2024年9月11日無料公開記事内航NEXT 航空燃料不足内航業界の対応

《連載》航空燃料不足/内航業界の対応<上>
全体の輸送力増強が必要に

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 アフターコロナで訪日外国人が急増する中、航空燃料の供給体制の確保が喫緊の課題となっている。安定供給の一翼を担う内航タンカーは製油所閉鎖に伴う輸送距離の伸長や船員不足による内航タンカー全体の輸送力不足といった課題に直面する。その中でも、内航タンカー業界では短期的な対策として外航船の内航転用に取り組む上、中長期的な対策として船舶大型化などにより輸送力を増強する構えだが、実現には船型大型化に対応した荷役設備の更新や、継続的な船隊整備を可能にする運賃水準の確保が必要になりそうだ。

 航空燃料不足の影響が顕在化し始めたのは2023年。新型コロナウイルスの感染症法上の位置づけが5類へ23年5月に移行してインバウンド需要が急回復する中、外国エアラインの航空燃料の供給メドが立たず新規就航できない事例が出てきた。こうした事態を踏まえて今年6月には北海道や広島県などが航空燃料の安定供給に関する要望書を国土交通省に提出。同月には政府が「航空燃料供給不足への対応に向けた官民タスクフォース(TF)」を新たに設置した。このTFは、国土交通省航空局、海事局と経済産業省資源エネルギー庁が事務局を務め、構成員には航空会社や空港会社、石油元売りに加えて日本内航海運組合総連合会もメンバー入りした。
 TFの初会合では「コロナ禍からの需要回復に対して輸送が対応できていない。短期的な解決は難しいが、内航船やタンクローリーによる製油所からの輸送体制の強化が必要」との意見が挙がった。2回目の会合では関係事業者・団体からのヒアリングを実施。内航海運分野では、関係事業者や構成員から「航空燃料を保管するタンクが空になっているといった話は聞いたことがないため、内航海運事業者としては航空燃料がなぜ届いていないのか原因が分からない」との声が出た一方で、「内航輸送している油種全体に対して航空燃料が占める割合は2〜3%ほどと大きくないため、輸送力の確保に向けては、短期的には既存の船舶を活用し、積荷(油種)・運送計画などを変更するなどの対応が考えられる。また、中長期的には余裕を持った輸送を確保するため、船舶の建造や船員の確保が考えられるが、これらの実施のためには適正な運賃の受領が必要である。さらに、老朽化した荷役設備の更新による荷役の効率化も重要」との意見も出た。
 計3回の会合を経て発表された航空燃料供給不足に対する行動計画では、内航海運分野の取り組みとして、短期的な対策では外航船の転籍による既存船の活用などが盛り込まれた。年内に外航船2隻が内航船に転籍、新造船が1隻就航する予定だ。また、中長期的な対策としては船舶の大型化などが示された。
 こうした動きを内航タンカー業界はどう見ているのか。タンカーオペレーターX社の担当者は「航空燃料だけでなく内航タンカー全体で輸送力が足りていないという認識だ」と話す。
 輸送力不足の背景としてまず挙げられるのが全国各地での製油所の閉鎖による輸送距離の伸長だ。09年に成立したエネルギー供給構造高度化法では、石油元売り各社に対し精製能力に対する重質油分解装置の装備率の引き上げを義務付けた。石油製品の需要が減少する中、元売り各社は精製能力を削減することでこれに対応。08年4月時点で28カ所あった製油所は23年10月時点で20カ所まで減った。その結果タンカーの輸送距離は増加。内航船舶輸送統計調査によると、1航海当たり平均輸送距離は13年に477.4kmだったのが22年には533.0kmに延びている。X社の担当者は「距離が延びることで輸送が非効率になっており、船が足りない事態になっている」と説明する。
 船を動かす船員の不足も輸送力低下の大きな要因だ。2022年4月にスタートした船員の働き方改革により労働時間の管理が強化され、船員の稼働時間が減少。実際に、法令を順守するため停船した事例もある。「船員の働き方改革により運航効率が10%落ちたともいわれている。内航タンカーの隻数は750隻ほどなので、実質的に80隻近くの輸送力が消滅したことになる」(X社の担当者)。
 また、タンカーは貨物船と比較して荷役などの負担が大きく、船員採用の難易度が高いといわれる。X社の担当者は「かつては仕事がきつい分タンカーのほうが給料がいいと言われていたが、貨物船の船員の給料も上昇してきており、金額差が縮まっている」と話す。このこともタンカー船員の確保を難しくする要因となっているようだ。
 X社ではTFが設置される以前から、航空燃料輸送に限らず全般的な輸送力不足について荷主である石油元売りと協議を重ねて船団の増強や船員確保のための運賃アップなど対策を準備してきたといい、今後も船隊整備や船員の労働環境改善に取り組んでいく構えだ。X社の担当者は「官民タスクフォースが設置され、石油元売り業界、内航海運業界の関係者間で、これら課題解決に向け、さまざまな角度から建設的な意見が取り交わされたのは良い機会だったと思う。今回はインバウンド需要を背景として、航空燃料不足が焦点になったが、将来的に他の石油製品の供給不足も十分に予想されることであり、石油製品全体の持続可能な輸送体制の整備が必要と考えている」とし、タンカー全般の輸送力をアップすることが航空燃料の安定供給につながるとの考えを示した。
(つづく)

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