2022年7月26日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

《連載》内航キーマンインタビュー②
環境・BCPでフェリーに優位性
新日本海フェリー社長・東京九州フェリー会長 入谷泰生氏

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 新型コロナウイルスで落ち込んだ旅客需要が回復に転じ、アフターコロナに向けて再び活性化に取り組む長距離フェリー業界。貨物輸送でも、荷主の環境意識の高まりや、2024年度から始まるドライバーの時間外労働規制の強化に伴う「2024年問題」への対応策として、フェリーへのモーダルシフトの機運が高まり、受け皿整備を進めている。北海道/日本海フェリー航路を運航する新日本海フェリーの社長や、昨夏に横須賀/新門司フェリー航路を開設した東京九州フェリーの会長などの要職を務める入谷泰生氏に長距離フェリー事業の現況と将来に向けた展望を聞いた。

■SNS活用でPR促進

 ― 新型コロナウイルスの感染拡大により、旅客輸送を中心にフェリー事業に大きな影響が出た。現在の状況は。
 「新日本海フェリーが運航する北海道航路は、夏場の観光客の利用が主力だ。だが、新型コロナウイルスの感染拡大による影響で、2020年と21年の2年間は観光客が大きく減った。ただ足元では、旅客が回復傾向にあり、今年のゴールデンウイークも夏の予約状況も堅調に推移している。コロナ前の平均と比べても8~9割程度は戻っている状況だ。現在のフェリーは個室化が進んだほか、できる限りの感染防止策も行っている。他の交通機関と比べてもフェリーの方が安全という声も出ており、今後も集客を進めていきたい。貨物輸送では、コロナ1年目は減少したものの、昨年は回復し、ほぼ例年並みに戻っている」
 ― アフターコロナに向けた旅客輸送の活性化の方針は。
 「まずはコロナ禍で休止を余儀なくされていた船内イベントを復活させていきたい。また、最近ではSNSを活用したプロモーションにも力を入れている。YouTubeを見た人が乗船するケースや、乗船したお客さまがインスタグラムで発信するケースもある。既存メディアのみならず、さまざまな手法を使ってPRを進めていく。インバウンドについてはコロナが落ち着けば、入国規制の緩和ともに増えてくるだろう。コロナ前には日本長距離フェリー協会としてもインバウンドの獲得に取り組んできたが、軌道に乗りつつある所でインバウンド需要が消失してしまった。再び力を入れていきたい」

■無人航送が究極的な理想

 ― 貨物輸送では荷主の環境意識の高まりや、ドライバーの時間外労働の上限規制強化で長距離陸送が難しくなる「2024年問題」などを背景に、モーダルシフトの機運が高まっている。
 「現時点で物量が急激に増えている状況ではない。大手事業者は何とか2024年問題に対応しようと検討を進めているものの、現実的には運転手の仕事量をどう確保していくかという問題もある」
 「北海道航路は元々、モーダルシフトが進んでいたが、関東/九州間ではトラック陸送が主力だ。こうした中、昨年7月から東京九州フェリーとして横須賀/新門司航路を新設した。高速フェリーの誕生によって、これまで陸送していた貨物でフェリーを使う動きが出てくると期待している。フェリーは環境にも優しく、CO2排出量がトラック陸送と比べて約5分の1程度と言われている。環境への意識が高い荷主や、モーダルシフトに積極的な事業者には既に東京九州フェリーを利用していただいている。例えば日本物流団体連合会の今年の低炭素物流推進賞として、佐川急便と東京九州フェリーによるモーダルシフト事業が表彰された。トラック陸送からフェリーに切り替わるのには時間がかかると思うが、徐々にモーダルシフトが進むと想定している。フェリーの認知度はまだまだ高いとは言えないが、営業活動を通じて雑貨や宅配貨物などを取り込んでいきたい」
 ― 近年は自然災害が頻発化・激甚化しており、代替輸送手段として内航海運への注目も高まっている。
 「BCPの観点からもフェリーは有用だ。震災や大雨などの自然災害で、道路や貨物鉄道が寸断された時の代替輸送手段として注目されている。荷主も有事に備えて、輸送ルートを分散化する動きがある。フェリーは港湾さえ機能していれば柔軟に対応できるため、こうした強みを生かしてBCP利用を促していきたい」
 ― モーダルシフトをさらに加速していくためにはどうしたらよいか。
 「有人車のフェリー利用についても、乗船中にドライバーの休息時間を確保できるほか、交通事故リスクの回避やガソリン消費量を抑えることができるなどのメリットがある。だが、最終的にはトレーラーによる無人航送が理想だ。無人航送に切り替えることで、ドライバーは長距離輸送の必要が無くなり、両端での運送のみとなる。人手不足が大きな課題となる中、ドライバーの有効活用を図ることができるほか、ドライバーにとっても毎日帰宅できるようになり、働き方改革につながる。トレーラーへの初期投資は大きいものの、長距離輸送が無くなり陸送距離が減る分、車両の耐用年数やタイヤなどのランニングコストも節約できる。経済効果を見ても、長距離の輸送になればなるほど無人航送の方が、メリットが大きくなると考えている。北海道航路では既に無人航送が9割近くあり、その他の航路でも加速していきたい」
 ― 輸出入される国際貨物の国内輸送でもフェリーは注目されている。
 「SHKライングループでは、国内フェリーと国際フェリー・RORO船を組み合わせたシームレスでスピードの速い複合一貫輸送サービスを展開している。蘇州下関フェリーの太倉/下関航路と、関釜フェリーの釜山/下関航路を東京九州フェリーの横須賀/新門司航路などにつなぎ、高速で輸送している。1日3~4台程度の国際貨物は定期的に国内フェリーを利用している状況だ。今後も案件を拡大していきたい」

■環境・デジタル対応を加速

 ― 燃料油の高騰やインフレが進行している。影響と対応策は。
 「長距離フェリー業界に限らず日本の産業全体として、これまではコストの増加分を企業の経営努力によって吸収してきた。だが、いよいよ限界に近づいている。経済が右肩上がりで伸びている時は薄利多売でも上手くいくが、物量が大きく伸びないと厳しくなる。今の日本は、賃金が上昇しないため消費が増えず、消費が増えないため物量も増えないという悪循環に陥っている。日本の人口が減少する中で、物量の増加が期待できないとなると、生産性を高めていくしか方法はない。長距離フェリー業界では船型を大型化して需要を取り込み、生産性を高めることで上昇コストを吸収してきたが、大型化も限界に来ている。そうなると運賃のあり方を再考していく必要がある。フェリー会社としては、燃料油コストが上がる中でも、次期フェリーのリプレース資金や、乗組員と社員のベースアップのための原資などを確保していかなければならない。一方で、トラック事業者においても安全対策や2024年問題、燃料高騰でコストが上がってくるので、過当競争で運賃が上がらなければ成り立たなくなる。これからは産業の各セクションで、サービスに見合う適正な料金を支払うことが必要になる」
 ― 今後の船隊整備計画は。
 「国内の長距離フェリーは、多くの会社が20年近く使っている。当社の場合は、新日本海フェリーが8隻、東京九州フェリーが2隻を運航しており、竣工年も分散しているため、4~5年に1回はリプレースを行う必要がある。昨年、東京九州フェリーの2隻が就航したばかりであるため、現時点で次の新造計画は具体化していないが、今後検討していくことになる」
 「最近の船は省エネ化も進んでいるが、一方で脱炭素化に向けた新しい設備や鋼材などの資材価格の高騰によりイニシャルコストとなる船価は上昇している。また、日本の造船所でフェリーの造り手が減っているのも気がかりだ。フェリー各社の発注が特定の造船所に集中すれば、船台を確保することも難しくなる。将来的には海外に発注せざるを得なくなるかもしれない」
 ― 新造整備を行う時には環境対応も大きなテーマだ。
 「新造船を建造する場合は、環境対応も進めていかなければならない。だが現時点では、新燃料の決め手がなく困っている。外航を中心に、LNGからアンモニア・水素といった移行を検討する動きが出ているが、こうした新エネルギーが国内フェリーにどのタイミングで導入することができるか注視していく必要がある。LNG燃料を含め次世代燃料は、本船の建造船価の上昇やオペレーションの問題、燃料供給の問題など課題は大きいと考えている」
 ― デジタル技術の活用も進めている。
 「新日本海フェリーとして、日本財団が推進する無人運航船プロジェクト『MEGURI2040』に参加した。期初の目的を達成し、次のステップに向けて進めていくが、業務負担の軽減や安全性の向上などを期待している。ただ、無人化は全てが無人化されなければ安全上も問題が残るので簡単にはいかないと思う」
(聞き手:中村晃輔、坪井聖学)

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