2022年12月12日無料公開記事内航海運事業者対談 内航NEXT

<内航NEXT>
《連載》内航海運事業者対談④
環境対応で国の支援を
青野海運・青野社長×宮崎産業海運・宮﨑社長

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宮﨑氏(左)、青野氏

<対談参加者(社名五十音順)>
青野海運 青野力社長
宮崎産業海運 宮﨑昇一郎社長
司会 日刊海事プレス副編集長 深澤義仁

■当面はバイオエタノール

 ― 内航船の有望な代替燃料は何か。
 青野「例えば、重油に代わる燃料の1つであるアンモニアは発熱量が低いので、より大きいタンクを積まないといけないが、われわれの小型船にはそのスペースはない。最低でも1回の補油で400マイルくらい走らないと今の運航が維持できないが、それをしようとすると貨物タンクよりも大きい燃料タンクが必要になる可能性もあり、いったい何を運んでいるのか分からないということになる。昨年に国土交通省でプレゼンする機会をいただいた時には、小型船の脱炭素は電気を使うしかないという話をさせて頂いた」
 「われわれは補助金を頂いて2019年に高度省エネ船を建造した。その船は船体抵抗を減らして原単位CO2排出量を少なくするというコンセプトだったが、とにかく建造コストが掛かり、その上コロナ禍に直撃されて大赤字を計上した。補助金を頂いたが、船全体ではなくエコ関連投資額の半分の助成だ。内航船の現在の船価がその当時と比べて3割くらい上がっているので、もう一隻と言われてもとてもできないというのが正直な感想。今は既存船隊で稼ぎながら、次世代船のスタディをしてチャンスがあればやっていくというスタンスだ」
 ― 公的な支援がないと内航船主が次世代環境対応船を造るのは難しいということか。
 青野「公的な支援は必須だ。それは国交省でプレゼンした時にも申し上げた」
 ― 内航船の船価の上昇は、鋼材価格の高騰に加えて内航船の建造ヤードが減っているということも影響しているのか」
 青野 そういう影響もあると思う。小型タンカーはまさにそうで、造船所がどんどん撤退してしまって現在は国内に年間建造量が4~5隻の造船所が数カ所あるだけだ」
 宮﨑「当社も昔からお付き合いがあった造船所が内航船の建造をやめてしまった。これから内航船の建造を増やしていくという造船所は今のところない」
 「先ほどの話だが、環境対応船のために新しい設備を入れるとなると、やはり補助金などがないとコストが掛かるので難しい。国がそのような政策を推進するのであれば、国が何らかの後押しをしないとモチベーションアップにはならないのではないか」
 青野「環境対応に率先して取り組んでいる人が血を流しながら先を走るような制度では困る」
 宮﨑「例えば国が環境対策としてバイオエタノール燃料使用を推進するのであれば、補助制度を使って重油と同じ値段にしてほしいと思う。そういうことをやらないと誰もバイオエタノールにしようとは考えない。国の支援制度を使って環境対応船を造ったとしても、船は燃料がないと動かないので、造った後の運航のことも併せて考えて頂きたい」
 青野「2030年を超えても大半の船は重油で走らざるを得ないと思う。それを少しでもカーボンニュートラルに近付けたいのであれば、バイオエタノールしかない。それ以外は船そのものを変えないといけないので巨額投資が発生してしまう。われわれは勉強して次世代船もやろうとしているが、そうではない大半の船には経済合理性を担保しつつバイオエタノールを供給するしか方法はないと思う」
 宮﨑「青野さんのお話にもあったが、造った船が赤字だったらどうしようもないので、ある程度の経済性も考えていかないといけない」
 青野「そのような赤字船が3隻もあったら当社は潰れてしまう。ただ、最新鋭の船はメディアにも取り上げられたり、船員が写真を撮ってSNSにアップしたりするのを見ていると、乗船する船員のモチベーションは上がるようだ」
 宮﨑「外航船では、LNG焚きなどの環境対応船の一般的な建造を国が支援する制度というのはなかなか難しいと思うが、内航船は国内専属なので受益者がはっきりしているため、それができる。内航船であればバイオエタノールの価格の差額を補助するというのは意外と簡単ではないかと思う」

■本命は電気推進船

 ― 脱炭素化を踏まえた内航船への投資方針は。
 青野「既存燃料仕様の内航船のリプレースはここでいったん止めようと思っている。既存船で稼いだお金を次世代船に投資したい。われわれは次世代船として電気推進船を考えているが、問題は発電機を回すエネルギーが重油なのか、バイオと重油の混焼なのか、水素やアンモニアなのか。これは時代に合わせて今後決めていく。ツネイシクラフト&ファシリティーズが建造した水素燃料船を見学させて頂いたが、燃料供給も含めて大変興味深い仕組みで、各地域の水素関連事業とつなげれば本格的な水素燃料社会が見えてくるかもしれない」
 「利益をハードウェアに投資する前にやりたいこととして、スタートアップに直接出資して一緒に研究開発しようかとも考えている。われわれの運航データは価値があるはずだ。先ほど話したMarindows社やグローク・テクノロジーズ社などと意見交換したり、開発中の製品を見せてもらったりしている。グローク・テクノロジーズ社はウォッチキーピングのシステムを開発していて、半年に1回くらい見せていただいている中で劇的な進化を感じる。こういった企業に投資して研究開発を後押しできればソフトとハードの両面で舞台が整う時間が早まり、業界に資する投資になる」
 ― 内航海運のゼロエミッションに向けた課題は。
 青野「内航と一口に言っても小型船から大型船まであるが、どの船型でも燃料転換のハードルは非常に高い。われわれは電気という選択をしているが、その電気でもハイブリッドであればCO2を排出する。それをゼロにするためには陸上からバッテリーに充電する方法をとらなければならないが、その電気がCO2をどれくらい排出して作られているのかが分からない。このような問題は海運会社だけで考えるものではないので、もっと大きい組織体で議論すべきと思っている。日本全国の港湾でカーボンニュートラルポート構想が立ち上がり、地元の新居浜港も指定されて私もメンバーに入っている。私が要望したいのは、構想実現のための環境対応設備投資に対する制度的な後押しと、もう1つは排出権取引の活用。行政や業界団体などが排出権を海外や国内他産業から買い、それを内航海運に与えてほしい。既存船を少しでも長く使うという発想は時代に反するかもしれないが、運輸部門に占めるCO2排出量を見れば、全体最適を考える上でそういう柔軟な発想も必要ではないか」
 宮﨑「CO2を多く排出しているのは大手の製造業で、内航海運と比べたら巨大企業だが、巨大であるが故にいろいろな意味でコントロールしやすい。逆に、内航業界には巨大企業はないので、各船社企業が単体で主導して取り組むというのはなかなか厳しい。このため国が方針を出す必要があるが、今は目標だけで具体的に何をやっていくかというものがない。内航業界の大きな特徴は他の業界に比べて船などの設備が古いことだ。船齢20歳以上の船も多いので、国が省エネ船のリプレースが進むようなルールを作ったり、エンジンメーカーに省エネエンジンを開発してもらったりしてリプレースを推進するというロードマップを作らないといけない。削減するために何をやるという経済的な具体性に踏み込んでいかないといけない」
 ― 本日は有難うございました。
(連載終わり)

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