2022年7月19日無料公開記事内航NEXT

《連載》次代への戦訓
ポスト暫定措置、環境規制などに対応
日本内航海運組合総連合会前会長 小比加恒久氏①

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 日本内航海運組合総連合会(内航総連)の会長を2015年から4年間務めた小比加恒久氏(東都海運社長)。任期中に内航海運暫定措置事業終了後の業界の在り方の検討や、2020年1月からの硫黄酸化物(SOx)排出規制への対応などの重要課題に対応した。小比加氏に、内航総連会長時代を中心とする業界活動と、独立系内航オペレーターの経営者としてのこれまでの歩み、内航海運業界の次の世代へのメッセージを語ってもらった。

 私は内航総連の会長を2015年から19年までの4年間務めさせて頂いた。任期中は内航海運暫定措置事業の終わりが見えていたため、同事業の円滑な終了の仕方や、その後の内航海運組合のあり方などを議論してきた。当初は内航総連傘下の各組合もそれほど切羽詰まっていなかったため、議論はなかなか進まなかったが、2018年の正副会長会議で同事業終了後のあり方に関する基本方針をまとめた。2021年に暫定措置事業が終了し、内航海運業界は新たなステージに入ったが、現在は過渡期なので内航総連の栗林宏吉会長(栗林商船社長)は大変ご苦労されているのではないかと思う。
 内航海運業界では1967年から船腹過剰対策として船腹調整事業(スクラップ・アンド・ビルド方式)が実施され、同事業終了後の激変緩和策として1998年に暫定措置事業がスタートした。内航船を建造する際は建造申請を行って納付金を支払い、解撤する際に交付金を受けられるという制度で、退職するオーナーを金銭面で補填するという意味合いがあった。このように、船腹調整事業も暫定措置事業もオーナーのための対策という性格が強かった。暫定措置事業の終了によって、オーナー対策一辺倒だった内航海運政策が、オペレーターにも少し目を向ける方向に変わってきていると感じる。
 私の内航総連会長時代に直面したもう1つの大きな課題がSOx規制への対応だ。IMO(国際海事機関)で2020年1月1日からのSOx一般海域排出規制が決まり、外航船だけでなく内航船も含めて硫黄分が0.5%以下の低硫黄燃料油に切り替えるか、スクラバー(排ガス浄化装置)を搭載するか、LNGなどの代替燃料に転換するかのいずれかの方法で対応しなければならなくなった。内航船はスクラバーの搭載スペースが限られるなど物理的な制約があるため、現実的には低硫黄燃料油への切り替えしかほとんど選択肢がなかった。ところが、SOx規制に対応した重油はまだ出回っておらず、その価格がどの程度になるのか、十分な量が供給されて全国津々浦々で給油することができるのか、あるいは既存船で使用してエンジンなどに不具合は起こらないのかといったことが不透明だった。このため、内航船については同規制の特例を認めてほしいという議論も起こったが、最終的には外航船と同じ2020年1月1日からスタートした。国土交通省海事局には、SOx規制適合油のサンプルによるトライアル航海を行ったり、同規制による追加コストの運賃への転嫁について荷主に理解を求めるなどご尽力を頂き、お陰様で同規制開始後も大きな問題は起こっていない。
 環境規制の内航船への適用はこれからも続く。最も大きいのが低・脱炭素化への対応で、いずれは内航船でも重油が使えなくなるのだろうが、それに代わる燃料が何になるかはまだ見えない。LNGやアンモニアなどの代替燃料は大型船では導入可能だが、199総トン型や499総トン型の内航船では難しい。バッテリー推進も選択肢の1つだが、電池が重たいため貨物積載量が減ってたり、航海時間も限られる。一方、新燃料は供給の問題で特定の港でなければ調達できないとなると、物流にロスが生じることになる。個人的には小型で高性能の舶用電池を開発して頂ければ一番いいと思っている。
 内航船の海外売船のタイミングは現在は船齢20年ぐらいに伸びていて、海外では船齢30年以上の日本製の内航船が現役で動いているが、もし将来重油焚きの内航船を海外売船できなくなると、売船収入で建造費用を回収することができなくなってしまうため、将来の売船のことも考えて対応していく必要がある。
 船員不足も大きな問題で、若者に内航船員になりたいと思ってもらえるようにアピールしていかなければならない。船員不足の問題は私が入社した当時からあったが、外航船員の外国人化によって外航日本人船員が内航船に転職したり、暫定措置事業による船隊の縮小などがあったため、その場しのぎで何とかやってこれた。業界が若手船員の確保育成を真剣に言い出したのはここ10年くらいで、船員の採用や教育に一生懸命取り組んでいるが、業界として内航船員の魅力をなかなか発信できていないのが現状だ。内航船員は面白くてやりがいのある職業だと思う。もちろん良いところばかりではないが、3カ月乗船すればまとめて1カ月の休暇が取れるし、その間の給料も出るというのは他の職業にはない魅力だ。内航総連の広報委員会も、内航船員の魅力をアピールするパンフレットやビデオなどを製作している。
 内航船員の働き方改革の一環で、この4月から船員の労務管理に関する規制が強化された。内航海運事業者にとって負担が増したのは事実だが、内航船員を適切な労務管理といったごく当たり前のことが当たり前にできている職業にし、それをアピールしていかなければならない。それには当然コストがかかるが、業界が将来に渡って持続していくために不可欠であり、それも踏まえたモデル的な契約条件を、行政が入ったうえで荷主、オペレーター、オーナーが作成する必要がある。
(全5回、聞き手・構成:深澤義仁)

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