2022年8月3日無料公開記事内航NEXT

“りゅうと”のアップデートを実施
内航ミライ研究会、ドック入りに合わせ

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“りゅうと”で実験やアップデートを繰り返していく

 内航ミライ研究会がこのほど広島市内で開催した意見交換会では、同研究会の各グループが取り組み内容を報告したほか、国土交通省中国運輸局と阪神内燃機工業が講演を行った。内航ミライ研究会の報告では、昨年就航した次世代スマートアシストシップ“りゅうと”のドック入りに合わせて、7月末から8月にかけて機器のアップデートや各種実証実験を実施することが明らかにされた。
 内航ミライ研究会は現在、開発、プロジェクト、IoT、船員労務の4グループが活動し、計13事業を展開している。開発グループでは、デジタル電動ウインチとデジタル電動スラスタを駆使した自動離着桟の信頼性向上を目指していく。昨年度は集中荷役遠隔システムや離着桟支援システム、遠隔監視システムを搭載した内航スマートアシストシップ“りゅうと”が就航した。現在も同研究会の実験船「コネクテッドシップ」としてアップデートを繰り返している。7月末からのドック入りに合わせて、機器の大規模なアップデートや実証実験などを行う予定としており、具体的には、係船機のアップデート工事や距離センサーと離着桟の実験、スラスタ・ウインチと連動した統合制御パネル「ミライパネル」と陸上サポートシステムとしてセンサー情報を統合表示して正常性などを確認する「ミライヘルスモニター」の改造を行う。今後も引き続き船員の労務負荷軽減に向けて、特に離着桟と人の動きについて研究して効率化を図っていく方針だ。また将来的には、同研究会が目指す「シップス・インテグレーション・マネージャー(SIM)」の2隻目のコンセプト船「SIM SHIPⅡ」の検討も進めていく。
 プロジェクトグループでは、船員の労働環境改善に向けて機器の電動化を通じた業務の省力化を検討するほか、高度な船内デジタルネットワークを有する内航船向けのサイバーセキュリティーガイドラインの策定や、重度の船内機器故障を防ぐことを目的とした陸上から機器を遠隔監視するサポートシステムの改善などを図る方針だ。
 IoTグループは、電力線通信(PLC)の活用や、データや情報を基にした数値化による各種課題の「見える化」、現在アナログ作業で行っている業務の自動化を検討していく。さらに、内航船に電波受信器を設置して、日本の電波状況の調査を実施することで、日本の全海域を対象とした携帯電波状況を把握できるマップを作成する方針だ。
 船員労務グループでは昨年度、労働実態詳細調査を実施したほか、船員の健康管理や船陸間通信の検討、居住区のリデザイン化、労務管理や雇い入れ行政手続きなど船内業務の電子化の検討を行った。今年度は、内航船の船員に優しい船づくりに向けた「やさしさ手引書」の作成と実労働業務への具体的活用方法の検討、船内電子化に関する船員勤怠管理アプリの検証・提案などを実施していく。

■中国運輸局と阪神内燃機が講演

 中国運輸局の板倉輝幸海上安全環境部長は、海事産業強化法と内航カーボンニュートラルに向けての国の取り組みを説明した。内航海運の脱炭素化に向けては現在、国交省海事局が連携型省エネ船の設計・開発について検討を進めている。板倉部長は、「建造コストが上がる分、一部を補助することを検討している。鉄道建設・運輸施設整備支援機構による金利優遇についても検討を進めている。こうした支援を通じて、連携型省エネ船を普及していく」と述べた。また中国運輸局として今年3月に、「せとうち海事産業サポーターズ会議(SMIS)」に参加したことにも触れ、「海事産業が集結する瀬戸内地区で、全国に先駆けたモデル事業など具体的なプロジェクトの創出を支援していくため、意見交換を行っている」と述べた。
 阪神内燃機工業の大山俊治氏は、「“脱炭素”によって“内航のミライ”はどう変わるのか」と題して講演した。次世代燃料として期待されるLNGや水素、アンモニア、バイオ燃料、バッテリーの利点と内航船への導入に当たっての課題について紹介した。
 LNG燃料については、CO2を削減できるが、カーボンフリーでない点を指摘したほか、超低温での取り扱いやタンク容量が大きくなるため小型の内航船への搭載が難しい点を課題として挙げた。また、「ガス焚きは、エンジンの燃焼方法が異なるため、メンテナンス方法などが変わる。考えて取り組まないと、日々の安全運航に影響を与えてしまう可能性もある」と指摘した。
 メタノールについては、タンクはLNGと同様に大型化が強いられるが、「常温で取り扱える点で使い勝手が良く、燃料として汎用性が高い」と説明した。「難燃性燃料ではあるが、エンジン側で工夫すれば使い物になると考えている」とした。
 水素はカーボンフリー燃料となるが、エネルギー密度の問題や極低温で取り扱う必要があり、「課題は多く、内航船での普及は難しいのではないか」との見方を示した。アンモニアついては、「水素と比べて温度の問題はなくなるが、毒性がある。亜酸化窒素を発生させないためにエンジン側で工夫する必要がある」と話した。MANエナジーソリューションズ(MAN)が2024年にアンモニアを燃料とするエンジンを市場投入する予定で、外航などの大型船ではアンモニア焚きが進化している。だが大山氏は、「小型の内航船でアンモニア焚きエンジンができるようになるのか注視していかなければならない」と述べた。
 バッテリーに関しては、エネルギー密度の課題を挙げ、「現状で内航船に適用するのが難しい」と述べた。バイオ燃料は、「現状使っているエンジンを使える点がメリットだ。一方で、燃料の供給価格が一番の課題となる」と話した。
 次世代エネルギーの課題について紹介した上で、「脱炭素はエンジンなど技術の進化だけでは進まない。船主とメーカーが、何が普及するのかということを考え、知恵を絞っていく必要がある。また増加するコストについて、荷主やオペレーターに理解してもらうほか、バンカリングや総トン数などの法規制の見直しも必要だ。これらの課題を解決した先に真の脱炭素化が見えてくる」と述べた。

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