2026年2月6日無料公開記事海事産業とAI
《シリーズ》海事産業とAI
船内映像をAIで解析、リスク検知
シップイン、保険会社も事故予防に注目
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ペリーCEO(左)とイーフー・ワン事業開発ダイレクター
米ボストンを拠点とするスタートアップのシップイン(ShipIn)は、船内の映像を人工知能(AI)で解析して、各種リスクをリアルタイムで検知するプラットフォーム「FleetVision」を提供する。世界で60社超の船主・船舶管理会社が採用し、昨年12月にはP&I保険大手ノーススタンダードが同社システムのトライアル費用を全面負担することを決定し、事故予防の有力な手段として評価している。日本でも船主のトライアルが始まった。創業者のオシャー・ペリーCEOに聞いた。
シップインは設立6年のスタートアップで、現在の社員数は95人。コンテナ船、タンカー、バルカーや、タグボート、フェリーなど幅広い船種1000隻以上で同社システムが稼働している。
中核となるのが、AI搭載の映像解析プラットフォーム「FleetVision」だ。船内に設置されたネットワークカメラ(CCTV)で、ブリッジや甲板、機関室、貨物エリアなどのポイントを撮影し、船内の状況を映像として取得、これをAIで解析してリスクを自動検知する仕組みだ。「1隻あたり月間約1万時間にも及ぶ映像データを、AIを適用してリアルタイムで処理・解析する」とペリーCEOは説明する。AIが安全、運航、セキュリティ、機器状態に関する異常やリスク要因を自動的に検出し、即時アラートとして変換する。映像以外に船内のさまざまなデータソースやアラームシステムとの連携も進めており、統合的にリスクを解析する。
同社システムの安全管理の考え方は大きく2つ。1つは、機器や設備の状態を監視する「コンディションベース」の安全管理だ。主機・補機、配管、マニホールドなどを対象に、温度異常や煙、漏えいといった兆候をAIで検知する。
もう1つが、乗組員の行動に着目した「ビヘイビアベース」の安全管理。ブリッジでの当直状況や見張りの有無、作業の進め方などを映像から把握し、ヒューマンエラーに起因するリスクを可視化する。「船は大型化し、新しい機器や燃料、報告義務も増えているが、乗組員の数は増えていない」とペリーCEOは指摘する。従来のポリシーや訓練だけでは不十分で、センシングとAIによる支援が必要との認識を示す。
例えば近年課題となっている船上火災リスクへの対応としては、光学センサーと熱センサーも活用して異常を検知すると機関長に通知する仕組みを取り入れている。
検知結果は、船上だけでなく陸上の船舶管理会社や船主にも共有される。日々大量に発生する検知をそのまま送るのではなく、KPIとして整理し、フリート全体を俯瞰できる形で提供する点が特徴。ペリーCEOは「人手による報告やバイアスのない形で、船の状態を把握できる」と語る。また、これら解析データを基に、シップインのシステムは船舶ごとにリスクスコアやパフォーマンススコアを算出する。船長は自船の状態を船隊内や同船種全体と比較し、改善行動につなげることができるという。
こうした取り組みが評価され、保険業界の動きにもつながった。株主には世界最大級の再保険会社ミュンヘン再保険も名を連ねる。またノーススタンダードが昨年、会員船主向けにシップインのシステムを無償で試せるパイロットプログラムを開始した。「業界では初めてのこと。事故予防効果が評価された」(ペリーCEO)。
同社は船舶の現場ノウハウを重視する。オペレーションチームは元船員で構成されており、ペリーCEO自身も元一等航海士。システム開発者に対しても独自プログラムを設けて実船訓練を受けさせている。「右舷と左舷、ピッチやロールなど基本を理解しなければ海事向けのAIシステムは作れない」との考えだ。
今後は日本市場に注力する。ペリーCEOは「日本は船舶の自動化でトップクラス。当社は乗組員の負担を減らすためのツール開発を目指しており、日本ほど適した市場はない」とし、すでに日本の船主と複数隻でトライアルを進めていることも明らかにした。
検知結果とスコアを船隊全体で管理