1. ニュース

2022年8月2日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー④
スマートシップ・新燃料船に挑む
本瓦造船・本瓦誠社長

  • X
  • facebook
  • LINE

 内航船業界では船員不足や脱炭素化が大きな課題となるなか、内航の特殊タンカーをはじめ多様な内航船を建造する本瓦造船は、オーダーメードで培った開発力を活かし、デジタル技術による遠隔荷役、離着桟支援、機関監視システムを搭載したスマートシップ“りゅうと”や、水素とバイオ燃料によるハイブリッド型電気推進旅客船、高仕様の船員室開発などを通じて課題解決に向けた取り組みを進めている。本瓦誠社長(写真)に内航船の造船業界の現況と事業方針を聞いた。

■船員の三大労務の省力化を実現

 ― 内航の各種船種を建造しているが、内航船業界の課題をどのように考え、取り組んでいるか。
 「内航船業界にとって船員不足が喫緊の課題で、造船所ができる対策の一つとして船員業務の省力化・労働環境改善が急務と考えている。特に労務負荷の大きい作業が荷役、離着桟、機関監視の3つで、昨年建造した内航ケミカルタンカー“りゅうと”には、これらの省力化のためデジタル技術をフル活用した集中荷役遠隔システム、離着桟支援システム、陸上支援システムを搭載した。これまで外航大型タンカーにしか採用されなかった遠隔荷役システムを、最新のデジタル技術の導入により大幅に小型化し、小型内航タンカーへの搭載が実現した。内航船独自の運航形態に沿って開発したスマート船システムは、広い汎用性をもち、引き渡し後のアップデートが可能なのが特長だ。デジタルプログラムを書き換えることで性能向上を図ることができるので、それぞれのシステムの拡張・高精度化を目指して開発を継続しており、“りゅうと”では引き渡し後も既に数回、制御プログラムをはじめとしたアップデートを行っている。また集中荷役遠隔システムは新造船だけでなく、既存船へのレトロフィットも可能とした。新造船の引き合いには、こうした省力化システムの搭載も提案しており、普及を目指している」
 「船員の居住環境改善につながる内装の提案もしており、耐騒音、結露対策、家具家電の使い勝手向上など機能性とデザイン性に優れた船舶内装を開発した。内装の3Dモデルを作成し、パソコンの3Dモデルによる設計打ち合わせを可能にしたことに加えて、当社の工場の一角に船員室のモデルルームを設置し、実際に使用する内装材料も展示することで内装コンセプトをよりわかりやすくした。今後も若年船員や女性船員など多様化する居住環境事情にも対応できるよう改良していく」
 ― 内航船でも脱炭素化が今後の大きな課題となる。
 「水素とバイオ燃料によるハイブリッド型電気推進旅客船の建造が内定しており、詳細設計を開始している。技術面だけでなく、法令への対応など課題も多いが、これまでの特殊船の建造経験を活かし、確実に完成させる。このほか、水素を燃料とする内航貨物船開発プロジェクトチームに参加し、共同検討を進めている」
 「新燃料の適用だけでなく、従来燃料での燃費性能向上の要望も多い。国交省の内航船省エネルギー格付け制度が始まって以来、当社は6隻で最高評価の5つ星を獲得しており、“テクノエース”は国内のバンカー船(船舶燃料供給船)として初めて5つ星を獲得した。引き合いの段階で格付けへの問い合わせも増えており、仕様に対する格付けの目安も伝えながら提案している。水槽試験も要望に応じて実施しており、499型以下のタンカーで水槽試験の結果を基に推進性能を向上した船型を複数ラインナップしている」

■オーダーメードが開発力の源泉

 ― 最新技術を適用した船や多様な船種の建造に取り組んでいるが、強みの源泉をどのように考えているか。
 「当社は創業時の工場拡張の余地が小さく、特殊タンク船や旅客フェリー、セメント船といった小型でも付加価値の高い船舶の建造に注力してきた歴史がある。年間建造隻数は8~10隻だが、ほぼ全てが一品もののオーダーメードで、設計難度の高いものでもニーズがあれば何でも積極的に挑戦するという企業風土があり、それを代々受け継いできたところに強みがあると考えている。特に貨物タンク内面にライニング施工した特殊タンク船の建造実績は国内最多になるだろう」
 「製造面では船体ブロック製造を全て内製化することで効率的な品質・工程管理体制として、あらゆる船種や短納期案件に対応することで船台を空けることなく、幾度とあった造船不況を乗り越えてきた」
 ― 多彩なラインアップの中でも特に特殊タンカーをはじめとする内航タンカーの建造実績が多いが、現況をどう見ているか。
 「当社が主力とする内航油タンカーや内航ケミカルタンカーの荷動きはコロナ禍以前に近い水準に戻りつつあると認識しているが、昨年からの急激な鋼材価格高騰による引き合い案件の延期や中止、契約済み新造船の材料購入時の差額による減益といった厳しい状況にある。当社は多くの船種の建造実績があり、現在は官公庁船も防衛省向けに加えて、海上保安庁向けにも取り組んでいる。製品・サービスの品質向上はもちろんのこと、顧客ニーズに沿った新開発、新提案をもって営業努力を続けていくことで受注を獲得していきたい」

■挑戦する企業風土の伝承

 ― 設備投資の状況は。
 「内航造船所としては比較的早い時期に3D配管設計、鋼板NC切断機、型鋼NC切断機を導入した。数年前から船殻ブロックへの先行艤装を積極的に進め、取付消化率まで管理している。設計は現在2D-CAD中心だが、今後は全船で3D設計導入を目指して取り組んでいる」
 「コロナ禍を機にノートPCとタブレットPCを導入し、全ての社内会議をペーパーレス化した。顧客の要望に応じて承認図書や完成図書といった図面類もペーパーレス化している」
 ― 人員体制は。
 「正社員が70人で、毎年新卒で2~3人を採用している。営業・設計・製造全ての部門のスタッフが若く、顧客要望への柔軟な対応や業務改善を進めやすいことも強みだ。構内に常駐している協力会社の社員も全体的に若い」
 「採用活動や定着率向上のため、働き方改革を推進しており、工事量の調整などで年間休日数を3年かけて24日増やした。ノー残業デーを毎週設定するなど働きやすい職場環境づくりを目指している」
 ― 将来どのような会社にしていきたいか。
 「今後数年間で内航船にとって大きな技術転換が起こる。この過渡期に全社員が新しい技術や工法に果敢にチャレンジしていく会社にしたい。社員の平均年齢が若いので、設計も製造も技術伝承が最大の課題だ。特にカーボンニュートラルや省力化への対応で船舶に導入される技術がより高度化していくので、仕様の立案や機器の選定などを含めた初期計画をこなす、いわば上流設計の人材確保・育成が重要になる。また修繕船も船舶設備の高度化・自動化が進むことで、より高品質で継続的なメンテナンスサービスが求められるので、修繕サービスの充実も図っていきたい」
(聞き手:松井弘樹)

関連記事

  • Sea Japan 2024 特設サイト
  • カーゴ