2025年12月4日無料公開記事舶用トップインタビュー
《シリーズ》舶用トップインタビュー
生産能力拡充で供給責任果たす
中北製作所、印の新興企業と協業し船舶DXも加速
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流体制御装置の総合メーカーである中北製作所は、国内造船の稼働上昇を背景に、2008年前後の繁忙期に迫る売上水準に回復している。受注残も厚く、工場はフル稼働が続く。宮田彰久社長は「短期の山ではなく、息の長い繁忙期とみている。供給責任を踏まえ、安定供給を優先する」と語る。生産能力の拡充に加え、インドとシンガポールに拠点を置く海事向けデジタルソリューション企業スマート・シップ・ハブ(Smart Ship Hub、SSH)と新たに協業を開始し、運航最適化、荷役、保全を一体で支えるデジタル支援を展開する方針だ。宮田社長に取り組みの現状やSSHとの協業、今後の展望を聞いた。
■3、4年先まで仕事量を確保
― 足元の事業環境は。
「どの舶用機器メーカーも似た状況だろうが、リーマン・ショック前後以来の忙しさだ。工場はフル稼働で、3、4年先まで仕事が埋まっており、向こう4~5年は同様の環境が続くと見ている。2025年5月期の連結売上は約230億円で、08年の水準に近づいてきた。当社は供給責任の程度が大きいメーカーの1社だ。確実に供給することに徹する」
― 生産体制の強化は。
「工場レイアウトや生産スペースの拡張、切削加工機の導入による生産合理化、外部倉庫への移転で生産スペースを確保するなど、製造キャパ向上の投資を計画している。外注先の活用も併用する。韓国子会社や昨年立ち上げた中国工場の製造キャパも活用し、生産性を高める」
― 海外拠点について詳しく伺いたい。
「昨年子会社化した韓国バタフライバルブメーカーのエースバルブは売上寄与が概ね2割の感覚だ。中国工場は立ち上げ段階で、段階的に稼働を高める」
― 現在の販売の地域バランスは。
「およそだが、日本7、中国2、韓国1の感覚だ。以前は中韓でも大きなシェアを持っていたが、現地メーカーの台頭で様相が変わった。いまは構成要素を組み替え、再び選ばれるための布石を打っている」
― アフターサービスの強化策は。
「売り切りにしないのが当社の文化だ。保証の有無にかかわらず就航後も丁寧に対応する。国内外の代理店網の見直しを進めており、部品供給とエンジニア派遣の初動を速める体制づくりに着手した。東南アジアでは再編も視野に入れている」
― 地政学変化の受け止めは。
「日本の造船業界には追い風だと見ている。近年、中国造船業はコスト優位に加えて技術水準も高めてきた。国家安全保障の観点が造船の在り方を見直す転機になり得る。日本の顧客を今後も中心に据えつつ、当社は過去10年で中韓向けシェアが低下した現実を踏まえ、サプライチェーンの再構築を進めている。先に触れた韓国子会社や中国工場の活用を軸に、日本の造船業に鍛えられたQCD(品質・コスト・納期)をさらに磨く。各国で求められる品質要請が異なるため、基本は地産地消とし、日本で製造したものは日本の顧客へ、韓国は韓国の顧客へ、中国は中国の顧客へ供給する。地域ごとにQCDを再設定し、地産地消の比率を高めていく」
■SSHとの協業で船舶DXを加速
― デジタル化への取り組みは。
「『縦の深堀り』と『横の広がり』の2軸で進めている。縦の深堀りは、当社が高いシェアを持つバルブ遠隔制御装置(VRCS)における自動化・省人化の開発だ。内航の荷役自動化は、複数の船主と共同で開発を進めており、国土交通省の助成も受けながら自動荷役の高度化に取り組んでいる。横の広がりはデータ利活用で、SSH社との協業が核になる」
― SSHと協業を開始した。具体的な内容は。
「SSHと協業し、データ利活用によるアナライズやアドバイス機能の強化を行っている。SSHの主力製品である統合デジタルプラットフォーム(Smart Ship Hub)を軸に、監視・可視化に加え、燃費・安全・省力化に資する運用アドバイスまで対応する運航DXを進めている。同サービスは、他社プラットフォームとも接続可能で、フルパッケージでの導入も、個別メニューの導入も可能だ」
「インドのパフォーマンスセンターで、遠隔監視・助言するオプションサービスもある。当社大阪本社内にもバラストとカーゴに特化したパフォーマンスセンターを設置予定で、体制整備を進めている」
― 具体的な機能は。
「ウェザールーティング、推進・プロペラ効率の最適化に向けた助言、主機の監視とメンテナンス時期の助言、荷役・バラスト監視、燃費実績格付け制度(CII)スコアの可視化、AIカメラによる監視といった機能を備える。現在、カーゴとバラストの見守りサービスも開発中だ。将来的には操舵・主機・荷役制御まで自動化することを視野に入れ、まずはデータ活用による運用支援から着手している」
「開発はSSHのインド側メンバーが中心だが、当社でも技術やインスペクションやインスタレーションを内製化する必要性を感じ、ヘッドハンティング的にデータサイエンティストや組み込みソフトウエア開発者などを採用している」
― 国内での採用実績は。
「内航は荷役効率化や船員の軽労化、外航は燃費・運航最適化の需要が強い。昨年5月に両社による展開を本格始動し、これまで約20隻を受注済み。年末までに88隻分の受注を目標としている」
― 社内DXの取り組みは。
「基幹システムの刷新、3DCADの活用、RPAなどを進捗させている。船舶関連で言うと、修理・クレーム履歴をAIに学習させた社内チャットを自社開発している。インド工科大学(IIT)出身のエンジニアらが中核となり、ナレッジ検索の高速化に取り組んでいる。今後は予防・予知保全につなげたい」
― 環境関連の開発は。
「次世代燃料船の多くの燃料は陸上プラントで従前から実績があり、陸で鍛えた流体制御技術を船舶仕様にカスタマイズすることで対応可能だ。メタノール、アンモニア、水素向けのバルブは技術開発や製品化を完了済みであり、顧客販売を進めている。また、昨今話題の液化二酸化炭素運搬船も技術的には十分対応可能だと思っており、顧客のご用命があれば製品開発を進めて行く」
(聞き手:岡部ソフィ満有子)