2023年9月6日無料公開記事内航NEXT 天草船主

<内航NEXT>《連載》天草船主②
若手経営者が結束、協力の輪拡大
天草マリン同志会座談会<上>

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天草マリン同志会事務局メンバー

 天草の内航船主らで構成する天草マリン同志会(代表幹事=大山章・真宝海運社長、以下同志会)は、若手経営者を中心に活動を行っている。他地域の内航船主の活動などに触発されて発足した同会だが、定期的に開催する「勉強会」に他地域の船主や舶用機器メーカーが集まるなど、連携の輪が広がっている。7月6日の勉強会開催に合わせて同会の事務局メンバーにお集まりいただき、同会設立から現在までの歩みや内航海運業界全体の課題などを語っていただいた。

<座談会出席者>(社名五十音順)
島崎敏幸・三幸海運社長、大山章・真宝海運社長、杉本憲彦・辰和海運社長、園田茜・天城汽船社長、尾上貴史・冨貴汽船専務、木村治・舛宝海運社長、浦山秀大・雄和海運社長
<司会>日刊海事プレス記者・伊代野輝

 — 天草マリン同志会のメンバー構成は。
 浦山「現在代表幹事を真宝海運の大山章社長、事務局長を冨貴汽船の尾上貴史専務が務めており、事務局メンバーが運営を担っている。参加者は地元海運事業者、舶用機器メーカー、保険会社、地方銀行、市役所など。80〜100者が勉強会に参加している」
 — 同会設立の経緯とこれまでの活動内容は。
 浦山「私が船を降りたタイミングで全国の内航船主の若手経営者の方々とお話しする機会があり、各地域の皆さんはものすごく勉強されていると感じた。当時は内航海運暫定措置事業をどうしていくかの議論が進んでいるところだったが、そもそも暫定措置事業が何かを知らなかった。天草が置いて行かれていることを実感し、このままでは他地域とどんどん差が開くという危機感を抱いた。そこで近隣の船主の皆さんにわれわれも勉強会をしないかと持ち掛けたのが始まりだ。2009年5月に設立し、立ち上げ当初は10社ほどだった。われわれは人前で話す機会がなかなかないので、勉強会では議論できる場を設け、発言できるチャンスを皆に与えて場慣れする機会にすることも意識した」
 杉本「私は特殊船を保有している関係で今治などの船主との交流があり、浦山社長と同様に天草が他地域から遅れていると感じていた。そこで同志会立ち上げに賛同した」
 大山「天草船主の親世代は横のつながりがあまりなかった。それも天草が他地域から遅れをとっている要因の1つだと感じており、連携していこうという気持ちがわれわれの世代は強かった」
 浦山「勉強会をこれまでに38回開催した。旬なテーマを取り上げることを心掛けており、具体例を挙げると船舶管理の協業化やNOx(窒素酸化物)排出規制、船員法改正などについて、全国から産学官のさまざまな知見を持った方々をお招きしてご講演頂いた。他地域の船主の皆さんにも参加して頂けるようになり、参加者同士でビジネスの話もできるようになった」
 木村「同志会の知名度が上がるにつれて、先方から講演したいとお声掛け頂けるようになった。特に舶用機器メーカーや保険会社などからお話を頂くことが多い」
 浦山「同志会は過去には船員確保のためのPR活動も手掛け、地元の水産高校の生徒の体験乗船やポスター制作、小中学校での出前授業などを有志で行った。これらの活動は現在は上天草市役所などで構成する『上天草市海運業次世代人材育成推進協議会』が引き継いでいる。体験乗船は許可の取得などで手間がかかるが、船員確保のために地道に続けている」
 大山「天草船主は中四国や大分で船を造ることが多いが、地元で新造船をお披露目することを大事にしている。船を仕事道具である一方で、自宅のように捉えている。以前は子供たちにとっても船が身近な存在だったが、今はそういった雰囲気が薄れてきている。子供たちに船を意識してもらうためにも、船に大漁旗を掲げて餅まきをするなど新造船の竣工をイベント化し、印象付けるよう努めている。この2カ月で4隻のお披露目会が開催された」
 — 天草船主の最近の状況は。
 大山「会社数は減少傾向だが、隻数は横ばいで、トン数は大型化によって増えている。ここ数年は保有船を増やしている船主が多い。一杯船主が2隻に、2隻所有が3隻に、といった具合だ。当社もこれまで取引のなかったオペレーターからお話を頂いた。そのオペレーターは同志会のこともご存じだった」
 木村「同志会を通じて融資制度などを勉強させて頂き、お陰様で当社も2隻に増やすことができた。来春には3隻目が竣工する」
 島崎「行政の助成制度などをこの会で勉強させて頂いた。皆で情報をオープンにしていこうという気持ちが強い」
 尾上「同志会などの取り組みが全国に伝わり、天草船主への信頼度が上がっているように感じる」
 浦山「天草は船員育成活動に力を入れているエリアというイメージを全国の方々に持っていただいている」
 大山「昔と比べると天草の船員数は減少しており、イメージが先行している面は正直ある」
 尾上「しかし、天草が船員の育成に取り組んでいるのは事実で、そこは他地域よりも先行しているのではないか」
 浦山「全国的な傾向と同様に天草でも船員はこのところは微増で、若者の割合も徐々に増えているが、肌感覚として船員は足りていない。また、天草船主は近年保有船が増加傾向にあり、運航を家族だけで賄えなくなってきている。5〜10年後に本格的に船員不足になる船主も出てくるのではないか」
 島崎「休日が増えている分、必要な船員数が増えているので、不足感がある」
 木村「天草船主の船では2カ月乗船・20日休暇が多く、他地域よりもサイクルが短いのではないか」
 大山「3カ月乗船は昔から天草では少ない」
 浦山「小型船が多いのも乗船期間が短い理由のひとつだと思う」
 園田「45日乗船・15日休暇も増えている。当社は地元に帰ってくる航路なので交代もしやすい」
 木村「乗船期間は柔軟に対応していて、卒業式も入学式も出席したいというような場合、40日休暇を取って4カ月乗船にしている」
(つづく)

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