2024年7月29日無料公開記事洋上風力発電
海技研、研究発表会を開催
GHG削減や風力発電などテーマに研究成果を発表
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海上技術安全研究所(海技研)は26日、研究発表会を対面とオンライン併用のハイブリッド形式で開催した。「海技研のプロジェクトの進捗と今後の展開」と題し、温室効果ガス(GHG)削減や自動運航船、洋上風力発電など5つのプロジェクトチーム(PT)の研究成果や今後の展望が発表された。このうちGHG削減PTの発表では、空気潤滑法や代替燃料の研究や、省エネ船型の検討結果などが紹介された。
冒頭、峰本健正所長が、デジタルトランスフォーメーション(DX)、GHG削減、洋上風力発電、自動運航船、次世代海洋無人機の5つのPTを設置し、分野を横断した研究を進めていることを紹介。「本日はPTの活動を中心に活動を報告する」と趣旨を説明した。峰本氏は、「海技研は最先端技術への挑戦を目標に掲げ、海事産業のイノベーションの起点となるよう努めていく。引き続き、幅広く社会ニーズに対応した研究にチャレンジしていく」と述べた。
その後、各PTの代表者が報告を行った。GHG削減PTの高橋千織リーダーは、GHG削減に向けた取り組みについて講演。省エネ技術として、空気潤滑の研究を紹介した。空気を周期的に噴き出して抵抗低減効果をより向上させる周期吹出法を提案しており、水槽試験では通常の連続吹出に比べ、8%程度の抵抗低減率の向上を確認。同技術は、年内に竣工予定の貨物船に搭載予定とした。代替燃料の燃焼のメカニズム解明や水素専焼エンジン開発に向けた研究も進行中で、「水素エンジンは、限られた条件ではあるが、ほぼ水素のみでの燃焼を達成している」とした。さらに、ゼロエミッション船の実現に向けたコンセプト船である、低速幅広肥大船の検討結果も紹介。環境規制などを背景に船舶のさらなる省エネ化が求められる中、航海速力を大幅に下げつつ幅広船型で輸送効率を向上させた、設計速力10ノットの低速幅広バルカーを設計した。水槽試験では、従来船型よりも輸送効率が2倍以上に改善することが確認され、また、経済性評価では、特に脱炭素燃料を利用するときに優位性を示したことから、高橋氏は「今後、代替燃料船を考える場合、新たな発想での船型開発が必要となる可能性が示唆された」とした。
洋上風力発電PTの中條俊樹リーダーは、浮体式洋上風力発電に関する研究開発について講演した。海技研では大型風車搭載を想定した研究開発や低コスト化技術開発に関する検討などを行っており、今回は合成繊維索係留に関する研究開発とデジタルツイン技術に関する研究開発について紹介。合成繊維索係留はコストの観点から有望視されているが、浅い海域での実績が少ないことに加え、素材によって繊維索の特性が大きく異なる点、生物付着による影響が不明といった課題が残されている。海技研では小型模型を用いた実証試験や初期設計プログラムの開発、実海域浸漬試験による生物付着影響評価などの取り組みを続けており、これらの取り組み成果などを紹介した。デジタルツイン技術の技術開発では浮体式洋上風力発電の状況を正確に把握し、メンテナンスや検査の効率化に繋げ、O&M(運転保守)コストの低減を目指している。海技研では第一段階として浮体式洋上風力発電が遭遇している波浪の推定技術の開発を実施している。
5つのPTの研究成果の発表のほか、トピックス報告として、実海域実船性能評価(OCTARVIA)プロジェクトと、海技研のクラウドサービス「海技研クラウド」についても紹介された。また、会場では29件のポスターセッションや、公開実験も行われた。