2023年8月29日無料公開記事内航NEXT
内航キーマンインタビュー
<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊵
沖縄航路の貨物は回復途上
丸三海運、荒川社長に聞く
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荒川和音社長(右)と市原義隆専務取締役
丸三海運(大阪市)は、大阪/四国、大阪/沖縄、博多/沖縄を定期航路として内航貨物船を運航している。荒川和音社長に事業状況について尋ねると、四国航路の貨物取扱は厳しく、沖縄航路はコロナ後からの回復の途上にあるという。また、船員採用に積極的で、最近はスマホ用ページを作成して関心を高める工夫など行っている。
荒川社長のインタビュー概要は次のとおり。市原義隆専務取締役も同席した。
— 創業からの事業は。
荒川「昭和25年(1950年)、大阪で回漕業として創業し、27年に法人改組して丸三海運株式会社を設立した。大阪を起点に、四国の高松・坂出・丸亀との貨物輸送を行っていた」
「会社設立後は大阪から沖縄行きの貨物も積んでいた。当時は199総トン型を就航させて不定期だった。499総トン型2隻で定期運航を開始すると、顧客の利便性がよくなって貨物が増えていった。当時、沖縄までは沿海区域が切れているところがあり、近海資格がないといけなかった。いまのように限定近海がなかった。当社は近海資格があったので、沖縄国際海洋博覧会(1975~76年)のときは多くの貨物を運んだ。沖縄が離島で橋を架けるようになると、橋げたをけっこう運んだりした」
「2010年には福岡営業所を開設して博多/沖縄航路を新設した。水曜に伊予三島港、木曜に博多港で積んで沖縄へ行くという配船に変えたところだ。新造船を来年末に入れる予定で、神戸港、大阪港にも寄港する」
— 貨物の荷動きはどうか。
荒川「四国航路は貨物が厳しい。明石海峡大橋がかかってから大阪/四国の定期航路を多くの船社がやめた。トラックドライバーの時間外労働規制を強化する2024年問題があるが、四国と大阪は近いので、24年問題で船舶を活用するかというと厳しいと思う」
「沖縄航路は厳しいというところは過ぎて、それなりに推移してきている。コロナが収束してきて、底をうって上がりかけているがV字回復はまだ難しい。海外からの旅行客も一部、沖縄に来ているが、大型クルーズ客船が寄港して団体客が戻ってこないと需要はなかなか回復しないだろう」
— 船員について。
荒川「船員は50人弱、平均年齢は39歳だ。新卒採用は毎年実施しており、高卒から20代が多い。60代もいるが、40~50代が少ない。高齢船員を若手でカバーしている。令和元年から退職自衛官採用の企業説明会にも参加し、数人採用している。
「今年になり20歳代の航海士が退職したのだが、理由を尋ねると『乗船期間3カ月が長い』ということだった。一般的には3カ月乗船して1カ月休暇や、2カ月乗船して20日休暇となっている。その航海士は日帰りの仕事がしたいということだった。船員の給料は陸上と比べても厚遇されているが、給料の金額よりも日帰りの仕事で自由に友人と会えるライフスタイルを選択したいということだ」
— そういうニーズをつかまないといけないということか。
荒川「日帰りの船に乗りたいと言われても、当社では不可能だ。乗船期間が長いのは事実だ。現状より短くするのは目標だ。彼らの考え方も理解している。インターネットの船員採用サイトでスマホ専用ページを作成した」
市原「もともとホームページはパソコン用だったが、今年になりスマホ専用ページを作り、採用のページにとぶようにページを作った。船室、食事、船員の働き方と生活に特化して紹介した内容だ。これからも改良していきたいと思っている」
— 内航海運の知名度を上げることも必要だ。
荒川「日本内航海運組合総連合会、大阪海運組合も所属している全国海運組合連合会ともにそうした活動をしているが、まだまだやることはいっぱいある。それに船主にとって用船料が低く、物価高騰もあって上げてもらう必要があり、経済的にやっていけない」
— 大阪海運組合の理事長も務めている。近況はどうか。
荒川「今年3社退会した。今まで暫定措置事業があったので、海運組合が納付金の窓口になっていて、それで船主は代替建造していた。暫定措置事業が終了して自由に建造できるようになり、組合に頼らなくてもよくなった。用船料が厳しい中で組合費を払うことも考えて退会したようだ。地方組合の人と話しても組合員数が減っているという」
— これからの取り組みについて。
荒川「沖縄航路も四国航路も顧客の貨物を大事にしていきたい。いい船を造り、差別化を図って、乗組員を集めることに注力していきたい」
(聞き手:坪井聖学)