2023年5月8日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉝
船員・DX・脱炭素で組合員支援
日本内航海運組合総連合会 河村俊信理事長

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 日本内航海運組合総連合会の河村俊信理事長は本紙インタビューで同連合会の新体制の2年目以降の重点課題として、船員問題への積極的な対応や、内航海運業界のDX(デジタルトランスフォーメーション)、脱炭素の推進に関する業界支援などを挙げた。船員の確保育成では各地域の取り組みを一層サポートするほか、内航船員を輩出する海上技術学校・短期大学校などを運営する海技教育機構(JMETS)との連携をさらに強化する。内航船のDXと船員の福利厚生につながる海上ブローバンド通信の普及にも取り組む考えを示した。

■暫定措置余剰金で支援事業

 — 内航総連は暫定措置事業終了後の新体制を2022年度からスタートさせたが、この1年をの活動を振り返っての感想は。
 「暫定措置事業が21年8月末に終了し、内航総連は物流団体として安定輸送の確保や生産性向上、コンプライアンスの推進などで内航海運業界をサポートしていくことになった。これに向けて22年度から委員会と事務局の組織を刷新し、そのうえで様々な活動に取り組んできた。新体制への移行時のには混乱も懸念されたが、幸い大きな混乱はなく、事務局を預かる身としては安堵している。新体制への移行にあたって、5組合と傘下組合員の皆様に多大なご協力を頂き、感謝申し上げる。また、昨年度は23年度税制改正要望が大きなトピックだったが、国会議員や国土交通省を始めとする関係者の皆様にご協力頂き、お陰様で内航海運に関わる税制を延長することができた」
 「新体制での検討課題として、暫定措置事業の終了に伴う剰余金約24億円の取扱いを決める必要があり、公益的な事業に使用するのであれば非課税扱いということで国税庁と国土交通省からご了承を頂いた。組合員の皆様の大切なお金を内航総連が一時的にお預かりしているものなので、組合員の皆様のお役に立つ形で還元したい。国交省との協議の結果、剰余金で行う事業の内容として『内航海運を支える船員の確保育成・働き方改革の推進』、『内航海運の取引環境の改善・生産性向上』、『内航カーボンニュートラルなど環境対策の推進』—に取り組むことになった。現在具体的な事業の内容について国交省と調整しており、事業の期間は23年度から5年間を目途としている」

■船員確保育成の取り組み強化

 — 内航総連が今年度以降重点的に取り組む活動は。
 「5組合から成る物流団体として新たなスタートを切り、引き続き組合員のための事業と内航海運業界の社会的地位の向上に向けた活動に取り組む。その中で最も大きな課題が、船員の確保育成と働き方改革への対応だ。内航海運業界の船員不足が叫ばれて久しいが、ここに来て日本の社会全体の少子高齢化が進展し、全ての産業で労働力不足が顕在化している中で、組合員の皆様も船員の確保に一層苦労しておられる」
「このため、内航総連として船員確保対策により積極的に取り組んでいく。例えば、若者に訴求するため昨年度からYouTubeチャンネル(https://m.youtube.com/c/ナイコ-海運CH)と特設サイト(https://www.naiko-sen.jp/)の運用を開始した。今年度からは、こうした取り組みを通じて内航海運に興味を持って頂いた方を実際に船員に誘導するための仕組みづくりを行いたい。また、こうした全国的な取り組みだけでなく、それぞれの地域の活動への支援を行う。各地区の船員対策連絡協議会をこれまでもサポートしてきたが、これに各地の海運組合・連合会なども加えて新たなプロジェクトを募集し、それに対して内航総連が資金的な支援を行うことを考えている。また、民間6級海技士養成の応募者数が伸び悩んでいるので、増加に向けた取り組みも検討している」
 「内航船員の新規就職者のうち、現在はJMETS所属校の出身者が2割強を占めている。JMETS所属校と海運業界の協力は内航船員の確保育成で非常に重要なため、各校の校長先生との定期的な連絡会を開催して連携を深めている。内航総連からJMETSに対して学生募集のグッズやパンフレット作成の支援を長年続けているほか、生徒の奨学金に海技教育財団の基金を通じて協力している。内航船の乗船体験の機会提供や海技者セミナーなどの支援にも引き続き取り組む」
 「船員の採用だけでなく職場への定着のための取り組みも重要で、国が進めている船員の働き方改革への業界対応を支援する。船員の労働時間管理などで現場の負担が増えているが、事業者の方々の対応が少しでも円滑に進むよう、制度の周知や労務管理責任者講習の実施、荷主にご理解頂くための荷主対話の実施などを通じてお手伝いしていく。昨年度は労務管理責任者講習を全国で7回・サテライトを含む9会場で開催し、計952人(会場551人・オンライン401人)が受講した。一巡したので、今年度はこれまでできていなかった地区を中心に、まだ受講されていない方を対象に引き続き講習を行う」

■海上ブロードバンド普及支援

 — 内航船のDXに関する支援は。
 「DXはあらゆる産業で避けては通れないが、内航船においては海上ブロードバンド通信が導入しやすい価格で提供されることが前提となる。普及を促進するサービスができるだけ早く始まることを期待する一方、通信キャリアの方々と相談を進めているところだ。それと並行して、組合員の船舶のブロードバンド化に必要な支援について検討している。ブロードバンドが使えるようになるには、ハード面とコスト面の支援が必要だと考えている。やはりブロードバンドの導入が前提だが、組合員が利用できる情報プラットフォームも検討中で、船員行政手続きの電子化の動きも踏まえて議論を進めたい。一方で5組合間の連絡と情報共有の電子化も推進する」
 — 内航海運の脱炭素化に関する取り組みは。
 「カーボンニュートラルは重要な課題だが、外航海運と比べて内航海運ではその道筋がまだはっきりとは見通せず、解を模索している段階だ。連携型省エネ船や代替燃料船に対する補助金、共有建造制度の金利減免などの支援策に期待したいが、内航海運のカーボンニュートラルの道筋が見えるまでにはもう少し時間がかかると思っている。方向性が見えてきた段階で技術開発や先進的な事例の導入に対する支援などを国交省と連携しながら考えていきたい。現在は業界の一部で先進的な研究が行われている段階だが、将来の普及を見据えて取り組みを進めていきたい」
(聞き手:深澤義仁、伊代野輝)

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