2022年8月9日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

《連載》内航キーマンインタビュー⑥
新造船投入でモーダルシフトに対応
近海郵船・関光太郎社長

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 近海郵船は来年4月、創立100周年を迎える。近年は新造RORO船へのリプレースを加速しており、2015年に苫小牧/敦賀航路の3隻、18年に苫小牧/常陸那珂航路の2隻を大型新造RORO船に代替。今年7月には東京/大阪/那覇航路にも新造RORO船を就航させ、輸送能力を増強した。リーファープラグも増やし、食品などの冷凍冷蔵輸送需要に応えるほか、新たに東京/大阪間の集貨も開始した。関光太郎社長は、「2024年問題をはじめとするドライバーの働き方改革や、輸送時のCO2削減、南海トラフ地震に備えたBCPの観点からRORO船への注目が高まっている。モーダルシフトの需要に対応していきたい」と話す。

■2024年問題で引き合い高まる

 ― 2020年以降、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、内航の荷動きにも影響が出ている。今後の見通しは。
 「日本内航海運組合総連合会(内航総連)によると、2020年度の内航貨物船全体の輸送量は、コロナ前の2019年度と比べると8%減少した。21年度は前年度比6%増となり、コロナ前の水準に戻りつつある。ただ今年に入ってからはブレーキがかかっている。半導体不足や鋼材価格の高騰により、自動車関連部品や鋼板、建築用資材などの荷動きが鈍化している状況だ。足元では、ロシアのウクライナ侵攻に伴う原油高や、円安が進行している。国内消費に悪影響が出れば、内航の荷量も減る。不透明感が漂っており、先を見通すことが難しいというのが正直なところだ」
 ― 近海郵船が運航する各RORO航路の現状は。
 「主力の北海道航路(苫小牧/敦賀航路、苫小牧/常陸那珂航路)は昨年並みで推移している状況だ。2021年は、夏のじゃがいも・玉ねぎが不作だったほか、年前半はコロナ禍に伴い外食産業が落ち込んでいたが、冬場にかけて外食産業が回復し、通年では結果的に良かった。今年も同程度で推移すると見ているが、北海道は冬場の燃料代が家庭の支出に占める割合が高い。足元の原油高や物価高が北海道民の消費にどう影響してくるかを注視しなければならない」
 「東京/大阪/那覇航路は、観光消費が戻りつつあり、昨年と比べても若干増えている状況だ。飲料を中心に荷動きが戻ってきている。一方、足元では新型コロナウイルスの感染者が増えており、先行きを懸念している」
 「2019年から始めた敦賀/博多航路は苦戦している状況だ。航路開設当初は、東海・北陸地方から九州方面に出荷される自動車関連貨物や、九州から東海地区に運ばれる自動車関連貨物を見込んでいたが、足元では自動車メーカーの生産が減っている。厳しい状況だが、先を見据えて取り組んでいく。他方で自動車関連以外では、敦賀接続で敦賀/博多航路と苫小牧/敦賀航路を組み合わせて、北海道/九州間をトランシップ輸送するケースも増えている。北海道から4日目に九州に配送できる高速性が売りとなっており、徐々に認知度が高まっていると実感している」
 ― ドライバーの時間外労働の上限規制強化により、長距離での陸送が難しくなる「2024年問題」が懸念されている。代替輸送手段としてRORO船が注目されているが引き合いは。
 「2024年問題への対応として、RORO船への引き合いが強まっている。今年5月には、福井県や敦賀市とともに佐賀県の鳥栖市でRORO船セミナーを開催した。鳥栖市をはじめ佐賀県や、熊本県の荷主にとっては、フェリーの拠点港である新門司港やRORO船の拠点となる大分港と比べて、当社の敦賀/博多航路の寄港地である博多港の方が近く、利便性が高い。セミナー終了後には、当社のサービスに関する問い合わせも多くいただいた。また6月に大阪で開催された関西物流展にも近海郵船として初めてブースを出展したが、訪問していただいたトラック事業者も多かった。ドライバーの働き方改革や輸送時のCO2削減、南海トラフ地震に備えたBCPの観点からRORO船の注目が高まっており、利用のポテンシャルは高いと感じた」
 「一方で引き合いは強まっているものの、現時点では国内全体の荷量が減っているので、トラックで走ってしまうケースが多く、実際にRORO船の利用が増えるまでには至っていない。だが、時間外労働規制が強化されれば、間違いなくドライバーの数が足りなくなる。本当に走らなければならない区間にはドライバーを充てて、そうではない区間は内航船やJR貨物を使うことになるだろう。今後のモーダルシフト需要の増加に期待している」
 ― 外貿コンテナ貨物のフィーダー輸送という観点で、日本海側ルートの活用も注目されている。RORO船で国際フィーダー貨物を輸送する可能性はあるか。
 「BCPの観点から、当社の敦賀/博多航路を使って国際フィーダー貨物を運べる可能性もある。足元では日本海側の荷主が主に活用する釜山港が混雑しており、博多港で接続したいニーズも出ている。外航コンテナ船から急に輸送ルートを切り替えるのは難しいが、博多港でトレーラーに積み替え、外航コンテナ船に接続して輸出入する需要が数本でもあれば対応していきたいと考えている」

■船隊整備はひと段落、環境対応は研究

 ― 7月から東京/大阪/那覇航路に新造RORO船を投入した。
 「7月26日から那覇航路に新造RORO船“しゅり”を投入し、トレーラーの輸送能力を3割近く増強した。沖縄は人口増加率が全国的にも高く、若年人口も多い。今後も輸送需要は安定的に推移すると見ており、これから20年以上使う船としては、良い船を適切な時期に仕込めたと考えている。リーファープラグも従来船比で35口増の100口に増やした。足元では食品輸送の需要も強く、増強したリーファープラグを使って取り込みを進めていきたい。また、東京/大阪間の集貨も始める。ドライバーの働き方改革や、荷主のカーボンニュートラル化を進めていく上でも内航海運を使ってほしいと考えている。東京港・有明ふ頭に寄港する強みを生かして、モーダルシフト需要を取り込んでいきたい」
 ― 今後の船隊整備の方針は。
 「船隊整備は“しゅり”の就航で、ひと段落となった。次は博多/敦賀航路のRORO船のリプレースとなるが、当面は現行船を使用する。次期新造船の発注のタイミングでは、重油を使用する船にはならないと考えている。LNG燃料船やアンモニア燃料船など、さまざまな選択肢があるが、LNG価格は足元で世界的に高騰しており、燃料の調達網の問題も出ている。アンモニアなど新たな燃料についても乗り越えるべき課題は多い。燃料供給網について公共財としてのインフラ整備と、船価の高さが大きな課題となるだろう」
 「また、国土交通省は現在、内航海運のCO2排出削減目標を、『2030年度までに13年度比17%減』としているが、2031年度以降の目標値は示されていない。次期新造船を検討するに当たっては、2031年度から50年までの目標値や規制のあり方も踏まえる必要があり、造船所側でどのような技術を導入して建造できるかということも見定めなければならない。次の発注のタイミングとなる5~10年の間に方向性を決めるべく、親会社の日本郵船とともに研究を進めていく」
 ― 足元では燃料油価格が高騰している。影響は。
 「足元ではキロリットル当たり10万円超えている状況だ。RORO船はBAF(燃料油価格調整金)を導入しているので、一部はカバーできているが、全てをカバーできるわけではない。燃料の節約もできる範囲で行っているが、燃料油価格高騰の影響は大きくなっており、苦慮している」
 「また、政府の燃料油価格激変緩和措置の補助金の還付について、購入している適合C重油に関し、一部販売元から今年4月以降、補助金の半額のみを還元する旨の連絡が届いており、半額のみの還元となる明確な説明を求めているものの、不透明感が拭えない。このままでは荷主にもきちんとした説明ができず、BAFの仕組みも維持が出来ないので、事業者として大変困惑している。このため、油種や購入ルートに関わらず100%還元されるよう、内航大型船輸送海運組合から日本内航海運組合総連合会に業界として意見を発していただくよう、要望書を提出した」
 ― 内航船業界では人材不足も課題となっている。
 「RORO船のような大型の定期船では、危機的な人手不足という感覚はない。だが、コロナ禍を受けて、乗船中および休暇中の厳格な感染予防策により、船員には大きな負担をかけており、ストレスを受けていると感じている。船員のケアをしっかりしていかなければならないと感じている」
 ― 近海郵船として業務負荷軽減に向けたデジタル化の取り組み方針は。
 「今年、業務基幹システムの入れ替えを実施する。ウェブブッキングシステムを初めて導入する方針だ。現在は紙や電話、FAXを使って予約を受け付けているが、ウェブブッキングによって全体的な業務効率化につながると考えている」
 「日本郵船グループとしてのデジタル化の取り組みでは、日本海洋科学が代表を務める、無人船実証プロジェクト『Designing the Future of Full Autonomous Ship(DFFASプロジェクト)』に参画している。DFFASへの参画を通じて、当社としても当直中の乗組員の負担軽減や、さらなる安全運航に役立てるよう、引き続き取り組むこととしたい」
(聞き手:中村晃輔)

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