2022年12月20日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉔
25年度めどに新造船整備を検討
プリンス海運・長手裕輔社長

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 プリンス海運は、昨年5月に発生した新造RORO船“白虎”の沈没事故以降、安全への取り組みを強化している。安全運航会議の回数を増やすとともに、全運航船での安全訓練を実施し、全社レベルで安全意識の向上を図っている。また、事故により運航船を1隻失い、現在は用船を通じて3隻運航体制を維持しているが、長期的な事業展開を見据え、新造船の建造を検討する。長手裕輔社長は、「『2024年問題』やドライバー不足といった国内物流の変革と自動車業界の変革、環境対応が進む中でのリプレースとなる。顧客からの声をタイムリーに吸い上げ、陸上輸送と差別化できる、時流に合った船にしていきたい」と話す。「可能であれば2025年度、遅くとも26年にはリプレースしたい」考えだ。

 — プリンス海運の事業概要を伺いたい。
 「北海道から九州まで3隻のRORO船を運航している。日産自動車の新車の内航輸送を主力としているが、近年は『総合的な海運事業者』を目指しており、新車のみならず中古車や中古トラック、重機、トレーラーに積載された雑貨や自動車部品などの輸送にも力を入れている」
 — 20年以降はコロナ禍によるサプライチェーンの混乱や、半導体不足に伴い自動車生産にも影響が出た。現在の事業環境は。
 「コロナ禍に伴う深刻な部品不足により、完成車の生産に影響が出て、新車の輸送が落ち込んだ。反対に新車の供給が滞った分、中古車の輸送が増えた。また、当社グループの集荷代理店であるシー・リンクなどとも連携し、自動車以外の雑貨についても取り込みを進めた。新車のマイナス分を中古車や雑貨などでカバーできており、経営の根幹を揺るがすような深刻な事態には陥らなかったのは幸いだった」
 「今年10月以降は新車の輸送も回復傾向にあり、11月と12月はコロナ前の水準には至らないものの堅調に推移している。加えて、足元では円安の影響により、日本国内で生産される輸出車両を苅田港から横浜港・大黒ふ頭にフィーダー輸送する特需も出ている。来年に向けて光明が差し始めている」
 — 昨年5月には、就航したばかりの新造RORO船“白虎”が衝突事故により、沈没した。事故を受けて、安全に対する意識をどのように変革したか。
 「“白虎”の事故を契機に、安全への取り組みを全社レベルで今まで以上に行っている。例えば、安全運航会議の開催回数を増やした。これまでは営業本部のみが参加していたが、管理部門も参加し、全社レベルで安全への意識向上を図っている。加えて、運航する3隻全船で安全訓練を行った。私自身も実際に現場に赴いて船員の話を聞くとともに、緊張感を持って訓練に臨んだ」
 — 事故により新造船を1隻失ったが、今後の船隊整備の方向性は。
 「現在は用船を通じて3隻体制を維持させていただいている。ただ、長期的に考えると近い将来には新造船を検討していかなければならない。25年度竣工でリプレースできればと考えている」
 「悩ましいのは足元の物価高だ。仮に現行船と同型の船を発注したとしても、建造費は大幅に上昇している。また、環境対応をどのように行っていくかも課題だ。主要顧客から求められるCO2削減というニーズに応えていかなければならない。当然、省エネ化を進めていく計画だが、例えば港内ではバッテリーで航行することもCO2削減に向けた1つの手段だ。燃料については、さまざまな選択肢を検討しているが、インフラの問題が障壁となっている」
 「トラックドライバーの時間外労働規制の強化に伴う『2024年問題』やドライバー不足など、国内流通・国内物流において変革の時期に差し掛かっている。また、自動車業界についても、ガソリン車から電気自動車(EV)へのシフトが進むなど、変化が加速している。大きな変革期でのリプレースとなるため、顧客からの声をタイムリーに吸い上げ、陸上輸送と差別化できる、時流に合った船にしていきたい。例えば、リフタブルデッキを搭載し、車両やトレーラーの需要の変化に柔軟に対応できる船が、今後の車両物流に求められるのではないか。就航後は約20年使う船になるため、先を見通して、最適な船を決断したい」
 — 「2024年問題」やドライバー不足により、モーダルシフトに追い風が吹いている。「総合的な海運事業者」に向けて、どのようにモーダルシフトの受け皿を整備していく方針か。
 「現在、九州方面の西航路では日産自動車の新車輸送のシェアが多いものの、北海道方面の北航路では日産以外の輸送が半分以上を占めている。今後は『2024年問題』もあり、トレーラーに積載された雑貨や飲料・食品など自動車以外の輸送を増やしていきたい。輸送時のCO2削減に向けて、現在は主にトラックで輸送されている大動脈である関東/関西間についても、将来的には荷主から海運・鉄道へのモーダルシフトを望む声が出てくるのではないか。こうした短中距離の輸送需要に応えるためには、新造の大型船を1隻造るより、小回りが利く中小型船を複数隻造る方が望ましいのかもしれない。配船についても、今は川崎港と追浜港をハブに航路を展開しているが、新車輸送以外も考慮した配船パターンに見直すことも検討している。顧客のニーズに合わせた寄港ができればと考えている」
 — モーダルシフトの促進に向けて、港湾に求めることは。
 「モーダルシフトをオールジャパンで推進していくためには、港湾の背後地が不足している点が課題だ。現在はヤードに車両を平置きしているが、1つの可能性として、ヤードを立体化して背後地を上に伸ばしていけたらと考えている。立体化すれば、狭い土地でも多くの車両を蔵置することが可能となり、ヤードに前受けできる台数も増える。モーダルシフトの促進につながるのでぜひ、実現してほしい」
 — 人材不足が大きな課題となっている。対応策についてどのようにお考えか。
 「特に地方港の現場での人材確保が難しくなっている。1つの対応策として、現地代理店を起用するなどアウトソースできる部分は進めていく。デジタル化の取り組みも推進している。現在、新たな社内システムとなる『コンパス』の開発を行っている。同システムに積み荷の明細を入力することで、出港段階でチャーターベースが自動で算出でき、関係者間で把握できるようになる。業務負荷低減につながり、労働力不足に対応できる。来年度から運用を開始していく計画だ」
(聞き手:中村晃輔)

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