2023年9月11日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>
《連載》天草船主⑤
「熊本内航海運組合連合会」設立
坂田理事長/平井副理事長

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(左から)坂田理事長、平井副理事長

 全国海運組合連合会傘下の熊本県海運組合(上天草市)は、全日本内航船主海運組合傘下の熊本地区内航海運協同組合(宇城市)と連携して内航海運業の課題解決に努めている。2022年には2組合で「熊本内航海運組合連合会」を設立。国に対しても要望を行い、仮バース設定の円滑化などを後押しした。坂田英雄理事長(坂田海運会長)と平井敏視副理事長(大寿汽船社長)に組合の概要や活動内容について聞いた。

 — 組合加盟社の状況は。
 「4月時点で77社が加盟している。保有船腹は65隻・約8万重量トンで、内訳は貨物船が56隻、油送船が3隻、その他が6隻。499総トン型貨物船が主流で、749総トン型も増えてきている。貨物は鉄鋼製品が多い。特に上天草市松島町に船主が集中しているが、地区による船主の気質の違いはなく,皆仲が良い。加盟社の世代交代が進んでいるのも特徴かと思う。40代の経営者が活発に活動している。先日、新造船の竣工祝いで今治からも関係者が来ていたが、『天草は若手の経営者が多く活気がある』と話していた。一杯船主が多かったが、ここ数年は隻数を増やす船主が出てきた。その一方で、隻数を増やしたくても船員が確保できず断念する話も聞く」
 — 組合の活動内容について教えて欲しい。
 「基本的な業務として、船員保険の事務代行業務のほか、上天草市から委託を受けて合津港の港湾使用料収納事務、船舶給水業務を行っている。加えて、『上天草市海運業次世代人材育成推進協議会』に関する活動が多い。乗船体験や船内見学を実施する際に組合員の船舶を提供しているほか、地元の高校での合同企業説明会に参加したり、小中学校で内航海運業を知ってもらうための出前授業を行っている。私が会長を務める坂田海運も2019年に新造船が竣工した際に合津港で乗船体験を実施した。『船員になりたい』と言ってくれた子もいてうれしい限りだ。また、2022年度に初めての試みとして海事産業見学会を開いた。これは、上天草市の小学生を船で八代港(熊本県八代市)に連れて行き、コンテナターミナルや舶用機器メーカー、造船所を見学するというものだ。海運業について知らない子供が昔と比べて増えており、将来の船員確保のためにも大切な活動だ」
 — 他団体との連携はどうか。
 「宇城市三角町にある全日本内航船主海運組合傘下の熊本地区内航海運協同組合と『熊本内航海運組合連合会』を22年に立ち上げた。県内の内航海運業に関わる課題について共同で陳情などを行うのが目的だ。今年4月には三角東港の港湾施設整備計画について、内航海運事業者にもヒアリングを行うよう行政に要望書を出し、我々の意見を聞いていただくことができた」
 「陳情だけでなく、講習会なども共同で開催している。最近だと4月から高所で作業する際にフルハーネス型の墜落制止用器具を使用することが義務付けられたが、使用方法についての講習会を開き、60人ほど参加いただいた。個々の企業では対応が難しいことも皆で協力すれば負担が少なくなる。こうした取り組みはオペレーターからも評価をいただいている」
 「県内のみならず、全国的な問題に対しても声を上げている。連合会設立以前になるが、2組合で船員の働き方改革について、国土交通省海事局や地元選出の国会議員に意見を伝えた。それに関連して、連合会設立後には仮バース設定について要望した。沖で錨を下ろしても休日と見なされないため着岸して船員を休ませる必要があるが、運航計画が直前に決まることが多く、停泊するためにバースを予約することが難しいのが現状だ。特にタンカーは危険物を取り扱うため使えるバースが限られる。こうした事情を海事局や港湾局に説明し、6月に仮バース設定の円滑化への協力要請を海事局長名で荷主の業界団体などに発出していただいた。実際に荷主側から空いているバースを案内していただくなど、効果が出てきている」
 「連合会設立前から2組合は協力関係にあり、九州海技学院の廃校にも2組合で反対の声を上げた。九州海技学院は1967年に三角町立の海事教育機関として設立され、宇城市発足後も市により運営されてきたが、廃止の話が出ていた。存続を行政などに要望した結果、九州海技学院は2014年に日本船舶職員養成協会が引き継ぎ、現在は日本海洋資格センターが運営している。17年からいわゆる新6級海技講習もスタートしたが、これも地元が一丸となって誘致した結果だと受け止めている」
 — 天草船主にとって九州海技学院の存在は大きい。
 「九州海技学院は陸上からの転職者が船員になる際に通うことが多い。陸上では働き方改革が先行して進んでおり、残業が減って稼げなくなった溶接工の方などが九州海技学院に通って船員になっている。新6級講習の座学は4〜5級くらいの内容なので、それを頭に入れた上で乗船すると仕事の覚えもいい。九州海技学院の存在は天草船主にとって非常にありがたい」
 「天草には大きな産業がないので、関東や関西で仕事を取ってくる内航海運業は地元にとっても重要な産業だと自負している。その担い手を育成できる教育機関が至近にあることは地元の発展にもつながっている」
 — 今後の活動方針は。
 「天草周辺で船員確保の取り組みを続けてきたが、内陸部など海を知らない層にもアプローチしていきたい。山間部の出身で船に乗りたいという子もいるはずだ。人口が減少している中、パイを広げて船員を集めるしかない。引き続き行政とも連携しながら内航海運業界の課題に対応していきたい」
(聞き手:伊代野輝)

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