2024年2月28日無料公開記事内航NEXT

海上モーダルシフト徐々に
青果物物流、2024年問題の影響で

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 トラックドライバーの残業規制が強化される物流の2024年問題は多くの業界に影響を及ぼすと見られているが、その中でも特に強いインパクトが懸念されているのが青果物物流だ。鮮度が商品価値となる青果物は従来トラック輸送への依存度が高く、他モードの利用が少ない。その一方で、運べなくなる危機感からフェリーやRORO船を使ったモーダルシフトの動きも出てきている。青果物物流の海上モーダルシフトについて、現状や課題をまとめる。
 農林水産省によると、現在国内の青果物物流の輸送モード別分担率は重量ベースでトラックが97%、海運が2.5%、鉄道が1%弱を占めている。国内物流全体の分担率を見ると内航海運は7%前後で、青果物の海上輸送は他産業よりも少ないことが分かる。その理由のひとつが鮮度保持の難しさだ。青果物は鮮度が商品価値の重要な要素となるため、陸路よりもリードタイムが長くなりがちな海上輸送は敬遠されやすい。
また、青果物流通の特殊性も大きな理由だ。青果物は卸売市場を経由して小売りされることが多く、生産者は市況を見ながらどの市場にどれだけの量を持ち込むか決める。エリアによって価格が異なるのに加え、ひとつの市場に特定の青果物を大量に持ち込むと値崩れの原因になる。そのため、行き先をフレキシブルに決められる機動性の高いトラック輸送が重宝される。全国農業協同組合連合会(JA全農)の園芸部園芸物流対策課の入谷嘉紀上席主管は「フェリーやRORO船は乗船時間が厳密に決まっていて遅れが許されない。また、下船時間が夜遅い時間や早朝に設定されていることが多く、仲卸業者が商品を引き取る時間に間に合う市場が限られる。トレーラを使う場合は物量の確保も課題になる」と話す。
 商品特性や流通方法を理由に陸送が主流となっている青果物物流だが、トラックドライバーの残業規制による物流の2024年問題を目前に海上輸送にシフトする動きが出てきている。全農おおいたの大分青果センターでは少量多品種の青果物を各JAから集荷してパレットに積み、共同輸送を2019年から実施。センターはRORO船ターミナルに隣接しておりモーダルシフトも行っている。翌日販売から3日目販売へとリードタイムが延びたものの、集荷した荷物を倉庫内で12時間予冷することで品質を維持・向上。取り扱い数量を拡大するためセンターの拡張を行っており、3月に完了する予定だ。また、JA宮崎経済連では既に県外出荷の57%でフェリーを利用しており、24年には70%とする目標を掲げている。
農水省でもモーダルシフトに関する実証実験を実施。JA全農えひめとJAえひめ物流が愛媛県産の伊予柑をRORO船にモーダルシフトし、三島川之江港から千葉中央港までトレーラを無人航送し、その後陸送で大田市場まで輸送した。
 卸売市場を活用したモーダルシフト事例も出てきた。北九州市で青果卸を手掛ける北九州青果は青果物の定・低温卸売機能と集約・共同輸配送機能(北九州SP)を併せ持つ「丸北物流拠点」を北九州市中央卸売市場(小倉北区)内に竣工。深夜から朝までは北九州青果が卸売市場として機能させ、その他の時間帯は、JA全農が九州全土から集まる青果物を方面別にトラックに積み替え、積載率を高めたうえで関東や中京、関西へ運ぶ。フェリーを利用した輸送方法はその主力であり、モーダルシフト拠点として全農物流が拠点の物流業務を担う。現在はテスト稼働しており、4月から本稼働する予定だ。
 このように海上モーダルシフトの取り組みが青果物分野でも進んでいるものの、課題は少なくない。まず大きなハードルになるのが物流コストの増加だ。全農物流の秋山義郎執行役員は「北九州SPを経由することで荷捌き料が追加されるうえ、フェリーの乗船代もあり現状では全線陸路よりも経費がかさむ。生産者の手取りが減ってしまうため、運べるうちはこれまで通りトラックを使いたいという意向が強い」と話す。また、細やかな検品作業も青果物特有の問題だ。入谷氏は「青果物には産地別の出荷基準に基づく『等級』や『階級』と呼ばれる規格があり、その規格数が20以上に分かれている商品もある。中継輸送やモーダルシフトなどで積み替え作業を行うとこの規格も含めた確認をその都度行うため、工業製品などと異なる難しさがある」と説明する。
 これらの課題について、農水省はさまざまな対策を打ち出している。昨年末には同省の各品目・業界担当部署が参画する物流対策本部を設置し、第1回会合を開催。同時に「農林水産品・食品物流問題相談窓口」を設置した。1月時点で長野県東信地域の出荷団体から相談が寄せられており、物流コストなどの増加による収入減や2024年問題でリードタイムが延びることによる品質低下の懸念といった課題が挙がっている。農林水産省食品流通課の戎井靖貴卸売市場室長は「これまでは輸送方法を運送会社にすべて委ねていたケースも多いが、2024年問題により今までと同じ運び方は難しくなる。生産者と運送事業者、卸売市場などのステークホルダーが話し合って歩み寄ることが大切で、ご相談いただければ行政もそのお手伝いができる」と話す。
 2024年問題に対応するための予算も確保。モーダルシフト、物流の効率化やコールドチェーンの確保などに必要な設備・機器導入や中継共同物流拠点の整備を支援する。戎井室長は「卸売市場がモーダルシフトを含む中継拠点として果たせる役割は大きい。北九州SPは先行事例になる」と期待を寄せる。
 過渡期を迎えている青果物物流。これまでと同様のトラック運送主体の輸送では運べなくなる日が来てしまう可能性もあり、鉄道や海上輸送を組み合わせたモーダルシフトはそれを回避する手段のひとつになりうる。鮮度の維持やロットの確保といった課題に対し、予冷や共同輸送など新たなソリューションが出てきているものの、コストアップなど課題も多い。生産者や運送事業者、行政が手を取り合って持続可能な物流を目指すことが求められている。

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