2023年9月12日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>
《連載》天草船主⑥
内航海運を基幹産業として支援
上天草市経済振興部観光おもてなし課

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迫本課長(左)、濵口氏

 天草地域でも特に内航船主が多い上天草市は、内航海運業を農林水産業や観光業と並ぶ基幹産業として重視している。官民で構成する「上天草市海運業次世代人材育成推進協議会」で船員の育成に取り組むほか、船主と船員に対する助成制度も用意している。こうした取り組みに共鳴し、企業版ふるさと納税を同市に対して行う他の地域の海運事業者も現れた。上天草市における内航海運業の位置づけと支援策について、海運業振興を担当する経済振興部観光おもてなし課の迫本潤一郎課長と濵口洋輔氏に聞いた。
 — 上天草市の現在の内航海運事業者数と船員数は。
 「2022年10月時点の事業者数は72社で、雇用されている船員数は626人だ。天草地域は島々が集まっているため、明治時代から海運業が盛んだったと聞いている。最盛期には300〜400弱の会社があり、保有船は400〜500隻だった。バブル経済の崩壊や熊本県内の貨物量の減少で事業者数が減ったという」
 — 上天草市における内航海運業の位置づけは。
 「事業者数・船員数は減少基調ではあるものの、内航海運業が農林水産業や観光業と並ぶ基幹産業であることに変わりはない。上天草市は高速道路から離れているなど、工場などを建設するには立地条件が悪い。そのような中で内航海運業は経済の大切な柱だ。上天草市版の「まち・ひと・しごと創生総合戦略」にも海運業の経営拡大や担い手不足解消への支援を明記している。内航海運への継続した支援は使命だ」
 — 内航海運業を盛り上げるために取り組んでいることは。
 「上天草市海運業次世代人材育成推進協議会を2016年に設立した。この協議会は天草船主らで構成する天草マリン同志会が人材確保策を検討していく中、行政にも要望があったことを受けて発足した。船員不足の解消や海運業振興に向けて活動している。メンバーは熊本県海運組合、全日本内航船主海運組合、上天草高校、天草拓心高校(天草市)、口之津海上技術学校(長崎県南島原市)、上天草市、熊本運輸支局、肥後銀行、熊本銀行、天草信用金庫の10者。定期的に集まって上天草市の海運業を盛り上げるための方策について意見交換している。具体的な活動内容としては内航海運業をPRするポスターやパンフレットの制作、内航海運業についての小中学校での出前授業の実施が挙げられる。また、23年度の新たな取り組みでは、隣接する宇城市三角町で開催される『みすみ港まつり』で、三角東港で内航船の乗船体験などを行った」
 「先日の会議では、上天草市出身者が海上技術学校を卒業して海運会社に就職する数が伸びているという報告があった。こういった草の根活動で船員に興味を持つ子は増えていると思う。仮に他県の会社に就職しても将来地元に戻ってくる人もいるだろう。中長期的な目線でPR活動を続けたい」
 「こうした内航海運業の振興は全国的にも珍しいようで、2〜3年前に名古屋市の河村たかし市長から直接電話でお問い合わせをいただき、海運業振興の背景や内航海運業への支援策についてご説明した。また、22年には徳島県阿南市の『ふなどころ阿南まちづくり協議会』と友好協定調印を結んだ。地域を越えた連携から内航海運業を元気にしていきたい」
 — 上天草市出身者が船員になる場合、どういったルートを辿ることが多いか。
 「上天草高校は上天草市海運業次世代人材育成推進協議会に参加しているが、普通高校 なので船員になる人は少ない。一方、天草拓心高校には海洋科学科があり、4級海技士(航海)の認定校にもなっている。前述の口之津海上技術学校や水産大学校(山口県下関市)に進学するパターンも多い。九州海技学院(宇城市三角町)は異業種からの転職者が通うことが多く、船員になる夢を諦めきれず貯金して入学するといった話も聞く。近隣に養成機関が多いのも船員確保につながっている」
 — 上天草市の内航海運業向けの助成制度は。
 「13年に助成制度を創設し、当時熊本運輸支局からこういった取り組みは珍しいとお褒めの言葉を頂いたと聞いている。現在運用しているのは、①新規船員雇用育成事業補助金②定住促進船員就職祝金③新規海技免許取得補助金④海運事業設備投資資金利子補給補助金—の4つ。①は海技士免許を持たない方を雇い入れると1人当たり月額6万円を半年を限度に支給する。②は新卒者もしくは新たに市内へ転入する方へ10万円を助成。③は海技士資格などを持たない40歳未満の社員が資格を取得する際、海運事業者に講習費と人件費として70万円を上限に支払う。④は市内の事業者が新造船の建造などで融資を受けた場合に利息補給を行う。また、以前は市外から転入してきた船員の家賃を一部補助する定住促進船員家賃補助金もあったが、現在は全業種を対象としている」
 「助成額は22年度に400万円弱。今年度の予算は700万円ほどだ。事業者同士で助成金の申請方法などを共有いただいており、申請者は年々増えている。市としても広報誌に掲載したり協議会の会合でお知らせするなどしている」
 「タイムリーな支援を心掛けており、コロナ禍にはみなと・水産課と連携して係船料を免除した。今後も協議会でいただいたご意見を踏まえて必要なサポートを提供していきたい」
 — 今後の展望は。
 「8月に辰巳商会から、市内の海運業振興や船員の担い手育成に役立ててほしいと企業版ふるさと納税による寄附をいただいた。上天草市が海運事業者から寄附を受けるのは初めてで、県外の海運事業者の方からも行政の取り組みを評価いただけることはありがたい。今回の寄附金は助成制度に活用させていただく予定だが、使い道のご要望も受け付けるので、ご相談いただければと思う。今後も協議会などを通じて天草船主と船員の皆さんの声を聞き、企業版ふるさと納税なども活用して継続的に海運業を支援していきたい」
(聞き手:伊代野輝)

上天草市海運業次世代人材育成推進協議会で製作したポスター

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