2024年1月11日無料公開記事洋上風力発電

風力メンテ大手の北拓と資本提携
商船三井、協業深化で洋上風力に展開

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写真左から、商船三井の橋本剛社長、北拓の吉田ゆかり社長

 商船三井は風力発電メンテナンス国内最大手の北拓と資本提携すると10日に発表した。商船三井が北拓の発行済み株式の過半数を取得した。両社はこれまでも風力発電バリューチェーンで共同事業を進めてきたが、今回の資本提携を通して協業関係を次のステージに引き上げる。短期的には北拓の既存の中核事業である陸上風力発電のO&M(オペレーション&メンテナンス)で実績を積み上げ、協業の基盤を構築しつつ、2030年以降本格的に運転を開始する洋上風力発電のO&Mや長期的な海外事業への進出に向けた仕込みを進めていく。同日行われた報道向けの説明会で商船三井の鍬田博文専務執行役員・エネルギー営業本部長は北拓との提携について、「船と同様に風車も10〜20年と使用するにあたり、北拓は専業の風力メンテナンス会社としてコミットし、現場で覚悟を持ってやられてきた。同社との協業は当社グループの風力発電事業にとって新しい始まりの大きな一歩として認識している」と述べた。

 今回の資本提携により、北拓は商船三井の連結子会社となる。経営は引き続き北拓の吉田ゆかり社長らが担う予定だ。北拓は業界の急速な規模拡大とプロジェクト規模の拡大の中、個人オーナーからの脱皮を図るとともに、商船三井グループは経営計画「BLUE ACTION 2035」において、非海運事業のさらなる成長を遂げるための一環として洋上風力発電事業をとらえており、今回の資本提携に至った。
 北拓は国内最大の独立系風車メンテナンス企業。1999年にメンテナンス事業を開始して以来、豊富な顧客基盤を抱える。日本に建設されている風車約2500基のうち約80%にサービスを提供している。また、自社所有の訓練用の陸上風力発電設備を有し、風車メンテナンスエンジニアの技術力育成にも注力している。
 同社の吉田社長は報道向けの説明会で今回の資本提携について、「風力発電産業の中でも洋上風力は規模の拡大により、未来に向けた構想の中で私どもの力だけでは及ばない点があった。商船三井との資本提携は、互いの良いところを出し合い、さらなる業界の発展につながる素晴らしいタッグになるだろうと期待を持っている」と述べた。
 数万点の部品で構成される風力発電機の安定した運転を支えるためには長期間にわたる適切なメンテナンスが不可欠だ。特に洋上風力では風力発電機本体へのメンテナンスに加え、海洋構造物や敷設した海底ケーブルへのメンテナンスも必要となる。これらの作業には技師を送るための交通船が必要になることに加え、ROV(遠隔操作型無人潜水機)などの海中遠隔監視機器を操作するための母船も必要となる。洋上風力O&Mは20年超の風車運転期間にわたり、エンジニアと船を組み合わせたサービスが必要となるため、洋上風力サプライチェーンの中でも最も広がりの大きい市場と言える。
 商船三井は2017年から北拓と協議をはじめ、業界のパイオニアである北拓から総合的なアドバイスを受けることで風力発電業界への新規参入を加速してきた。19年7月には北拓の紹介により島根県益田市陸上風力発電事業に参画、21年12月には洋上風力発電事業への投資を目的としたファンドを両社で設立した。また、22年10月には資源エネルギー庁の補助金を受け、北拓北九州支店に洋上風車トレーニング施設の建設を開始し、協業を深めてきた。「この数年間、さまざまなかたちで信頼関係を築いたうえで、同じ方向に向かっていける相手だということを判断、評価していただき今回の資本提携に至った」(商船三井の杉山正幸執行役員)。
 両社は資本提携を通じ、北拓が有する風力発電メンテナンスにおける豊富な実績とノウハウ、ネットワークと、商船三井グループの海運業をはじめとした社会インフラ事業での操業経験を掛け合わせ、O&Mを大きな強みとして洋上風力産業の拡充に貢献する。「既存の陸上風力事業をしっかりと成長させたうえで、2028年以降にO&Mの本格化が見込まれる国内の洋上風力分野に参入し、一定のシェアを取っていきたい。将来的には当社の海外ネットワークを活用した海外のO&M案件への参画や、浮体式洋上風力についても貢献していきたい」(杉山執行役員)。
 商船三井は4月をめどに北拓に3〜5人程度の人員を派遣することも予定している。

写真左から、商船三井の杉山執行役員、鍬田専務、北拓の吉田社長

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