2024年5月10日無料公開記事洋上風力発電

北海道で「拓き・創り・つなげる」
日本郵船・森本支店長に聞く、両利き経営実践

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森本氏

 日本郵船は4月1日付で15年ぶりに北海道に支店を開設した。同社のリエゾンオフィスとして、中期経営計画に基づいて、中核事業と新規事業の両輪による未来の価値創造と成長を実践する。同日付で就任した森本政博北海道支店長は「北海道はもともと開拓の地。私の役割は“拓き・創り・つなげる”こと」と語る。北海道支店を起点に近海郵船、郵船ロジスティクス、郵船港運などのグループ会社との連携を深めながら、道内の再生可能エネルギーや新燃料分野への展開、また、半導体工場やデータセンター建設による新たな物流需要への対応を進める。森本氏に取り組みを聞いた。

 — 北海道支店の現状をうかがいたい。
 「近海郵船北海道(近海郵船の100%子会社)の札幌支店に間借りするかたちで活動を開始している。7月に現在入居しているビルの別の階に、近海郵船北海道と新たに北海道営業所が設置された郵船ロジスティクスとともに移転し、日本郵船北海道支店とグループ会社が集結して、より広いスペースで本格始動する予定だ。グループとしてこれまで以上に結束を強め活動していく」
 「北海道支店は日本郵船のリエゾンオフィスとしての役割を担う。人員は支店長の私のほか、道内に豊富な人脈を持つ北海道庁のOBがアドバイザーとして参加してくれている。さらに事務員を雇用し、当面3人体制とする。私自身、北海道出身。初めての地元での勤務になり、職務に務めたい」
 — 北海道支店開設のねらいと、期待されている役割は。
 「2009年の札幌支店閉所以降も、当社グループはエネルギー輸入のための輸送事業や農産物の内航輸送事業などを滞りなく行ってきた。当社は中期経営計画で、海運業の枠を超え、既存中核事業を深化させるとともに新規事業で新たな価値を創造する両利きの経営に取り組み、その掛け算で成長していくとしている。北海道でしっかりと取り組むために改めて支店を開設するに至った」
 — 既存中核事業の現状と深化の方向性は。
 「北海道における既存事業として、電力・ガス会社向けのエネルギー輸送や、郵船ロジスティクスによる物流事業、オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)によるコンテナ輸送などがある。今後はラピダスによる半導体工場の新設で、関連メーカーの進出や生産が開始されることに伴い、多様な物流のニーズが生まれるだろう。北海道のみならず海外のネットワークも含めてその物流に対応していくため、当社グループとして地元企業に提案を行っていきたい。また、当社が得意とする自動車船事業も、大型の農業機械輸入のための輸送に従事しており、地元顧客との関係を深めていく」
 「農産物・水産物の輸送も既存事業として大きく、定期航路を運営する近海郵船が取り組んでいる。近海郵船北海道の子会社で内航のフォワーディングを手掛けるサンユウや、郵船港運北海道が関わっている。これまで培ったネットワーク、経験をさらに深度化していける分野だ。また、海外のネットワークにつなげていくという意味で、日本の食材が海外で注目され輸出されている中、新しい取り組みができれば面白い」
 — 新規事業で注目の分野は。
 「再エネや次世代燃料関連だ。北海道は再エネのポテンシャルが高い。当社グループは昨年、石狩湾新港の洋上風力発電事業向けにCTV(作業員輸送船)の運航を開始した。北海道では5地域が一般海域での洋上風力発電の有望な区域として選定されており、いずれ促進地域として事業の公募が始まることを見据えて、当社グループが培ってきた洋上風力の知見や経験を活かしていきたい。また、次世代燃料に関しては、苫小牧地区をはじめ、アンモニア・水素、CCUSや二酸化炭素輸送などの動きが活発化・深度化していくだろう。現地でいち早く情報を得て、日本郵船本店へとネットワークをつないでいく」
 — 新エネルギー関連は事業機会が豊富に見える。
 「電力を需要地まで届けるため、長距離海底直流送電の実現に取り組んでおり、当社はケーブル敷設船の技術基盤開発を新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業として進めている。また、北海道は現時点で、風力や太陽光で発電しても域外に送電できないという課題があるので、まずはその電力を用いて水素、さらにはアンモニアを地産地消する動きもでてくるだろう。次世代燃料の分野で有望な地域だと認識している」
 — 今年1月、北海道の物流課題の解決や持続的な活性化への貢献を目指して北海道と連携と協力に関する協定書を締結した。テーマの1つに人材育成があるが、その取り組みは。
 「北海道は洋上風力の一大拠点になり、そこに従事する人材の教育と確保が重要だ。当社が秋田に開設した洋上風力人材の訓練センターでの経験や知見を活かし、北海道の地元企業と連携しながら、人材育成の取り組みを共創できないかと考えている。4月から運営・訓練を開始しているが、北海道の方々から多数の問い合わせを頂いている。当社は洋上風力発電が活発な地域に秋田支店(2022年開設)、九州支店、そして北海道支店を置いている。3支店でしっかりと連携していく」
 「北海道は、その財産である自然を生かした再エネが注目され、寒冷地であるからこそデータセンターの誘致なども進み、活性化してきている。一方、従来からの課題は過疎が進んでいること。今後さまざまな産業が集積してくるだろうが、その時に人材不足、物流コスト高は深刻な問題になる。魅力ある事業、産業を育成することで、北海道にきて働く人や地元に戻る北海道出身者が増えれば、課題解決と活性化につながると思う」
(聞き手:日下部佳子、深澤義仁、春日映莉子)

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