2024年5月22日無料公開記事洋上風力発電
洋上風力O&M訓練設備が竣工
商船三井/北拓、北九州で式典
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トレーニング設備の前で関係者の記念撮影
商船三井と同社グループの北拓(北海道旭川市、林龍太社長)が共同で北九州市若松区で建設していた洋上風力発電の実用的な運用・保守管理(O&M)に特化したトレーニング設備が竣工し、21日に現地で竣工式を開催した。同設備は国内で初めて洋上風車の基礎と風車タワーの接続部分にあたるトランジションピースを使ったトレーニング設備。北拓が有するメンテナンスに関するノウハウと洋上風力発電事業で先行する欧州の事例を参考にし、洋上風力発電特有のリスクを想定したメンテナンストレーニングを行う。
受講対象者は北拓の自社のメンテナンス技術員に限らず洋上風力発電メンテナンスに関わる全ての人を対象としており、洋上風力発電を安全・安定的に長期にわたり運営できる人材を育成することで洋上風力産業の発展に貢献する考え。商船三井らは今後も国内で洋上風力発電が先行している地域の1つである北九州市で、洋上風力発電事業への出資参画など洋上風力発電関連事業の拡大に取り組む考え。
トレーニング設備は北拓の北九州支店の敷地内に建設。建設費は数億円。竣工式は同施設の前で挙行され、地元関係者を始め多数の来賓が参列した。
北拓の林龍太社長が施主を代表してあいさつし、「数多くの方にご協力頂いたことを深く御礼申し上げる。本トレーニング設備は洋上風力発電のメンテナンスにあたり作業員や技術者をCTV(クルー・トランスファー・ベッセル)、SOV(サービス・オペレーション・ベッセル)といった船舶から移送する洋上風車の設備であるトランジションピースを模して作成したもの。北拓は商船三井と共に資源エネルギー庁の令和4年度・5年度洋上風力発電人材育成事業費の補助金助成の公募にて高得点での採択を受け、洋上風力発電のメンテナンスに特化した人材育成事業を開始した。本日は補助金の公募窓口を担われた経済産業省の皆様にもご臨席頂き、この場を借りて御礼を申し上げる」と述べた。
そのうえで「2050年のカーボンニュートラルを目指す日本にとって洋上風力市場はこれから大きく拡大、発展していかなければいけないと考えている。一方、私共のように風車メンテナンスを通じて業界の発展に寄与したいと考えている者にとって、人材の確保育成が喫緊の課題となっている。市場を健全に発展させていくためにも、洋上風力の未来に志高く貢献したいという人々を募る必要がある。そうした人たちに安全にメンテナンス作業を担って頂き、そうしたサポートを施していくためにも、日本の風力発電の黎明期から業界に大変お世話になっている北拓が責務を担わなければいけないと考えている」と語った。
トレーニング設備は8メガワット級の洋上風力発電のトランジションピースに見立てた地上23mの高さの設備で、CTVなどの船舶からの乗り移り訓練や、ダビットクレーンの点検・使用訓練、ヘリコプターからの降下訓練などを行う。林社長は「この設備には、今年1月に志半ばでこの世を去った当社の吉田悟の、陸上風力で培い、海外の知見も生かした、より実践的で現実に即したトレーニングを提供したい、そして安全で効果的な風車メンテナンスを行える人材を育成したいという思いが詰まっている。当社が運営し訓練を施していくこの設備をより多くの人材に活用して頂き、さらにそういった人材が日本の発電所で活躍し、さらには日本の洋上風力市場を発展・拡大していくことに貢献して頂きたいと願っている」と述べた。
来賓を代表して北九州市の片山憲一副市長、河野義博参議院議員、北九州市議会の本田忠弘副議長、施行者の若築建設九州支店の古川良二執行役員支店長があいさつ。片山副市長が武内和久市長のメッセージを代読し、「本設備は日本初となる実機の風車基礎を使用したもので、海域の観測データを用いてさまざまな洋上の状況を再現できる訓練設備と聞いている。国内唯一の設備を北九州市に設置して頂いたことに心より御礼を申し上げる」の述べたうえで、「北九州市は2021年に『グリーンエネルギーポートひびき』事業を開始し、響灘における風力発電関連産業の総合拠点化に向けて動き出した。積出建設、物流、O&M、製造産業の4つの拠点の形成に取り組んでいる。中でもO&Mは洋上風力のコストの3割を超える大きな割合を占める分野。また、風力発電の安定した運転を維持するために厳しい自然条件下で効率的・経済的なメンテナンスを求めるなど、高度な技術が必要な分野であり、その重要性が非常に増している。こうした中でトレーニング設備を設置して頂き、訓練を行って頂くことは、北九州市の目指す風力発電関連産業の総合拠点化に向けた大切な第一歩になる」と同設備への大きな期待を示した。
式典終了後に発電事業者や同設備の建設に携わった企業、報道陣などに対して同設備を使用した訓練のデモンストレーションが行われた。
商船三井と北拓は共同で設立した「北拓・MOLウインドエナジー投資事業有限責任組合」を通して「ひびきウインドエナジー」の株式の10%を保有する特別目的会社への投資を実行した。「ひびきウインドエナジー」は国内最大級の洋上風力プロジェクト「北九州響灘洋上ウインドファーム」の建設を推進し、2025年度中の商業運転開始を目指している。北九州港は洋上風力発電に係る基地港湾に指定され、北九州市として風力発電などのエネルギー関連産業の集積を目指す「グリーンエネルギーポートひびき」事業を推進している。
北拓は1982年設立。故・吉田悟氏が業界黎明期に風車のオペレーション・メンテナンスに着目し、1999年に風力発電メンテナンス事業を開始。陸上・洋上風力発電設備の両方の全てのメーカーを対象に長年の経験を活かした幅広いサービスを提供し、国内で建設されている風車約2600基のうち約8割にサービスを提供する国内最大手のO&M専門事業者。2019年に北九州支店を開設した。
洋上風力発電関連事業の強化を進める商船三井は、今年1月に北拓との資本提携を発表。北拓の発行済み株式の過半数を取得し、連結子会社化した。
北拓の吉田ゆかり会長
北拓の林龍太社長
トレーニング設備を使った訓練のデモンストレーション
訓練の内容