2024年10月1日無料公開記事洋上風力発電
浮体構造物のサプライチェーン構築
住友商事と日揮、年間100基供給目指す
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住友商事と日揮は洋上風力発電の浮体構造物について、詳細設計・製造・納入で協業可能性を検討すべく、7月に覚書を締結した。浮体構造物のサプライチェーン構築に向け、生産・供給体制の低コスト化・効率化・量産化に取り組む。これにより、将来的には年間100基の浮体構造物の供給体制を整えていきたい考えだ。具体的には浮体基礎デザインを基にした浮体部材の詳細設計や、浮体製造のパートナーとなる鉄鋼系・造船系メーカーの開拓、発注、製造管理、洋上風力発電の拠点港への浮体の輸送について、協業可能性を検討する。
住友商事グループと日揮グループはFPSO保有・用船事業での協業をはじめ、水素製造事業や海外工業団地事業などでも協力するなど多分野で関係を構築してきた。今回の浮体式洋上風力発電のサプライチェーン事業開発においても過去数年にわたり協業を行っており、浮体デザインの製造検討や現地サプライチェーン調査などを実施してきた。
住友商事の豊田高徳船舶海洋SBU部長は今回の事業開発について、「ポイントは量産化だ。例えば総発電容量1.5GWの洋上風力発電所を建設すると、15MW級風車が100基必要になる。今後浮体式洋上風力発電が商用化していくうえで、これを2〜3年で供給できるような体制を構築していかなければいけない」と語る。
住友商事は浮体の需要について、2050年ごろには年間約800基の新造浮体が必要となると予測する。一方でこれだけの需要を賄うにあたっては個社の製造能力では限界がある。住友商事と日揮は造船や鉄鋼をはじめ多様な製造業者とアライアンスを組み、分業による効率化を図ることで量産化体制を構築していく狙いだ。また、既存産業の既存の設備を可能な限り使用することで低コスト化にも取り組む。
同事業は日本だけでなく世界全体の浮体式洋上風力市場をターゲットとする。世界市場を視野に入れたサプライチェーン構築に向けては浮体構造物をモジュール化することにより製造・輸送の柔軟性を高める。国内外のパートナー製造業者で浮体部材を製造、現地に輸送し、案件によっては現地での組み立てを行うというコンセプトだ。
浮体のモジュール化をはじめ、設計から施工管理についてはプラント建設などの分野で知見を持つ日揮が取り組む。同社は2018年に洋上風力の専門部署を設置し、着床式・浮体式の両分野でFEED(基本設計)や実現可能性調査などに携わってきた。「いかに現地で組み立てやすい設計/仕様にするかがモジュール化のポイントだ。その最適化を含めた詳細設計の検討で当社のバリューを活かしていく」(日揮の武富一樹リニューアブルエネルギープロジェクト部グループリーダー)。
浮体基礎の形式については、あらゆるデザインに対応していく方針だ。プロジェクト開発事業者が採用した浮体基礎デザインをもとに、浮体部材の詳細設計を手がけていく。また、同事業には国内外の多数のメーカーが参画することから品質の均一化を図る必要がある。日揮はデザイン品質と製造品質の均一化を図る、製造工程全体の取りまとめを行う。
住友商事は同事業において、グローバルネットワークを活かし、営業や資金調達、浮体部材の輸送を担当する。同社はオランダの重量物運搬船の保有・運航会社や、ノルウェーの洋上風力支援船保有・運航会社への出資を行うなど、近年洋上風力発電のサプライチェーン分野に積極的に投資を行っている。また、大島造船所とは同社が保有する造船用大型設備と造船業で培った量産技術の浮体構造物製造への活用を視野に協議を進めている。
同事業においては、2020年代までに商業規模の浮体式洋上風力プロジェクトへの浮体の供給を開始したい考えだ。「洋上風力事業が先行する欧州をはじめとする海外案件で実績を積み、日本の浮体式洋上風力市場にそのノウハウを還元していく」(住友商事の郷田亮船舶海洋SBU海洋事業開発チーム長)