2023年8月10日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㊳
2024年問題で陸送事業者の利用増
名門大洋フェリー・野口恭広社長

  • X
  • facebook
  • LINE

野口社長

 名門大洋フェリーは、トラックドライバーの時間外労働規制が強化される2024年問題などを追い風に輸送量を伸ばしている。2022年度はトラックと乗用車の輸送台数が過去最高を記録した。21年に投入した新造船“フェリーふくおか”と“フェリーきょうと”は車両の輸送能力が旧船から5割増えたが、ほぼ満船で運航。新門司/大阪南港航路は九州と関西を結ぶだけでなく九州から関東へのトラック長距離輸送でも利用されている。野口恭広社長に2024年問題を目前に控えての貨物の見通しとアフターコロナの旅客の状況などを聞いた。

■船型大型化で輸送量増加

 — 最近の輸送状況は。
 「22年度はトラックの輸送台数が18万4000台で過去最高だった。20年以降、有人トラックの増加で、火・水・木曜日に乗船が集中し、ドライバーズルームが満室になることもある。21年に就航した歴代最大船“フェリーふくおか”と “フェリーきょうと”の貨物輸送能力は旧船と比べて1.5倍で、その効果が大きい。乗用車も過去最高の9万8000台を記録し、旅客数はコロナ前を超えた。インバウンドや修学旅行などの団体客の客足の回復が遅いが、その分を個人客でカバーしている。特に乗用車の利用が大幅に増えている。23年度も順調に推移しており、全国旅行支援が6月で終了したものの、夏休みシーズンに入り予約状況は好調だ」
 — アフターコロナを迎えての旅客の営業戦略は。
 「旅客は好調とはいえ時期によって繁閑の差が大きく、輸送量を伸ばす余地はまだまだある。コロナ禍を経て家族や個人といった小さな単位で移動する利用者が増えていることを踏まえ、最近はホームページやSNSでの周知に力を入れている。例えばSNSでは当社のアカウントを開設してフェリーの船内の過ごし方や九州・関西の観光地を発信するといった取り組みを行っている。様々な発信媒体の効果を見ながら広報活動を行っていきたい。子会社の旅行代理店シティライントラベルにおいてもフェリーを活用した様々な旅行商品を提案しているが、特にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)のオフィシャル代理店として『名門大洋フェリーで行くUSJの旅』に力を入れている」
 「“フェリーふくおか”と“フェリーきょうと”はコロナを踏まえて建造計画を変更した。大部屋の『エコノミー』を廃止し、そのスペースに個室感覚で宿泊できる1段ベッドの『コンフォート』という客室を設定した。まだ『コンフォート』の認知度は低く、今後カプセルベッドタイプの『ツーリスト』との差別化を図っていく」
 「また、フェリーを訴求するポイントして価格競争力が挙げられる。移動と宿泊を合わせて提供できることが強みだが、その魅力がまだまだ浸透していないように感じる。ここをどう訴えていくかが鍵になる。大阪・関西万博が25年に開催されるが、九州からの利用者を取り込むチャンスだ。関西のホテルは満室になる可能性も高く、そうした時にフェリーの強みが生かせる。インバウンド旅行者にも訴求していきたい」
 — 2024年問題などを踏まえた貨物の見通しは。
 「トラックドライバーの労働時間規制強化が24年4月から始まるが、早めに対応しようとしているトラック運送事業者が既に利用をスタートしている。当社としても2024年問題を念頭に中小の陸運事業者に営業し、その成果が出ている。新造船ではドライバールームを加増し、受け皿を整備している。有人トラックの比率が上がってきており、ドライバーの休息時間を確保したい企業が増えているのだろう。食品を扱う冷凍車の場合、西・南九州から出発して新門司/大阪南港はフェリーに乗船し、その後陸路で関東まで向かう運行もある」
 「積載貨物の種類は飲料を含めた加工食品、機械、鋼材などが伸びている。加工食品は大きなイベントなどがあると大量に必要な商品が出てくるので、輸送需要が急増する。今夏は猛暑なので飲料がよく動いている。また九州で製造された機械を関東から輸出する荷動きが旺盛だ」
 「2024年問題に伴うモーダルシフトの需要はさらに増えるはずだ。現在貨物は平日に利用が集中している。働き方改革関連法施行後、週末の乗船が落ち込んでいるのが課題である。前述の冷凍車などは月曜日に配達できるよう土・日に乗船する。そういった顧客を掴んでいくとともに、リードタイムのある貨物の乗船日を調整していただくなどの工夫も必要だ」
 「BCPの一環で平時からフェリーを使う企業も出てきた。近年は災害で鉄道や高速道路が使えなくなることが多い。普段から複数の輸送モードを使うことで災害時も供給網を維持しようと考える大手企業が増えているようだ。そういった需要にも応えたい」

■早ければ25年頃からリプレース検討

 — 人材確保の状況は。
 「海陸共に少子化による労働力確保の難しさ、若年層の定着率の問題があるが、船員不足はより深刻だ。これは当社に限ったことではなく業界全体の問題で、少子化の中で船員の成り手を増やし、企業としても定着率向上に向けた職場環境改善に取り組んでいく」
 — カーボンニュートラルなど環境問題への対応は。
 「運航会社単独でできることは限られており、造船所やエネルギー関係企業などと海事業界全体で対応していくしかない。“フェリーおおさかⅡ”と“フェリーきたきゅうしゅうⅡ”は15年に就航しており、船台の確保などを踏まえると遅くとも30年、早ければ25年にはより具体的にリプレース計画を立てる必要がある。業界関係者と情報交換をしながら新燃料など選択していきたい」
 — 今後の新造船も大型化する方針か。
 「直近の新造船を歴代最大船型としたことで、22年度はトラックと乗用車の利用台数が過去最高となった。15年就航の2隻の代替船も大型化は必至だ。ただ、21年度の新造船を上回る積載台数とするには、港の整備が必要であり、本船の大型化と港湾整備を併せて検討する必要がある。また、船価と造船所の選定も課題だ。フェリーは基本的に2隻程度でフルオーダーメイドなので船価が高くなりやすい。また、最近の資源高騰、円安により船価も高騰しており、大型フェリーを建造する国内造船所も減ってきている。次世代フェリーの建造は今まで以上に経営を左右する決断となるだろう」
(聞き手:坪井聖学、伊代野輝)

関連記事

  • カーゴ