2023年3月24日無料公開記事内航NEXT

国内初のメタノール燃料内航タンカー建造
商船三井・田渕海運など、村上秀で24年竣工

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写真は外航メタノール燃料船“Capilano Sun“。今回発表の内航船とは異なる。提供元:商船三井

 商船三井、商船三井内航、田渕海運、新居浜海運、村上秀造船、阪神内燃機工業の6社は、国内初のメタノール燃料内航タンカーの建造を決定した。約570総トン型のケミカル船で、商船三井内航・田渕海運・新居浜海運の3社が共同保有する。村上秀造船グループのカナサシ重工で建造し、2024年12月に竣工する予定。阪神内燃機工業の世界初の船舶用低速4サイクルメタノールエンジンを搭載する。竣工後は三菱商事向けの国内メタノール輸送に従事する。6社が23日発表した。

 6社は昨年3月にメタノール燃料内航タンカー開発に関する戦略的提携を締結。同船を共同保有する商船三井内航・田渕海運・新居浜海運は、昨年12月28日に村上秀造船と建造契約を締結した。同船は3社から新居浜海運に裸用船され、さらに田渕海運を通じて商船三井内航が定期用船する。商船三井内航は三菱商事と定期用船契約を締結する。
 同船の船員配乗・船舶管理は田渕海運と新居浜海運が担当。商船三井と商船三井内航が運航し、メタノール燃料外航船を運航し船舶管理ノウハウを持つ商船三井が商船三井内航をサポートする。メタノール燃料の供給は荷主となる三菱商事が担う。
 投入航路について、商船三井内航の小林洋社長は「定期航路はないが、三菱商事が活用する船として徳山(山口県)でメタノールを積む頻度が高くなると考えている」と説明し、揚げ地は日本各地とした。
 同船は約570総トン、1190重量トン、全長約65.5m、全幅10m、喫水約4.38m、航海速力11.15ノット以上。阪神内燃機の船舶用メタノールエンジン「LA28M」1基を搭載する。23年中に建造を開始する予定。
 同船の開発には経済産業省と国土交通省の公募した「AI・IoT等を活用した更なる輸送効率化推進事業費補助金(内航船の革新的運航効率化実証事業)」の採択を受け活用する。
 メタノールエンジンは世界で初めてA重油で着火するメタノール専焼エンジンとなる。エンジン単体で重油燃料と比較して二酸化炭素(CO2)排出量を11.3%削減できる。24年に完成予定。阪神内燃機工業の明石工場で開発・製造を行い、運転は播磨工場を予定。播磨工場には運転用の新建屋を整備した。阪神内燃機工業の辻岡幸司執行役員は「35年前に一度手掛けたメタノール焚きエンジンの技術を生かして開発している」と説明し、当時と異なるルールへの対応などを開発の難しさに挙げた。
 今回建造するメタノール燃料船は、メタノール燃焼による低排出効果だけでなく、楔型水線と逆涙滴バルブ船首、省エネ船尾パッケージ、運航支援システム、自動荷役システムなどの技術を採用。これらにより重油燃料船と比較し、CO2排出削減率27.73%、エネルギー消費削減効果19.33%を見込んでいる。
 メタノール燃料は常温常圧で液体の燃料のためガス燃料に比べて扱いやすく、ガス取り扱い資格が不要であり、C重油と比べ清浄機などの前処理も不要であるため、船員の取り扱いやすさに利点がある。また、ガス燃料に比べて安全区画が不要になり、より小型な船でも燃料タンクを配置できるため、従来型に近い内燃機関や燃料インフラを活用できる点で内航小型船の次世代燃料として非常に有望とされる。
 一方で、燃料タンクとパイロット燃料用タンクの配置による貨物スペースへの影響が指摘される。「従来燃料で499総トン型の場合、メタノール焚きでは570総トンと70トン近く増量した」と小林社長は説明。「搭載する貨物の種類によるが、補油の回数や補油地を増やすなどの対策はある。貨物倉を効率的に利用できる船型を考えていきたい」(小林社長)。
 船価については明かしていないが従来型燃料に比べ割高で、エンジン単体では従来型と比較し「2割アップ」(小林社長)と説明。船価の上昇が課題の1つとの認識を示し、「今後、2隻、3隻と後続するメタノール燃料船を建造することで低減させていきたい」(小林社長)。現段階では2隻目以降の建造計画はないものの、今後の普及に期待を寄せた。また、他の船種へのメタノール燃料導入についても期待感を示した。
 また、今後の課題として、国内のメタノール供給体制の整備も指摘し、タンクを保有する国内需要家・商社との協業が不可欠とした。
 メタノールは、現在の主たる船舶燃料である重油と比較し、メタノール燃焼時の硫黄酸化物(SOx)排出量を最大99%、粒子状物質(PM)排出量を最大95%、窒素酸化物(NOx)排出量を最大80%、二酸化炭素(CO2)排出量を最大15%削減できる。メタノール燃料はすでに実用化されており、世界で主要な130港程度で供給・補油が可能。多様な排出源から回収したCO2と再生可能エネルギーを利用して製造された水素を合成し生産されたEメタノールや、バイオガス由来のバイオメタノールなど、非化石原料由来のメタノールを活用することで、排出されるネットGHG排出量のさらなる削減につなげることが可能。
 現在、国内のメタノール流通はほとんど輸入で、サウジアラビア、米国、中南米、マレーシア、ブルネイなどから運ばれる。これらのメタノールのほとんどが化石燃料由来となる。同船に使用するメタノール燃料はまず化石燃料由来のメタノールが活用されるが、将来的にはバイオメタノールやEメタノールの活用を目指し、さらなる排出量の削減につなげていく。同船にメタノール燃料を供給する三菱商事も、これら環境対応に優れたバイオメタノールやCCU由来のEメタノールの取り扱いを進める方針だ。
 外航船では既にメタノール燃料の採用が進んでいる。昨年はコンテナを中心に発注が進展。また、フェリーやタグなど小型船でもメタノール燃料の採用が進む。
 商船三井も外航船におけるメタノール燃料を積極的に採用。16年には世界で初めてメタノール二元燃料エンジンを搭載したメタノール運搬船を就航させ、現在5隻メタノール燃料メタノール船を保有・運航。同社の運航する外航メタノール輸送船は19隻となり、重量トンベースで全世界のメタノール輸送船の26%のシェアを誇る。

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