2023年12月7日無料公開記事内航NEXT 「2024年問題」船社のシナリオ

《連載》「2024年問題」船社のシナリオ②
モーダルシフトは数年かけて進展
フェリー・RORO船社の見通しと対応<下>

  • X
  • facebook
  • LINE

海上・陸上を通して効率的な物流を関係者が連携して構築する必要がある

 陸上輸送から海上輸送へのモーダルシフトは、2024年4月のトラックドライバー残業規制強化後すぐには盛り上がらず、数年かけて徐々に進んでいくと見ている船社がほとんどだ。そのうえで、北海道航路では現在大多数の貨物が集まる苫小牧港だけでなく道内の他の港湾の活用も進むとの声が多い。九州発着貨物のモーダルシフトの進展にはシャーシの普及が欠かせず、行政や荷主によるサポートが必要との意見もあった。基幹輸送の海運へのシフトが実現しても港湾と物流拠点を結ぶトラック輸送は残るため、海上・陸上を通して効率的な物流を関係者が連携して構築する必要がある。2024年問題を契機にトラック運送事業の運賃が上がることでシャーシなどへの投資が進み、モーダルシフトがさらに進むという流れが生まれるかがポイントになる。

■中長期視点で新規貨物開拓

 フェリー・RORO船運航各社は2024年問題の影響が顕在化するタイミングについて、「来年4月になったからといってすぐに影響があるわけではなく、様子見のトラック運送事業者も多いのではないか」「残業時間規制は年間で上限が定められているので年末や年度末に運行できなくなる事業者が出てくる可能性がある」と見ている。フェリー・RORO船の需要が数年かけて徐々に増えるという想定の下、中長期的な視点で新規貨物の開拓を進める方針だ。
 北海道発着航路では、本州発の貨物は一大消費地の札幌を抱える道央地区へ向かうものが多いが、農産品・製材などの北海道発の貨物は各地に分散している。RORO船関係者は「現状では道内各地から貨物を苫小牧に集約して本州へ発送しているが、トラックドライバーの運転時間を減らすためにより近くの港湾からの乗船が増えるかもしれない」と予想。「現在は苫小牧のトラクターヘッドを使うと同港に戻ってくる必要があるが、柔軟性を持たせたシステムに変えてドライバーの労働時間を短くするといった取り組みも考えられる」とアイデアを語る。
九州発着航路の最大の課題であるシャーシの普及率向上には、シャーシを満載にするための貨物量の確保が不可欠。そのためには、荷主の協力の下でリードタイムを延長して集荷時間を延ばしたり、貨物の混載に取り組む必要がある。RORO船関係者は「トラック運送事業者は中小企業が9割以上を占めており、シャーシやトラクターヘッドを購入できるだけの企業体力がある会社は少ないのが現状ではないか」としてシャーシ購入費用などの公的支援が必要と話す。

■陸上・海上運賃の適正化が鍵

 2024年問題は基本的にフェリー・RORO船業界に追い風だが、課題もある。フェリー・RORO船社の多くはシャーシを運行する物流子会社を抱えて海陸一貫輸送を提供しているが、「発着地でドレージ輸送も担っているので、トラックドライバーの残業時間規制の影響を受ける。荷待ち時間短縮や高速道路の積極的な利用などを実現して人材確保・定着を図らなければならない」、「RORO船でもトラックドライバーは必要。時間外労働規制が強化されて残業ができなくなりトラックドライバーの給与が減れば、ドライバーの数が減ってトラック業界全体が縮小する恐れがある」といった意見があった。
 2024年4月から始まる残業時間規制は本来トラックドライバーの労働環境改善のためのものだ。荷主から事業を持続可能な運賃を収受し、トラックドライバーが長時間働かなくとも十分な給与を得られるサイクルを作らなければならない。「現在の運賃では航路を維持できないが、トラック運送事業者に支払われている運賃も十分ではないと知っているので、こちらの運賃を上げるわけにもいかない」と複数のフェリー・RORO関係者が語る。
 2024年問題を契機に陸上・海上輸送の両方で運賃の適正化が進み、人材の確保を含めて持続可能な体制を構築することが最終ゴールになる。政府は荷主企業・元請事業者の監視を強化するため7月に「トラックGメン」を創設した。今回の規制強化に関する当局の監督と事業者のコンプラインス意識、荷主の協力姿勢が鍵になる。

※ ※ ※

 次回から、船社ごとの取り組みを紹介する。(随時掲載)

関連記事

  • カーゴ
  • Sea Japan 2024 特設サイト