先のオペレーターと用船契約の内容はもちろん、船主の経営状況などを総合的に判断して決めている。天草エリアで内航船主向けの融資を手掛けている主な金融機関は当行を含めて4行あるが、金利などの融資条件は大きくは変わらないとみられる。船主の皆さんは担当者の人間性で取引先を決めるので、お客さまと直接会って仕事以外の話もしながら信頼関係を築くことを心掛けている。他行は海運担当部署が本店にあることが多いが、当行は地元密着の営業を推進するため大矢野支店に海運業担当を配置している」
 — 地元の金融機関として天草船主をどのように見ているか。
 「天草船主は中四国の船主と比較して事業承継がスムーズに進んでいる印象がある。他地域の船主は外航に進出したり、子供がいても跡を継がないケースが増えていると聞くが、天草船主は船主の子供が後継者として育って世代交代できている。しかも若手経営者の皆さんを中心とする『天草マリン同志会』が勉強会を開くなど、お互いに助け合って熱心に仕事に取り組まれている。また、船主自身が乗船しているのも強みだ。傾向として船主やその家族が乗船する船は運航トラブルが起きにくく、事故も少ない。将来売船する際も高値で売れやすい。上天草市による内航海運業への行政支援も手厚く、助成制度が豊富なことも安定した経営につながっているとみている」
 — 内航船舶向け融資の課題と展望は。
 「船価の高止まりや日本社会全体の賃上げ機運など、船主を取り巻く事業環境は厳しい。そのような中でオペレーターが船主に寄り添った対応を取って頂けるかどうかに内航海運業の未来がかかっている。オペレーターを訪問し情報交換をさせていただいたところ、天草船主は船主やその家族が乗り組んでいる点がオペレーターから安全性の面で評価されていることが分かった。船が事故を起こせば社会問題に発展してしまうため、オペレーターは安全性の高さを重要視している」
 「オペレーター訪問を始めてから融資残高も増えており、当行の姿勢を天草船主の皆さんに評価いただいたものと感じている。オペレーターと船主、そして金融機関が一枚岩にならなければ内航海運業界を取り巻く課題への対応は難しいだろう。オペレーターとも話しやすい関係ができたので、将来的には船主との橋渡し役になれればと思っている」
 「天草エリアでは内航海運業は基幹産業のひとつであり、内航海運業が盛り上がれば地域全体もさらに元気になる。地元金融機関として今後も信頼関係構築に努めていきたい」
(聞き手:伊代野輝、連載おわり)

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