2024年8月22日無料公開記事SEP船の現在と未来
洋上風力発電
《連載》SEP船の現在と未来③
2500トン吊で大型風車に対応
清水建設の“BLUE WIND”、国内外4件の投入実績
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清水建設の“BLUE WIND”
SEP船“BLUE WIND”は清水建設がジャパンマリンユナイテッド(JMU)で建造した国産の自航式SEP船で、2023年1月に竣工した。これまで、国内2件、台湾2件の洋上風力発電プロジェクトに投入され、実績を重ねている。2500トン吊クレーンを搭載し、大型風車にも対応可能な新鋭船として、日本を中心にアジア圏での活躍が期待される。
■国産SEP船で日本の洋上風力に貢献
本船について、清水建設エンジニアリング事業本部洋上風力プロジェクト推進室の白枝哲次室長は「日本の洋上風力に貢献するという趣旨で建造した。JMUで建造したのもその思いの表れだ」と述べる。投入先は日本国内のプロジェクトを軸にしつつ、台湾をはじめアジア圏を視野に入れる。
本船の最大の特徴が2500トン吊のメインクレーンだ。「世界では3000トン吊のSEP船もあるが、それに次ぐ吊り能力として、かなり競争力のあるクレーンを搭載している」(白枝室長、以下同)。SEP船の吊り能力は2018年頃までは1500トン吊級が最大だった。近年は大型風車に対応するため2000トン吊以上の発注が主流となっており、本船はその先駆けだ。
搭載・据付能力について、8MW級風車を7基、12MW級風車であれば3基分を搭載できる。現在の商用規模の洋上風車の最大サイズである15MW級風車も据付可能で、2基分を搭載できる。また、GEベルノバが導入を発表している18MW級風車にも対応可能と想定している。「現在事業者が考える最大級の風車には対応できる」。
本船は太平洋の長周期波浪(うねり)に対して強いという特徴がある。「“BLUE WIND”ほど大きな船体を持つ船はアジア圏にはない」。波に耐える力は船の大きさが大きく影響する。日本の厳しい海象条件においても作業可能な能力を備えている。
また、本船は国産のSEP船で唯一の自航式だ。非自航式はタグボートによるサポートが必要なため自航式と比較すると移動に時間を要する。自航式を採用し、作業効率面で差をつける。
レグの長さは90mで水深10〜45mに対応する。現在の洋上風力公募ラウンド3までのほぼ全域に対応できる。レグは109mまで延長することができ、その場合は水深65mまで対応可能だ。
■国内2件、台湾2件のプロジェクトに投入
本船は竣工後、習熟訓練を経て、洋上風力発電所の建設工事に投入された。船の運航には深田サルベージ建設と共栄マリンが協力している。最初の案件は富山県の入善洋上風力発電所で、中国の明陽智能製の3MW風車3基を設置した。その後、北海道の石狩湾新港洋上風力発電所の建設工事に投入され、シーメンスガメサ製の8MW風車14基を設置した。
現在は台湾の洋上風力発電所の建設に従事している。台湾では2件のプロジェクトの定期用船契約を受注。「1件目は工期の都合により、事業者が当初押さえていたSEP船だけでは間に合わなかったため、2カ月間応援のようなかたちで“BLUE WIND”が投入された」(エンジニアリング事業本部SEP運営部の坂本憲哉部長)。現在は雲林洋上風力発電所プロジェクトに従事している。基礎施工を完了し、風車の据え付け作業を行うために艤装替えを実施中だ。
今後の清水建設の洋上風力事業に関する方針について白枝室長は「まずはSEP船をちゃんと使いこなし、船の運航や着床式洋上風力の施工に関する技術を培うことが重要だ」と話す。浮体式洋上風力については、「浮体式になると使う道具も変わってくると考えており、その中でSEP船の使い方をまた考えていかなければいけない」とした。
【主要目】全長142.8m、幅50.0m、深さ11.0m、航海速力11ノット、最大搭載人員130人、船級NK、推進器システム:アジマススラスター3800kW×3台、3200kW×1台・トンネルスラスター 3200kW×2台、発電機:4800kW×4台・1500kW×2台、ジャッキングシステム:ラック&ピニオン電動駆動式、レグ:90m×4本(109mまで延長可)、メインクレーン:伸縮式トラスクレーン(最大揚重能力2500t<収縮時>、1250t<ブーム伸張時>