2022年11月15日無料公開記事内航NEXT 内航キーマンインタビュー

<内航NEXT>
《連載》内航キーマンインタビュー㉑
船型を大型化、船主に養成設備開放
田渕海運・田渕訓生社長

田渕社長(右)と藤岡専務

 内航ケミカル船・LPG船の大手オペレーターである田渕海運は、船員の確保や働き方改革で多面的な対策を講じている。本船荷役があるタンカーはもともと船員の業務負担が大きいことに加え、ケミカル船は多種多様な貨物を積載することから航海ごとにタンク洗浄が必要で、船員確保が特に課題となる船種の1つ。その対策として、自社保有のケミカル船を大型化し輸送効率を高めたほか、操船シミュレーターを用船船主にも開放し、船主の船員養成を支援する。船隊の大半を船主から用船する同社にとって、「当社と船主は共同体」(田渕訓生社長)。1船主当たり複数隻を用船することで船主の経営安定化を図っている。田渕社長と藤岡伸寿取締役専務執行役員に内航事業の現状と課題などを聞いた。

■多面的な船員対策

 ― 内航事業の現状を伺いたい。
 「売上高に占める内航部門の割合は約6割。主な輸送貨物は有機化学品、プロピレンなどの石油化学ガス、LPGで、船隊はケミカル船が約20隻、LPG船が20隻超となっている。自社船はケミカル船が1200総トン型(2000重量トン型)の“第15雄豊丸”と“Diana Marine”の2隻(いずれも2019年建造)、LPG船が1100総トン型(1400重量トン型)の“第10博晴丸”(21年建造)の1隻で、船隊の大半は船主からの用船だ。ケミカル船は日生(岡山県)の船主から、LPG船は広島、大分、愛媛の船主からの用船が多い。船主1社当たり3~4隻を保有してもらっている。1隻だと船主にとって船員確保の負担が大きいためだ。大手船主からはケミカル船を10隻用船している。以前はいわゆる1杯船主が多かったが、複数隻を保有してもらうことで船主の経営を安定させる営業方針へと変更してかなり経つ。当社向けに特化した船主もおり、船主と共同体であるという認識で事業を運営している」
 ― ケミカル船事業の運営方針や課題は。
 「当社のケミカル船事業は、1航海ごとに異なる貨物を積載し、その都度タンク洗浄が必要なパーセルビジネスが主体だ。内航ケミカル船は一般的にフリー船が7割、固定契約が3割とフリー船が多い分野。当社も契約の固定化に取り組み、専航船に関心を持つ荷主も一部で増えてきていると感じるが、それでもフリー船が多い」
 「ケミカルの国内輸送需要は減ることはなく横ばいと予測している。石油の輸送需要はカーボンニュートラル化に向けて先行きが不透明と言われるが、ケミカルは住宅や自動車、日用品の原材料となり、プラスチック製品の削減の動きはあっても、全体として堅調な需要が見込まれる。そのような中、船員不足問題もあって、船腹供給が不足するおそれがある。小規模な荷主の中には輸送力の確保に不安を感じる人もいるのではないか」
 ― ケミカル船の船員確保は特に課題となっていると聞く。
 「ケミカル船は働き方改革、船員確保の面で苦労が多い船種だ。用船船主が保有している499総トン型(1000重量トン型)や749総トン型(1500重量トン型)は船員が6人など少数で運航されており、船主間で船員の取り合いが生じることもあり、船員費の上昇につながっている。本船荷役のあるタンカーであることに加えて、多様な貨物を積載し航海ごとに船員がタンク洗浄を行うため、ケミカル船は特に船員の作業負担が大きい。これにより労働時間が増える傾向にあり、労働時間規制に対応するために月間2日は船の稼働を停止し調整している状況だ。ハイヤーベースで計算すると、稼働日数を減らす代わりに運賃アップが必要になり、荷主から一部理解をいただいている。荷主と相談しながら、陸上からの支援体制をどこまで講じられるかについても考えていく必要があるだろう」
 ― 船員不足問題への対応策として、船舶の大型化に取り組んでいる。
 「ケミカル船の主流は499型や749型だが、自社船として1200総トン型(2200重量トン型)の大型船を数年前に整備した。現在自社船2隻と用船1隻の計3隻あり、内外併用船としている。徐々に荷主からの理解を得られてきたが、ケミカル貨物はロットが小さく、荷主の貯蔵タンクや港湾設備も小さいことから、大型船を受け入れられるインフラの整備は依然として課題だ。特に消防法への対応として、既存のタンクをリプレースする際に、同じ敷地に設置できるタンクは小型化してしまう。抜本的な対策がなければ解決が難しい」
 「また、当社では船舶の設備面の工夫で船員の労務軽減、安全性の向上を図っている。通常の内航ケミカル船はエンジンルームの近くにポンプ室を設置して一括して荷役作業を行うが、当社は15年ほど前からカーゴポンプにディープウェルポンプを採用し、貨物タンクごとに独立ポンプを設置している。その分船価は上がるが、安全性を考慮して、当社ケミカル船隊はすべてこの方式としている」
 ― LPG船事業についてはどうか。
 「ケミカル船と比べて特定の荷主向けの専航船が多いが、それでも約7割がフリー船となっている。石油化学の荷主が多く、輸送貨物は石化ガスのプロピレンが約7割を占める。LPG船はケミカル船ほど船員不足が課題になってはいないものの、運んでいるガスが目に見えないことから、船員の中にはイメージで嫌煙する人もいるようだ」
 ― 自前の操船シミュレーターを導入し、船主にも開放している。
 「内航オペレーターで操船シミュレーターを導入しているのは当社を含め3社くらいではないか。当社の船員が利用するほか、船主にも開放しており、船長への昇進に当たっての技能の確認などに活用されている。このシミュレーターを導入したことで、当社社員のモチベーションの向上、船主支援につながっただけでなく、海洋少年団やお子さんが見学に来てくれ、社会貢献、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みにもなっており、非常に良かった」

■メタノール焚きに挑戦

 ― 内航船の船隊整備の方針は。
 「定期的に船隊整備を実施している。発注残は、年内と来春に竣工予定の計2隻で、いずれもLPG船。このうち1隻はLPG荷主向けの専航船となる。今後の整備方針として、ケミカル船は499型が最も使い勝手はよいものの、船員確保と効率運航の観点から、1200総トンクラスの大型船を増やしていければよいと考えている。LPG船は、749総トン型(900重量トン型)が中心となり、LPGの輸送にはやや大型の999総トン型(1200重量トン型)が荷主に好まれている。さらなる大型化を進めるとすれば、将来的にケミカル船と同様に内外併用船を考えていくことになるだろう」
 ― 環境対応として、商船三井らと499型のメタノール燃料ケミカル船の建造プロジェクトを進めている。内航船でメタノール焚きは初となる。
 「将来、環境対応で燃料の問題が出てくることや、SDGsへの取り組みも考えて、今回メタノール焚きに取り組むことにした。カーボン対策は当社だけで取り組むことは容易ではなく、大手の商船三井らと連携して勉強を進めたい。メタノールは二酸化炭素(CO2)の削減効果は他の新燃料と比べて小さいが、燃料タンクなどの設備投資にあまり費用がかからず、また、CO2と水素からメタノールをつくる技術が実用化できれば循環型の燃料として有望だと考えている」
 ― 外航LPG船でLPG燃料への転換が進んでいるが、内航LPG船はどうか。
 「当社のLPG船の輸送貨物は石化原料のプロピレンが中心なので、貨物のLPGを活用するかたちのLPG燃料船にはならない。また、小型船でLPGやLNGを燃料として採用しようとすると、燃料タンクの設置スペースの問題も出てくる。LPG荷主向けの専航船で、荷主の理解を得られれば可能性はあるが、もう少し先になるだろう。現在建造中の専航船は従来型の燃料を採用している」
 ― 燃料転換の方向性は。
 「カーボンニュートラルの実現に向けて水素やアンモニアの導入が進められているが、内航事業者は外航事業者とは異なり、中小・零細企業が多い。まずは既存設備を活用できるバイオ燃料、合成燃料などに目を向けるのが現実的ではないか。海運からのCO2排出は陸上の産業から排出される量と比べると小さく、乾いた雑巾を絞るような取り組みになるが、少しでもできるところから取り組んでいきたい」
(聞き手:日下部佳子)
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