2025年6月6日無料公開記事日本造船協業の本気
《連載》日本造船、協業の本気②
設計連携で余力を将来技術に
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日本の造船業では従来、将来技術や基礎研究の分野は「協調領域」に属するものとして、各社が共同プロジェクト(JIP)などを通じて積極的に連携してきた。最近でも、実海域性能や自律運航といった次世代技術の開発・実証プロジェクトには、造船各社が協力して人材を出している。一方、目の前のビジネスに直結する設計や営業の場面は「競争領域」と位置付けられ、横のつながりは薄かった。
かつて総合重工系同士では、LNG船商談への共同応札や、バルカーの図面共有など、状況に応じて比較的柔軟に協力する場面もあった。しかし、業界構造の変化とともに競争意識が強まり、近年は連携体制を取りにくくなっていた。
そうした中、液化二酸化炭素(LCO2)運搬船の標準化検討や、液化水素運搬船の共同建造検討といった次世代船での連携は、遠い将来技術の研究というより、近い将来の実ビジネスに地続きの領域へと協業が広がってきた側面がある。
さらに、船型の共同開発や図面共有など、実ビジネスに直接関わる設計協業もクローズアップされるようになってきた。背景にあるのは、技術者リソース不足の深刻化だ。造船所自身の人手不足に加え、特に中小規模の造船所が設計作業の多くを依存している設計外注企業の高齢化や縮小も影響している。一方で船舶は高度化し、1隻あたりの設計負荷は増している。
脱炭素化に伴う燃料の多様化も負担を重くする。「例えばケープサイズを開発するにしても、従来燃料、LNG燃料、メタノール、アンモニアなど、燃料ごとに対応した開発が必要で、負担や時間は膨大になる」(名村造船所の名村建介社長)という。燃料転換に先行する造船所ほど、この危機感に敏感だ。「早晩、『競争領域』などと言っていられない状況になってくる」(造船経営者)との声も聞かれる。
対応には、単なる協業による効率化にとどまらず、3D設計への転換や、その先のモデルベース開発手法の導入など、抜本的な見直しが不可欠だ。しかし、「設計の3D化が必要と言っても、いま受注している船は2Dで設計しなければならず、同時並行で3D化プロジェクトを進める人の余裕はないのが実情」(設計システム関係者)、「バーチャルエンジニアリングにも関心はあるが、その研究に充てる人的余裕がない」(設計担当役員)といった声が上がる。日々の実作業に追われ、将来の省力化に手を打てないのが実態だ。
このため、「例えば構造計算や復原性計算といった機能を他社と共有し、その分の余力で設計DXプロジェクトに人を回すなど、現行の設計業務で少しでも連携して余力を生み出すことを考えるべきだ」(造船経営者)との見方もある。
尾道造船の中部隆社長は、「人手不足は設計よりも、むしろ現場の方が深刻だ」とした上で、「ヒューマノイドのような研究を造船所同士で一緒に進める必要があるのではないか。そのためにも思い切って図面を共有し、そうした研究に人を回してはどうか」と提案する。
実ビジネスで協業し、そこで生まれた余力を将来技術に振り向ける。船とモノづくりの転換期にあって、「競争領域」という考え方自体を見直す必要も出てきた。