2023年9月28日無料公開記事内航NEXT 内航オペレーター座談会

<内航NEXT>
連載:内航オペレーター座談会(上)
船員・環境・船隊整備、課題にどう挑む
榎本回漕店/栗林商船/田渕海運/杤木汽船

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左から、榎本氏、栗林氏、田渕氏、杤木氏

 内航海運は船員確保や環境対応、船隊更新などが課題となっている。内航オペレーターとして、榎本回漕店の榎本成男社長、栗林商船の栗林広行常務取締役、田渕海運の田渕訓生社長、杤木汽船の杤木一彌常務取締役に参集いただき、課題への認識や船種による違い、各社の対応方針、また、業界横断的な取り組みの必要性などについて語っていただいた。

<参加者(社名五十音順)>
榎本回漕店 榎本成男社長
栗林商船 栗林広行常務取締役
田渕海運 田渕訓生社長
杤木汽船 杤木一彌常務取締役 
<司会>
海事プレス記者/COMPASS編集長 日下部佳子

■船員不足、船種で濃淡

— 各社の内航海運事業の現状からうかがいたい。

田渕 当社の事業全体を100とすると内航60対外航40で、内航の内訳は石油化学関連70%、石油関連20%、セメント関連10%。大半がタンカーで、セメントのみ貨物船事業となっている。今日の座談会の参加者は皆さん百年企業。当社(1917年創業)が最も若いくらいで、約100年前に貨物船事業からスタートした。その後、貨物船から石油、そして石油化学向けのタンカーへと輸送対象が変遷して今に至る。現在、内航船はケミカル船とLPG船を合わせて約50隻を運航している。

榎本 当社は499総トン型貨物船を中心とし、鋼材と紙製品の輸送をメインでやっている。船隊は5隻。このほど中古船を1隻購入し、この秋に船隊に加わる。また、第二種貨物利用運送事業として、シャーシ・コンテナ輸送も手掛け、RORO船などを活用している。

栗林 当社はRORO船で北海道定期航路事業を行っており、自社運航の大型RORO船が5隻、用船に出しているRORO船が2隻ある。また、499総トン型の不定期在来船が5隻。本日はRORO船の話を中心にしたいと思う。もともと当社は製紙会社の紙製品を北海道から輸送し、その復路で古紙を輸送する事業を始めた。ただ、近年は紙の需要が落ち込み、生産を停止した製紙工場もある。このため、紙以外の貨物の集荷営業にも力を入れており、北海道航路のみならず、(東北〜関東〜大阪を中心とした)本州間のモーダルシフト貨物を取り込み、2024年問題(トラックドライバーの時間外労働規制強化)に対応する受け皿になれればと思う。

杤木 当社の事業は鋼材専用船、セメント船、一般貨物船の3本柱。このうち主力事業は鋼材専用船で9隻を運航している。日本製鉄が官営八幡製鐵所だった頃から同社の鋼材輸送を担っており、現在は日鉄物流さんを通し、100年以上、お取引させていただいている。また、セメント船は1隻、一般貨物船は1隻を運航している。

— さて、内航海運業界の課題について取り上げていきたい。まずは、船員の確保における課題について認識をお話しいただきたい。

杤木 船員不足は内航業界の共通課題だと認識している。船員のなり手が少なく、離職する人も多い。その場をしのぐ足元の対策も必要だが、長期的になり手のすそ野を広げる対策も必要だ。なり手不足の最大の原因は内航の仕事の認知度が低いことだろう。昔から、船員の仕事は給料が高く、船で日本各地に行けることがアピールポイントとされてきたが、現代の若者にはあまり受けない。当社は100年以上、内航海運業を続けているが、仕事の内容は大枠では大きな変化はなく、船員を集める取り組みも大きく変えてこなかった。それでうまくいっていた時代はもう終わったのかもしれない。変化の激しい他業界に対して、われわれの内航業界は取り残されていると感じる。

栗林 業界全体として船員不足は問題だ。実応募者倍率も減少しているが船員の養成機関の定員が削減され、新卒者数と、必要な船員数の需給バランスが崩れている。各社で新卒者を取り合っているような状況だ。その中でも当社の主力事業であるRORO船は比較的、新卒者に人気の船種で、応募者も他の船種よりは多いのではないかと思う。在来船と比べて居住環境が整備されていることと、船型が大型であること、司厨長が供食してくれることが魅力になっているのだと思う。しかし、一定程度の離職者はいるので、そこを改善しなければならない。

榎本 いま指摘いただいたように、業界全体の問題として認知度の低さがある。海技教育機構(JMETS)の船員教育機関や水産高校で定員割れが起きている。教員不足も深刻で、ギリギリの数で運営されているので、教員が一人でも欠けると教育が止まってしまうような状況だと聞く。船員の給与水準については、他の業界の給与水準もかなり上がってきているので、内航船も、地方の船主も含めて上げている。船員の労働環境を考慮すると、もう少しプラスが必要なのだろうが、それに見合うだけの運賃を必ずしもいただいているわけではないので、荷主にも理解を求めていく必要がある。認知度向上のアピールが必要であり、われわれオペレーターとして理解を求めていくことが必要だ。

田渕 内航船員全体の不足感は、全職種の人手不足感、洋上風力発電の導入拡大、トラックドライバーの2024年問題などに引っ張られて今後も続くだろう。また、船種によっても船員不足の状況は異なると思う。当社が手掛けているケミカル船が特に苦労しているかもしれない。タンカーは、船員が荷役作業をするので、年齢を重ねた船員は本船荷役のない貨物船に目を向けていき、タンカーの船員が減っていくことを危惧している。当社は配乗の問題から、自社船を7隻から5隻に減らさざるを得なかった。貨物船の場合は、休みを増やす方向で船員の確保を進めていると思うが、ケミカル船は、給料を上げても仕事が大変。もともとの船員不足に加え、働き方改革もあって、ますます船員が不足する。船員不足の問題を解決するには、陸上からの荷役作業の支援、船を大型化できるように港を整備したりシーバースを造ってもらうといった対策が必要だと思う。荷主業界の船員不足に対する危機感にも違いがあると思う。ケミカル船の荷主となる石油化学業界は将来の船員不足への危機感を持っていて、運賃を毎年、上げていく方向にある。一方、カーボンニュートラルの流れでガソリンなどが減っていく石油業界はまだそのような危機感が薄いように見える。石油は荷主の数に対して船会社が多いことも背景にあるのだろう。ただ、石油に代わる合成燃料が出てくればその新たな貨物を運ぶ船が必要になる。

榎本 内航貨物船の船員が洋上風力発電の作業員輸送船などへと流れていくことが心配だ。船員を募集して話を聞くと、そのような話が出てくる。たとえ給料が下がったとしても、自宅から通える仕事であれば、そちらの方に船員は流れていってしまうかもしれない。内航貨物船の将来の船員確保は今後大きな問題になりそうだ。

■確保・育成で多様な対策

— 船員確保のために個別の対策として取り組んでいることは。

杤木 当社は自社船が2隻で、予備船員を入れて12〜13人をマンニング会社を起用して手配している。他の船は用船だ。船員の確保のために当社単独でできることとは、離職を減らすことと、新規雇用を増やすこと。用船船主に聞くと、船ごとに船員の希望は異なるという。例えば、平均年齢が60歳以上の船だと給与水準の方により目がいくが、若い船員が多い船はお金よりも休暇が欲しい、といった具合だ。これまで当社は労働条件を同じようにしていたが、船ごとにニーズを把握して細かく要望を反映するように改めた。

栗林 当社グループの対策として、積極的に学校訪問をしたり、就職セミナーに参加したりしている。日本内航海運組合総連合会が内航船員志望者の増加促進を目的に昨年企画したYouTubeの内航海運チャンネル「ナイコ〜海運CH」で当社のRORO船を取り上げていただき、新卒者にも興味を持っていただくことができた。学生を対象とした乗船インターンシップも実施している。遠隔地の学生に対してウェブで説明会を開くなどフレキシブルな対応も心がけている。また、離職の理由は労働環境面が大きいと思うので、船内の居住環境の整備に力を入れており、居室にバス・トイレ、テレビ、冷蔵庫を備えているほか、Wi-Fiも整備して若い船員の雇用が定着するように努めている。当社のRORO船は用船を含めて7隻あり、このうち自社船員を配乗しているのが4隻。RORO船は1隻当たり11〜12人が乗船するので、80人弱の船員を確保している。

榎本 当社の場合、他の皆さんと比べて船員の確保にあまり苦労していないかもしれない。離職率は低く、若い人もいる。以前から、休暇を年間120日にしており、一般的な3カ月乗船・1カ月休暇という内航船員の働き方よりも年間で1カ月間、休暇を多くしている。中古買船して秋に船隊に加わる自社船の船員を募集しているところだが、若い人の方が採用しやすい状況だ。ベテランの船員も、当社に勤めていた人の口コミなどで、来てくれている。当社の場合、ほとんどが定期航路なので、一般的な499総トン型貨物船の中では乗船しやすいということもあるのだと思う。鹿児島/東京間のピストン輸送で、鹿児島周辺の船員も多い。乗船中の忙しさも長距離航路なので緩和される。通常の499総トン型船の乗組員は予備員を入れて7人程度なのに対して、当社の場合は8人。その分コストが上がるので、そこを荷主にいかに理解いただくかが課題だ。休暇については、年間120日でも陸上の仕事と同じくらいであるし、乗船期間中は完全に拘束されている仕事でもある。そういったところを変えていかないと若い人はこの業界に入りにくいのではないか。とはいえ、業界全体として足元で船員が足りてない現状の中で休暇を増やすのは難しいとも思う。

田渕 良質な船員を確保するために教育・訓練は重要であり、地道に続けていかなければならない。その取り組みの一環で、当社では操船シミュレーターを導入している。当社の船員のみならず、用船船主や他の海運会社にも活用いただき、航海術を磨いていただいている。

— 他に、船主の船員確保のサポートとしてどのようなことができるか。

榎本 当社は船員派遣事業の免許を取得した。派遣事業そのものを目的としているというよりも、ギリギリで船員を確保している船主が困った時に、傘下の船主に船員を派遣できるようにしておきたいと考えている。当社が船員を採用する時によい人がいれば、少し船員が多くなっても採用して備えておきたい。

杤木 船員を手配できずに船が止まってしまう事態は起こり得ることだと思う。船が止まるとオフハイヤーで大きな損失が生じる。われわれはマンニング会社と、当社の船隊で船員の不足が生じた時には優先的に派遣してもらうことを前提に取り決めている。また、船団の中で船員が不足した場合に互いに融通し合って対応することを船主会の場でもお話している。

栗林 当社も船主とコミュニケーションを取りながら、互いの船員の派遣による貸し借りを行っている。
(つづく)

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