2022年10月20日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー⑰
「強い内航海運」に向け環境整備
国土交通省 髙橋一郎海事局長

 国土交通省の髙橋一郎海事局長は、荷主などと連携した船員の働き方改革、生産性向上、取引環境改善を内航海運業界の喫緊の課題としたうえで、「『強い内航海運』へ発展できる環境を整えるとともに、内航海運があまたの産業を支え日本の未来を切り拓いていくよう、若い力を活かした取組を皆さまとともに進めていきたい」と強調した。

■暫定措置事業終了で新時代

 ― これまでの内航海運政策に対する評価は。
 「四面を海に囲まれたわが国の内航海運は、国内物流にとって大変重要な役割を果たしている。昭和30年代半ば以降、エネルギー転換に伴う石炭の輸送需要の低下により、船腹過剰に陥ったため、船腹調整事業が昭和41年に開始された。ただ、同事業は時代の移り変わりとともに、意欲的な事業者による事業規模の拡大や新規参入が制限されるなどの弊害も生じさせたため、同事業に代わって平成10年にソフトランディング策として内航海運暫定措置事業が導入された。同事業は昨年8月末をもって終了し、これにより船腹の供給に関する取組が幕を閉じた。歴代の日本内航海運組合総連合会長の下、業界が一丸となってさまざまな難局を乗り越え、同事業に係る全ての債務の返済を終えて終了を果たされた。業界関係者の皆さまのご努力に対し心より敬意を表する。同事業の終了によって内航海運事業者の皆さまがより自由な発想や創意工夫により新規参入や事業拡大を行えるようになったと考えている。まさに内航海運の新たな時代の幕明けに私たちは立っていると思う」
 ― 業界構造上の課題は。
 「船員の確保は今後の内航海運を語るうえで極めて重要だ。船員は船内という閉鎖空間において、少人数で労働と生活を繰り返す特殊な労働環境の下、長時間労働や長期間乗船を行っている。特に内航海運では近年若手船員の定着率が下がっていることが課題である。女性や若者などの多様なニーズに応える柔軟な働き方を可能にし、多くの人が働きやすい職場づくりを推進していくことが重要だ」
 「さらに、内航海運事業者の99.7%は中小企業で、事業基盤が脆弱なことから、荷主に対して立場が弱く、対等な交渉で十分な運賃などを収受できない場合があることが構造的な課題だ。荷主などと対等な関係を築きコスト負担について理解を得るためには、内航海運業界側の生産性向上の取組や、荷主などとの取引環境改善への取組も必要不可欠である」

■新時代の内航海運に向けた取組

 ― 内航海運の業界構造上の課題を踏まえ、今後力を入れて取り組んでいく政策は。
 「今年4月に海事産業強化法が施行された。同法を軸に『船員の働き方改革』を促進するとともに、内航海運事業者の『生産性向上』、荷主などとの『取引環境改善』を実現していきたい」
 「まず第一に、『取引環境改善』の面では、内航海運事業の契約書面の交付を義務付け、適正な運賃・用船料の収受につなげるなどの取組も進めている。これらをより実効性のあるものとするため、荷主、オペレーター、オーナーがそれぞれ遵守すべき事項とともに望ましい協力のあり方などをまとめたガイドラインを昨年度末に公表した。同じく昨年度末に、荷主業界団体や内航海運業界団体の経営層と行政から成る懇談会を開催した。両業界の皆さまが直接顔を合わせ意見交換ができたことは大変有意義であったと考えており、引き続きこの懇談会を続けていく」
 「現場の取引において、法改正で義務付けられた事項が適切に実行されているか、内航総連を通じて各事業者に対し実態調査を行っている。これにより、各事業者の契約更改の状況をつぶさにつかむとともに、今後契約更改を行う事業者への法律の周知にもつながると思っている。調査結果を踏まえ必要な対応を行っていきたい」
 「次に、『生産性向上』の面では、特に一杯船主を始めとした小規模オーナーの事業基盤強化や経営効率化の手法として、船舶管理業の活用を一層進めたい。海事産業強化法で船舶管理業を法定化したことに加え、今後は船舶管理会社の評価制度を構築したい。質の高い船舶管理会社が正当に評価され、選ばれる仕組みを構築することにより、適正に生産性向上を促進する環境を整備していく。また、現在、生産性向上のための先進的モデル事業を実施しており、労務管理の効率化や陸側と連携した荷役環境整備、配船効率化、共同輸送といった取組も広げていきたい」
 「そして、『船員の働き方改革』の面では、これまで船内中心で行われていた船員の労働時間管理について、船員法を改正し、陸上側の船舶所有者(使用者)に責任があることを明確化した。具体的には、船舶所有者が選任した労務管理責任者の下、船員の労働時間を把握し、労働時間の短縮といった必要な措置を講ずるようにするとともに、オペレーターにも船員の労働時間を考慮した運航計画作成を義務づけるなど、船員の労務管理の適正化のための取組を進めている。また、オーナーからの声を改善のヒントにし、荷役や片付け・清掃、仮バースのあり方を含め、オペレーターによる運航計画作成・運用において留意して頂きたい事項をガイドラインとしてまとめた。こうした法令上の取組に加え、船舶所有者、船員などを対象に、安全運航や船員の労働災害防止、健康管理、労働支援に関する先進的な優良事例を表彰する『船員安全・労働環境取組大賞(トリプルエス大賞)』といった取組も行っているほか、今後船員行政手続きのオンライン化を進めたいと考えている」
 「ヒューマンエラーに起因する海難の減少や船員の労働環境改善につながるものとして期待される自動運航船の導入などの新たな技術の活用は、内航海運事業の活性化につながるものであり、要素技術である自動操船・遠隔操船・自動離着桟操船のシステム開発・実証を官民で取り組んでいる」
 「これらの業界構造上の課題を踏まえた各種取組に加え、内航海運におけるカーボンニュートラルについても、業界の特徴や陸上輸送モードとの競合にも留意しつつ、今後力を入れて取り組んでいく必要がある」
 「政府全体として2050年にカーボンニュートラルを実現するとの目標が掲げられており、昨年10月に改訂された地球温暖化対策計画においても内航海運分野の2030年度における13年度比CO2(二酸化炭素)排出削減目標を157万トン減から181万トン減に深掘りした。こうした目標のもと、さらなる省エネ・省CO2を追求すべく、荷主、オペレーター、船主、造船所などと連携して省エネ・省CO2を高度化した連携型省エネ船の開発・普及などの各種取組を実施する。今年6月には連携型省エネ船の具体化に向け、有識者・業界関係者などから成る検討会を立ち上げた。今後、荷主やオペレーターなどの意見を踏まえながら具体的な連携型省エネ船のモデル船の提示を行う予定だ。さらにわが国の2050年カーボンニュートラルへの貢献に向けて、LNG燃料船、バッテリー船などの実証・導入に対する支援や水素・アンモニア燃料船の開発・実証を実施していく」

■24年問題でフェリーの利用拡大期待

 ― 国内フェリーの現状と振興に向けた取組は。
 「新型コロナウイルス感染症の影響で、内航貨物取扱量は2020年5月に前年同月比約2割減少した。その後は少しずつ回復傾向が見られるものの、今年6月の貨物輸送動向は19年度比で9割程度となっている。一方、長距離フェリーによるトラック輸送は2020年5月に前年同月比2割程度減少したものの、その後は一定程度持ち直し、19年度と比較してほぼ同水準まで回復してきている」
 「今後の貨物需要については『物流の2024年問題』に併せてフェリーの利活用拡大が期待される。フェリーがしっかりとその役割を果たしわが国の物流業界全体の働き方改革に大きく貢献するとともに、定時性や大量輸送性などフェリーの持つメリットが改めて見直されるべき時が来たと感じている」
 「フェリーは環境に優しい輸送モードで、モーダルシフトの受け皿になっている。モーダルシフトを推進するため、地球温暖化対策税の還付措置、船舶共有建造制度による支援措置を講じているほか、最も貢献度が高かったと認められる荷主・物流事業者を表彰する『海運モーダルシフト大賞』といった取組を行っている」

■変化に対応する事業者を後押し

 ― 内航海運業の周辺産業について、内航海運業を今後も支えていくという視点で課題は。
 「金融面の課題として、高額な船舶融資と長期の償却期間が挙げられる。内航海運を支援する金融スキームとして鉄道建設・運輸施設整備支援機構の船舶共有建造制度があり、これまでに4000隻以上の船舶を建造している。同制度は原則として担保を不要とし、低利・長期資金を供給している。グリーン化、物流効率化など政策意義の高い船舶の建造に対する金利軽減措置を行っている。また、海事産業強化法に基づき、海運事業者が造船事業者と共同で策定する『特定船舶導入計画』の認定を受けた船舶に対しても金利軽減を行っている。さらに同機構は技術面の支援も行い、船舶建造の専門家を派遣して建造時からメンテナンスまでのサポートを行っている。引き続き時代の変化に対応した政策意義の高い船舶の建造促進が図られるよう、同機構と緊密に連携して取り組んでいく」
 「造船業が内航海運業のニーズに応え続けるためには生産性・品質向上などの取組が必要だ。海事産業強化法に基づく事業基盤強化計画では、これまでに内航船を建造する中小造船所を5件認定しており、他にも認定を受けたいというご相談がある。また、既に認定を受けた中小造船事業者の計画には、省エネ船の開発やカーボンニュートラルを見据えた代替燃料船の開発などに積極的に取り組むことも盛り込まれている。海事局として認定造船所の取組を後押しし、コスト競争力強化と内航海運への高品質・高性能な船舶の供給が進むよう取り組んでいく」
 「鋼材価格の高騰を受け、海事局は今年5月、官公庁船を調達する関係省庁や自治体に加え、海運事業者の皆さまに対しても、新造船の建造契約において原材料価格の上昇分の転嫁を適切に考慮頂くようお願いした。来年度予算では代替材料の活用可能性や安全を確保しつつ鋼材使用量を削減する可能性などの調査費を要求している。今後も対応をしっかり進めたい」

■未来を切り拓く若い力

 ― 海事局として強く訴えたいことは。
 「コロナ禍による厳しい状況においても役割を果たし、運航を続けてこられた内航海運事業者の方々に改めて敬意を表する。内航海運の重要性は今後も変わることはない。内航海運事業者の皆さまにおかれても、船員にとって魅力的な職場となるよう、働き方改革を積極的に進めて頂きたい。われわれ海事局としても、『取引環境改善』や『生産性向上』に向けた各種施策を着実に進め、内航海運事業者の皆さまがいかなる事業状況の変化にも対応できる『強い内航海運』へ発展できる環境を整えていく。また、内航海運が『船員の働き方改革』を進め、安定輸送を確保し続けるためには荷主の協力が必要不可欠だ。荷主の皆さまにおかれては、内航海運事業者の法令遵守へのご理解、ご協力をお願いする」
 「内航海運が力強く発展を遂げていくよう、われわれ海事局にも、内航海運の未来を真摯に考え懸命に取り組んでいる若者たちがいる。業界の若い方々の新しい発想と行動力に期待している。内航海運があまたの産業を支え日本の未来を切り拓いていけるよう、若い力を活かした取組を皆さまとともに進めていきたい」
(聞き手:深澤義仁、中村晃輔)
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