2023年5月12日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉞
「女性が子育てできる船」目指す
協同商船・福田正海社長

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福田社長

 内航海運業を手掛ける協同商船は、女性船員の採用を長年継続している。同社の福田正海社長は結婚・出産などのライフステージの変化による女性船員の退職を食い止めるため、「子育てできる船」をコンセプトに“光辰丸”をプロデュースした。福田社長に女性船員を採用し始めたきっかけや、高度な省エネも実現した“光辰丸”について聞いた。

 — 協同商船の事業内容は。
 「1948年の創業で、50年に株式会社を設立し、日本製鐵(現日本製鉄)の元請けとして長年従事してきた。91年に日鉄物流と業務提携し、貸渡し業として事業を続けた。97年に創業者の福田正が亡くなってからは、船舶管理業として修繕・運航・船員配乗・育成管理を行うほか、新規事業として船型開発・建造プロデュースも手掛けている」
 「現在の隻数は4隻で、1隻は載貨重量トン数2万1000トンの石灰石専用船“君津丸”、他は特殊貨物船1隻、一般貨物船2隻で、鋼材製品を輸送している」
「船員の平均年齢は41歳。内航海運業界では比較的若いのではないか。また女性船員の採用を継続してきたのも当社の特徴で、過去には1隻を女性だけで運航できるところまで揃ったが、現在所属する女性船員は3人だ」
 — 女性船員を採用し始めたきっかけは。
 「私が経営を引き継いだ97年はバブル経済破綻後で、内航業界もご多分に漏れず疲弊した。国内の不況や労働者派遣法の改正により社会は正社員リストラと派遣人材の確保に舵を切った。当社は小規模なため人材の確保が困難になり、女性社員の真面目な働きぶりから陸上社員を全員女性にした。また、その頃から船員不足が懸念されており、当初は反対の声も多かったが、船長の許可も得て女性船員の採用を決心した。女性をいざ乗船させると、仕事ぶりもしっかりとしている。女性でも問題ないと確信した。また、副次的効果として、船内の環境、特に居住空間が良くなった。男性は身なりなどに気を配り、女性は意外にバンカラ。仕事でも男女の協力体制が整った」
 — 女性船員を迎えるに当たって準備したことは。
 「本格的に女性船員を増やそうとして、女性専用室を設けた。しかし、船員から士官になれば、役職の部屋に入るため専用室は必要なく、女性船員から『お風呂場に鍵がかかれば問題ない』と言われた。特別扱いも差別だと反省した」
 「ソフト面の対応も進めた。船員同士で社内恋愛に発展した場合、別々の船に乗船させて休暇を合わせるようにした。これによって2組のカップルが結婚し、このうちの1組は夫が船に乗り、妻はリモートで青森県の自宅で海務人事の仕事をしている。優秀な人材が仕事を続けられるよう、会社としてさまざまな選択肢を示している」

■結婚による退職が課題

 — ライフステージの変化は女性船員にとってキャリアを断念するきっかけになりがちだ。
 「結婚・出産・介護による退職は女性特有の課題で、船長候補として期待していた女性も、家族の事情で退職してしまった。船員同士で結婚すると、男性が船に乗り、女性は退職して夫を支えるというパターンがやはり多い。子育てが落ち着いてまた船に復帰しようと思っても、船型による船内装備、国際条約によるソフト・ハード面での変更などでキャッチアップが難しいと考えて諦めてしまう。そこで、子育てできる船というコンセプトで私がプロデュースしたのが2020年7月に竣工した“光辰丸”だ」
 「“光辰丸”は国土交通省の船員居住区拡大に伴う船員配乗の緩和措置を活用し、8人分の船員室を確保した。看護師と子どもを同乗させ、船の中で子育てできる船を目指した。残念ながら実際にそういった運航はできていないが、女性船員が増えればぜひ実現させたい」
 「また、“光辰丸”は省エネにも重点を置いた。省エネ船型を採用した上でゲートラダーを搭載。A重油を使うので船員の業務負担も軽減された。二酸化炭素(CO2)の排出量が35%減り、先進二酸化炭素低減化船としての認定も受けた。安全面にも配慮し、日本製鉄の鋼材「NSafe®-Hull」を採用。衝突事故が発生した際、損傷が小さく、安全の担保ができる船だ。引続き運航データを採取し、次船の建造に活用したい」
 — 今後の事業の見通しは。
 「日鉄物流、ひいては日本製鉄の仕事を滞りなく進めるというのが創業以来のモットー。運航を止めない船舶管理に重点を置き、内航海運の更なる発展を考え、仕事を続けていきたい」
(聞き手:伊代野輝)

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