2023年9月8日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>
《連載》天草船主④
船員派遣など地元船主支援
Aシップ

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(左から)木村取締役、牧田取締役、大山社長、浦山取締役、杉本取締役

 Aシップ(熊本県上天草市、大山章社長)は2011年に天草の内航船主が共同で設立し、当初は船舶管理を手掛けていたが現在は予備船員の派遣を行っている。Aシップの浦山秀大取締役(雄和海運社長)、杉本憲彦取締役(辰和海運社長)、木村治取締役(舛宝海運社長)に同社での事例を含む天草船主の協業の現状と今後の展望を聞いた。
 — Aシップの概要は。
 浦山「現在取締役7人で経営している。初期メンバーは飛鳥海運の牧田敬典社長、真宝海運の大山章社長、辰和海運の杉本憲彦社長、久木山汽船の久木山智哉社長、永木造船鉄工所の永木秀人社長と私で、20年に舛宝海運の木村治社長が加わった。現在の事業内容は船員派遣だが、設立当時は飛鳥海運の保有船1隻を管理していた」
 — Aシップ設立の経緯は。
 浦山「他地域の内航船主との活動の差に危機感を抱いて天草マリン同志会が設立されたのが09年。その頃、内航海運業界では船舶管理の協業化が叫ばれ始めており、イコーズが一気に管理隻数を増やすなど、他地域の勢いを目の当たりにしていた。われわれ天草船主も協力していかなければ取り残されてしまうと感じ、Aシップを設立した。初代社長の飛鳥海運・牧田社長は天草出身だが大阪在住で、同志会でお会いするまでは全く存じ上げなかった。大山社長も面識はあったがそれほど親しい関係ではなかった。天草マリン同志会があったからこそのご縁だ」
 杉本「面白いもので、Aシップのメンバーはそれぞれ経営に対する考え方が違う。だからこそ色々な意見を出し合えたのかなと思う」
 — 船舶管理業をやめて船員派遣に絞った理由は。
 浦山「設立当初は船舶管理の協業化に向けてメンバーの保有船のフル管理を目指していたが、メンバーは自ら乗船している経営者が多いため、Aシップだけに注力できる人材がいなかった。現在Aシップには予備船員として配置できる船員を置いていて、多いときで8人在籍していたが、現在は4人だ」
 杉本「Aシップは人手が足りないところに船員を派遣する役割に変えた。皆が一杯船主だと船員が足りなくなっていく。Aシップの船員の平均年齢は65歳で、ほどほどに働きたいという人たちが多い。それぞれの会社から移ってきた方もいれば、Aシップで直接採用した方もいる。予備船員の需要があるのでAシップで雇用する船員が増えればいいと思うが、Aシップとして積極的に採用活動をしていくというよりは、各社が頑張りつつ、Aシップを希望する人がいればそちらに在籍してもらうという対応にしている」
「Aシップを困っている天草船主を助ける受け皿にしたいという思いが最も強い。天草船主は一杯船主が多く、予備船員を抱えられるような船主が少ない。トラブルなどで人が足りなくなった際に受け皿になれるような会社になろうと立ち上げ時の趣意書にも記し、現在は受け皿として機能している」
 浦山「リスクをとってまでフル管理をやるよりは、困っている天草船主に対して船員を派遣する方が地域貢献につながると思う」
 杉本「Aシップも予備船員を十分に確保できている状態ではない。ただ、Aシップに参加する企業の中には派遣事業を手掛ける会社が3社あり、人手に困ったときにはそれぞれの会社に依頼することもできる。Aシップのつながりで助けてもらえる」
 — Aシップに参加するメリットは。
 浦山「Aシップをスタートさせてから、参加船主が保有船を1〜2隻増やしたり、派遣船員を20人以上抱えるようになるなど、それぞれ事業を拡大している。切磋琢磨できる仲間がいることは大きな財産だ」
 杉本「信頼関係があるので腹を割った話ができる。家族経営の会社がほとんどだが、身内だけで悩まずに外部に相談できる場があることで精神的に助けられている。皆考えが違うので、勉強になる」
 木村「私は20年に参加したばかりだが、以前からのメンバーの取り組みを見て憧れていた。天草マリン同志会などで一緒に活動する中でお声掛け頂き、Aシップに参加した。日々のコミュニケーションの中で経営の相談にのって頂けてありがたい。来春に3隻目が竣工する予定で、順調に業容を拡大できているのは、Aシップのメンバーを始めとした地元の仲間がいるからだ」
 杉本「皆で話すとアイデアが出てきて、それが経営に役立っている。15年に労務管理システムが欲しいと私が言い出したことがきっかけになって、肥後銀行グループの九州デジタルソリューションズにシステムを開発して頂いた。 スマートフォンやパソコンでの労務管理は当時の内航海運業界では珍しかったのではないか」
 — 内航海運業界では行政が船主の協業化を推進しているが、船主としてどのように捉えているか。
 木村「協業化を推進する動きについては承知しているが、個人的には家業として守っていきたい気持ちが強い。やれるうちは続けていきたい」
 浦山「協業化の強みは、人が集まること。一杯船主が3人集まれば3隻になり、人の余裕が出てきて予備船員の確保につながる。1社ではハードルが高くても、集まれば簡単にできることは多い。日本経済の状況を見ると、物量が今後減ることは間違いなく、船腹量も減っていくだろう。将来的には協業化というよりも経営体力のある会社がM&Aで吸収合併していく形で集約されると思う。淘汰されながら大きな会社がいくつかできるだろう。今は中古船価も高く借入金を完済できる価格で売れるので、ここで船を売って廃業するという選択もできる。しかし、船価が落ちてきて船を売っても借金が残るなら、会社を存続させたほうがいい。人手不足などによって自力で事業継続ができない場合、M&Aという選択肢が出てくる。船員不足によるM&Aが今後増えるだろう。もしAシップに参画している各社がそのような状況になれば、Aシップが事業継続を支援する」
(聞き手:伊代野輝)

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