2022年7月28日無料公開記事内航NEXT 内航船主

《連載》内航船主<下>
外航船進出が困難に
案件不足や船価高で

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内航船主の成長戦略に壁

 内航船主が外航船分野に進出するハードルが劇的に上がった。既存の外航船主でさえ投資案件不足に悩み、償却資産の確保が難しく、案件の絶対量が不足しているからだ。船価高も大きく影響しており、従来よりも多くの自己資金を準備しなければならない。オペレーターによる安全運航への要請も強まるばかりで、外航船主業の経営は難しさを増している。内航船主の成長戦略の1つである外航参入の道が塞がれようとしている。

 愛媛県の内航船主大手が最近、近海船を保有して外航船分野に進出したそうだが、この手の話題を聞く機会がほとんどなくなった。「内航船主が外航に参入した事例は最近ではほとんどないのではないか」(商社関係者)。内航船主にとって外航への進出は、業容拡大や生き残りに向けた施策の1つだったが、それが難しい時代を迎えている。
 2019年末頃までは、海外船社とのBBC(裸用船)をきっかけに外航船保有に進出した内航船主が目立っていた。九州地区の内航船主でこうした動きが増えていた。BBCとは、主として欧州船主が保有船を国内船主に売却し、当該船を裸用船する「BBC(ベア・ボート・チャーター)案件」のことを指す。償却資産不足に悩む船主の投資先として脚光を浴びていた。投資主体が外航の国内船主にとどまらず、内航船主にまで拡がっていた。
 もともと大半の外航船主は、内航船主業を祖業としている。近海船から始め、遠洋などで外航船隊を拡大してきた。いまや50隻を超えるような船隊規模を誇る大船主たちも、内航船を経て今の地位を築いた。このため内航船主による外航船への進出ブームは過去に何度も発生している。
 一番の盛り上がりを見せたのが2008年前半までの海運バブル期。世界的な新造船需要の拡大を受けて、保有の受け皿拡大が急務になり、内航船主にも保有チャンスが巡ってきた。既存の外航船主も船隊を拡大したが、需要増大に応えきれず、新規参入が相次いだ。内航だけでなく、舶用メーカーやタオルメーカーなど異業種からの参入も目立った。
 2011年頃の超円高期も内航船主が外航船保有に乗り出す動きが目立った。伝統的な外航船主の多くが円高による業績悪化で新規投資ができない中、オペレーターや有力船主などの支援でバルカーを発注する内航船主が増加した。当時、今治市や九州地方、中国地方、関西などでそれぞれ複数社が内航から外航に参入した。
 その後、こうした動きはしばらく途絶えていた。金融機関による積極的な貸出姿勢でファイナンス環境は良好だったが、新造船などの投資案件が不足していたからだ。「伝統のある外航船主でも案件不足に見舞われており、内航船主に回ってくる案件はほとんどない」と当時指摘されていた。こうした状況を変えたのがBBC取引の急増だった。
 BBC商談は、金融機関も後押しした。新規参入などもあり、船舶融資をめぐる金融機関同士の競争は激しい。以前なら資金調達することが難しかった内航船主向けに、比較的少額の自己資金でもファイナンスする地銀が増えてきた。案件を内航船主に紹介する商社やブローカーの存在も大きかった。
 内航船主が外航船に進出するのはなぜか。商社や金融関係者は、内航海運ビジネスの閉塞感を指摘する。どの内航船主も船員と船隊の高齢化に直面しているが、用船料はなかなか上がらず、成長の機会どころか再投資もままならない。
 内航船業界の閉塞感にあまり大きな変化はないが、外航船への進出ハードルはここ数年で劇的に上がってしまった。いまは既存の外航船主にとっても案件不足の時代。償却資産の確保にみな頭を悩ませている。商社関係者も「案件が潤沢にあるわけではないので、貴重な案件は既存の取引先に紹介する。内航船主にまで案件を持って行けるほどの余裕はない」と率直だ。
 外航進出のハードルが上がっている要因には船価高もある。「昔は近海船を10億円超で建造でき、内航で稼いだ船主は自己資金2億円で参入できた。今の船価は20億円超。手金が4億円も必要になる。外航船の最小船型でさえ、手が出ないほど船価が高騰している」(商社関係者)。安全運航への要請も高まるばかりで、船舶管理能力も厳しく査定される。
 「投資案件不足、船価高、強まる安全運航への要請などを考えると、これから内航船主が外航船に進出していくのは至難の業だ」(金融関係者)。内航船主の成長戦略の1つであった外航進出への道が細くなっている。

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