2022年12月27日無料公開記事内航NEXT 洋上風力発電 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉖
フィジカルインターネットや洋上風力に注目
流通科学大・森名誉教授

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流通科学大の森名誉教授。右は大学創始者、中内㓛氏の銅像

 内航海運に詳しい流通科学大学の森隆行名誉教授に、これから注目していることを尋ねると、フィジカルインターネットと洋上風力発電事業を挙げた。フィジカルインターネットは、「共同物流が広まることで、内航にビジネスチャンスが生まれる」と期待。洋上風力発電事業が発展すると、使用される特殊な船舶を操船する技術を持った内航船員が必要になり、そうした船員は操船技術だけでなくシステムの知識も兼ねることが求められるため、「今までと違う意味の船員問題が出てくる」と指摘。開発されている自律運航船にも同じ問題が生じる見方を示した。

 森名誉教授は、大学の研究者たちが2010年に設立した内航海運研究会の代表を長く務めて21年に退任。現在、日本海運経済学会副会長、ISO/TC315(コールドチェーン物流)国内委員会委員長など務めている。インタビューの概要は次のとおり。

■リスクを考慮したサプライチェーン

 — 物流業界で2024年問題が大きな関心となっています。
 「2024年問題について宅配会社と話すと、危機感を強めていた。宅配会社はこれまで、今日出せば明日届くという仕組みを作ってきた。それが難しくなるので、フェリーやRORO船を使ったりするなど動きが出ている。米国では翌日配送は普通ではなくて2~3日後に届く。翌日着を希望すれば追加料金を払う。日本もそうなってくる可能性はある。そうすると3~4日後でいい荷物もあって、船がさらに使われるチャンスが出てくる」
 「日本では物流について『輸送費は安いもの』と思われているのではないか。それが今回の働き方改革や2024年問題で変わると思っている。サプライチェーンはもともと効率性を追求したものだったが、今はそれにプラスしてリスクを考えないといけない。リスクは、戦争、経済摩擦、自然災害などのほか、人権といった要素もあるだろう。いろんなリスクを考えていくと、経済性や合理性だけでなく持続する安定性を含んだサプライチェーンを再構築することが求められる。そうしたサプライチェーンを維持するためにはコストがかかる。環境対策にもコストがかかり投資が必要だ。そういうことを考えると、運賃が安いという時代が続くことは考えにくい」

■内航で混載輸送

 — モーダルシフトを利用する企業が増えるということでしょうか。
 「モーダルシフトは“共同物流”であって、陸上ではいま“共同物流”が流行っている。宅配会社は『幹線輸送は共同物流しないとこれからはやっていけない』と言っている。これからどんどん増えてくると思う。共同物流をすることで積載効率が上がるし、トラックの台数が減らせる」
 「内航海運のこれからを考えるとき2つのことに関心がある。1つはフィジカルインターネットだ。デジタルではなく物理的なインターネットのことで、究極の共同物流といえる。海上コンテナをイメージした特殊な小型の容器を使う。こうした共同物流が発達すれば、小口貨物を集めた混載が出てくる。フォワーダーが外航のように内貿の港で混載することになる。内航のモーダルシフトというとフェリーとRORO船だが、フィジカルインターネットでは内航コンテナ船も使いやすくなる」
 「内航海運では小口貨物が使いづらくて、外航のような混載貨物がない。以前、メーカーの国内物流担当者と話した際、『リスク分散を考えて船を使いたいのだが、フェリー会社から“小口貨物だから”と断られたことがあった。トラック会社がたまたま混載便をやっていたので、そこに頼んだ』ということだった。モーダルシフトをやりたいけれど、小口だから頼めないと思っているメーカーや荷主はいると思う。フィジカルインターネットという形にまでならなくても、共同物流が広まってくると、内航にとってもビジネスチャンスになる」

■変わる船員の役割と教育

 「もう1つ関心があることは洋上風力発電だ。洋上風力発電事業では、洋上風力発電の作業員を輸送する交通船CTV(クルー・トランスファー・ベッセル)、洋上風力発電のメンテナンス支援船SOV(サービス・オペレーション・ベッセル)という特殊な船が必要になってくる。洋上風力は欧州で発達しているが、もともと石油リグの作業船から転換して作られ発達したのがSOVだ。事故昇降式作業台船SEP(セルフ・エレベーティング・プラットフォーム)船もある。だが、そうした船を動かすには特殊な技術がいるため、訓練しないといけない」
 「洋上風力は風車100基で1ファームと言われる。100基以上あって原子力発電1基に相当すると言われる。定期的な点検や修理のために、1ファームにSOV、CTVが必要だ。操船する船員だけでなく、クレーンを操作する要員もいる」
 「内航船員は今でも足りない。洋上風力発電が広まると、特別な研修を受けた船員がたくさん必要になり、どう確保するかだけでなくどう教育していくかという、今までと違う意味の船員問題が出てくる。それが産業発達のボトルネックにならないかと思っている」
 「船員問題については、開発が進められている自動化船、自律運航船でも同じようなことが考えられる。自律運航船が開発されても船員がゼロになるわけではないが、船員の役割が変わってくるだろう。いま船員に求められているのは、操船や運航の技術、海象・気象の知識だが、それは陸上から支援できコントロールできるようになってくる。自律運航船が本格的に普及されるようになってくると、もし航行中にシステムがダウンした場合、対処できるような技術を持った船員が必要だ。船員の教育に質の変化が出てくるので考えていかないといけない」
 「船員問題は大きな問題で、いままでは人が足りないという内容だった。だが新しい産業や技術が出たらどうするのかというのと、どういう内容にするのかという2つの面があると思っている」
 — 最後に一言。
 「内航海運は、フィジカルインターネットもあるし、洋上風力発電もあって、まだまだ期待できる産業だ。だが洋上風力発電や自律運航船のような話では、従来とは違う船員問題がある。数だけでなくて再教育の船員問題に取り組まないと、他の産業が発展しても内航がボトルネックになって妨げになりかねない。内航海運の健全な育成が日本の発展につながる。これからも内航海運の育成に力を入れるべきだと思っている」
(聞き手:坪井聖学)

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